first season 第三章
第9話 訓練前
咲「えぇぇ!?」
9番隊。隊長室。1人の女性の声がドアを突き破るように聞こえてくる。
咲「隊員増やしてシンタ君を班長にする。それも2ヶ月で!?絶対無理ですよ!!」
❮9番隊 オペレーター:三月 咲(20)❯
高級感のある黒い椅子にぐったりと座り込む桜花。
桜花「私も……そう……思う……」
❮9番隊 隊長:喜多 桜花(21)レート790❯
あの時はノリで乗り切ったが今思えばかなり難しい事だ。
今までさんざん部下も取らずにいた自分が、部下を増やして育てる。
そんな事、経験者でも容易では無い。
はぁ。というため息が口から漏れる。
椅子を右に回転させポケットからライターを取り出す。
口元に咥えたタバコの先に火をつける。
カチッというライターの音と共に煙が部屋に昇る。
桜花「ふぅ……。マジどうしようかな……。」
悩む桜花を横目にオペレーターの咲が一言ポツリと呟く。
咲「訓練でもしてあげたらいいのに」
桜花「いやでもさ?私が2ヶ月間、ミッチリ、シンタを訓練した所で隊員はどうやって増やすの?選別しなきゃだし、才能持ちの人間なんて訓練学校以外そう簡単には見つからなくない?」
咲「そんなの私に言われても……」
辺りに沈黙が続く……。
だがどのみち前に進むしかない。
咲「まぁとりあえず、シンタ君を育てつつ。一緒に任務に行って、それを繰り返すしかないですよね。今の所は。」
「隊員については、募集かけたり何とかやれる事はやってみます。それでいいですか?」
現状のできる最善の策を出されたため、反論する余地も無く桜花は渋々了承した。
今出来る事は、”シンタを育てる”事。
班長にするためにはレート400を越えなければいけない。
特別観察対象のシンタを育て、班長にするなど。絶対会長が許さないと思っていた。
何故この案を提案してきたかは分からないが、
今はとりあえずそこに集中する事にした。
--隊員室 リビング
ソファに座ってスマホを眺めている。1人の青年。泉シンタ。
後ろから元気良く桜花が声をかける
桜花「おうっ!シンタ!修行しに行くぞ!」
シンタ「急ですね……」
❮9番隊 隊員:泉 シンタ(17)レート120❯
桜花「いろいろ事情があって今日からお前を鍛えることにした!」
元気はつらつと喋る桜花を横目にシンタは少しうつむいていた。
桜花「さぁ!行く……」
そう言い歩き出した桜花を止めるように話しかける。
シンタ「聞かないんですか……?俺の才能の事とか、エデンの事とか」
うつ向くシンタを気にしつつも言葉をかける。
桜花「今はいいわ」
桜花「お前が言いたくなったらでいいよ」
自分もまだ隠している事がある。お互いを知って信頼しあって、時間が空いたらゆっくり話せばいい。
桜花の考えはいつも適当だが、こういう時だけは頼りになる。
HHAの本部には多くの訓練室がある。
災害を想定した崩壊都市。
天候が荒れまくる嵐。
街灯が全く無い夜の街。
昼間の街。
そして、壁や天井。全てが真っ白のトレーニングルーム。
桜花「何もねぇーだろ?」
そう言い、真っ白い部屋で手を広げる
桜花「トレーニングルーム。壁も天井も真っ白!ここなら才能を存分に使っても問題ない!」
辺りを見回すシンタ。こんな真っ白な部屋は見たことがない。
シンタ「それで、この人は誰ですか?」
桜花の横には1人の女性がいた。
桜花「あぁ。この娘は、HHAのいじられキャラ!」
桜花「1番隊班長の水谷 香織ちゃん」
水谷「何で私が呼ばれたんスか?」
❮1番隊 水谷班:水谷 香織(18)レート510❯
不思議な顔をしている水谷。
訓練に付き合わせられるとは知っていたが、何故自分に声が掛かったか全く分からなかった。
シンタ「それで訓練って……?」
桜花「お前って、刀使うんだったよな確か」
首をかしげるシンタを横目に、ジャケットの内から、2本のタバコを取り出した。
桜花「今から、私と香織ちゃんが勝負する」
水谷「え?」
桜花「お前はその勝負を見てるだけでいい。私の剣裁きと香織ちゃんの剣裁きがどう違うか。」
桜花「自分で考えて、私に伝えてくれ。」
桜花「木刀」
持った2本のタバコがたちまち形を変形させ、2本の木刀へと変わる。
桜花「ほらよっ」
桜花は1本の木刀を水谷へと投げる。
水谷「ち、ちょっと待ってもらっていいっ」
桜花「行くぞ」
その言葉と共に、1歩目を踏み出した桜花の木刀は数秒の間に水谷の顔元に迫る。
水谷「ひっ!」
とっさに持った木刀を顔前に出す。
桜花はそれを見た瞬間、腰を深く落とし直前にガードされそうだった木刀を空中に投げる。
水谷はその空中に投げられた木刀を一瞬見てしまった。
手を地面につけ右足で一瞬を見落とした水谷の足首を勢い良く蹴る。
バランスを崩し後ろに倒れる水谷にそのまま、のスピードで馬乗りになる。
落ちてきた木刀を左手で掴み水谷の首元へと向ける。
水谷「無理っス無理っス!!マジ勘弁してくださいっス!!」
涙めに訴える水谷
シンタには早すぎてその動きを追うだけでも精一杯だった。
一発目の攻撃をかわした時点で勝負はついていた。
最初から桜花は木刀を当てる気はなかった。
水谷がとっさにガードに入るという前提で突きを狙ったため、直ぐに次の動作に切り替えられた。
桜花「戦いっていうのはな、”読み合い”だよ」
桜花「敵の先手先手を取った方の勝ち」
桜花「な?簡単だろ?」
桜花はスタスタとシンタの方へと歩く。
自分の木刀をシンタに渡す。
桜花「次はお前だ。」
桜花「香織ちゃんから1本でも取れたら今日は終わりでいい」
渡された木刀を両手で持つシンタ。
訓練学校でも人形相手に扱った事はあるが、いざ対人となれば訳が違う。
シンタ「分かりました……やってみます……」
自信なさげに木刀を力強く握る。
同時に水谷が体を起こし、木刀を握り直す。
水谷「新人にカッコ悪い所見せちゃったっスね」
水谷「手加減しないっスよ」
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