第6話 シンタの才能
「お姉ちゃぁあんん?」
倒れたハズの女の子は足が再生している。
撃ち抜いた銃痕の後も無く、完全にだ。
人間には出来ない離れ業。超速再生。人食。異形の怪物。それが人喰いだ。
瑠亜柰「待たせたな……。人喰い」
❮3番隊 隊長:橘 瑠亜柰(19) レート720❯
そう言うと、瑠亜柰は腰を深く落とし、刀に手を添える。
左手で鞘を支え右手で柄を握る。
「おねぇちゃぁあん?!」
背中から生えた無数の手が女の子からのびてくる。
瑠亜柰「月光」
ほんの数秒、いや数秒も経ってないだろう。
高速で抜いた刀は目で終えない。
刀の残像が残っているほどのスピードで刀を抜いた。
抜いた瞬間、刀から放たれる光の斬撃は音速を越え光の速度えとたどり着く。
「おねぇちゃぁあん?」
女の子はゆっくりと自分の腹部を見る。
頭が追い付いていない。自分の腹部には光の残像が残っている。
無数の手は、自分の腹部と共に上下に切り落とされていた。
それを見届けるかのように瑠亜柰はゆっくりと刀を柄に戻す。
カチャン。という刀が戻る音と共に、女の子からは血の雨が吹き出す。
「おぉおぁぁああぁあ」
ここでようやく自分が斬られた事に気づいた。
ここまでわずか2秒以内の出来事だった。
その技を見るや否や、1人の女が叫び声をあげる
水谷 「でたー!瑠亜柰さんの月光!やっぱすげぇー!」
❮1番隊水谷班班長:水谷 香織(18)レート510❯
瑠亜柰はおもむろに声を出す。
瑠亜柰「いや……まだだ……」
切断した手が、自分の意思を持っているかのように女の子の足元にジワジワと集まっていく。
その様子はまさに異様だった。
「おねぇちゃぁあん?」
1度斬られたハズの腹部からは無数の手が飛び出していた。
もはや女の子の面影は無く、異形の怪物へと変貌を遂げていた。
女の子の足には無数の手が生い茂っており、その場からは動けずにいた。
開いた腹部からも無数の手が飛び出して来ており、女の子の顔ももはや原型をとどめていなかった。
水谷「きっも……」
うっ。という声が瑠亜柰から漏れる。
その場で膝をつき、咳き込む。
水谷「瑠亜柰さん!大丈夫っスか!?」
瑠亜柰「傷が痛むな……」
心配した水谷がとっさに瑠亜柰に近づく。
瑠亜柰「馬鹿っ!今くるな!」
周りが見えていないのか、高速で近づいてきた無数の手に全く気付いていなかった。
水谷「はっ……」
気づいた時には既に目の前に……
その時だった。
一瞬の光が大きな爆発音とともに辺りに煙をあげる。
水谷「ゴホッゴホッ……何……」
煙がゆっくりと晴れていく。見えてきたのは散らばった人喰いの無数の手だった。
そこにあった手は、半分が凍っており、また半分が燃え尽きていた。
そこに立っていたのは2人の隊員。HHAのジャケットのエンブレムの色。
隊長が金色。副隊長が銀色。班長が銅色。それ以外の隊員が白。
そして新入隊員が青色だった。
2人の隊員のジャケットの色は青。新入隊員だった。
水谷「新入隊員……?」
不思議そうにその2人の隊員を見つめる。
その後ろから1人の男がやってくる。
「おぉっ。やってるやってる」
水谷「神谷先輩じゃないっスか!遅くないっスか!?」
その男は高身長で頭に茶髪のパーマをかけた少しチャラ目の男。
神谷「香織ちゃんじゃん。あれ?俺より早い?」
❮3番隊 副隊長:神谷 満彦(19)レート660❯
水谷「遅いっスよ!」
その男は、瑠亜柰を見るとびっくりしたかのような声で
神谷「うわっ!?凄い怪我っ!大丈夫!?」
瑠亜柰「満彦……貴様に指示した内容…覚えているか……」
瑠亜柰はゆっくりとそちらの方を向く。
神谷とその前に2人の新入隊員。
神谷「えっ~とっ!新入隊員は連れてくるな!だったけ?」
思い出したかのようにその指示の内容を明かす。
瑠亜柰「貴様……日本語を知らないのか……?」
神谷「いやね。今年、レート400越えの凄い新入隊員が2人も居てさ」
瑠亜柰「……内の隊に入隊した奴以外にもそんな新人が居たのか……」
神谷「だから、早めに班長試験受けさそうと思って連れてきた」
そう言いピースを決めたその男は、2人の新入隊員の肩をトンっと叩く。
水谷「許可とったんスか?」
水谷が不思議そうに訪ねる。他の隊の部下を無許可で連れてきたとなると、問題となるためだ。
神谷「染谷がオッケーってさ」
水谷「そめさんがオッケー出すなんて、珍しいっスね」
男はその2人の新入隊員に語りかける。
神谷「さ!君たちの上司だよ!自己紹介自己紹介!」
意気揚々と言葉を投げ掛ける。
龍二「1番隊 隊員。喜多 龍二」
❮1番隊 隊員:喜多 龍二 レート405❯
鋭い目付きに威圧的な態度。尖った髪は辺りに強烈な印象を与える。
雛「3番隊……隊員……。榊原 雛……」
❮3番隊 隊員:榊原 雛 レート415❯
小さく幼く見える。だがどこか、大人っぽく大人しいと冷静の2つを兼ね備えている。
神谷「香織ちゃん~とりあえず、瑠亜柰を病院に連れてってあげて」
水谷「自分、車持ってないっスよ?」
神谷「他の待機してる隊員に連れてってもらいな。」
水谷「うっす!」
元気な返事とともに、瑠亜柰を担ぎ上げる。
瑠亜柰は喋る余裕も無く、ただ汗が滲むようになっていた。
水谷「瑠亜柰さん!大丈夫っスか!?」
水谷「早く!早く連れてってあげないと!」
そうこうしている内に、再び無数の手が水谷ごと瑠亜柰を襲う。
水谷「またっスか!?」
龍二の手から小さな炎が生まれる。
龍二「火柱」
その小さな炎を投げつける。
たちまち炎が燃え上がり、大きな壁となる。
水谷「助かったっス……って!何本かすり抜けてきてるんスけど!?!?」
神谷「龍二、お前やっぱ才能の使い方下手だな。」
そう言いクスクスと笑う
龍二「はぁ!?何だてめぇ!?」
すかさず後ろから、女の子が手をかざす。
雛「氷核」
複数の手の上にはとてつもなく鋭いつららが降り注ぐ。
そのつらら手を巻き込み、地面へと突き刺さる。
神谷「おぉ!流石はうちの新入隊員!褒めてやろう!」
よしよしという言葉と共に、雛の頭を撫でる。
雛は少し顔を赤くし下を向く。
水谷「皆さん!ありがとうっス!戦闘から離脱しますッス!」
そう言い、瑠亜柰を担いだ水谷は商店街を走り抜けていった。
「おねぇちゃぁあん?」
火の壁の奥からおぞましいその顔がこちらを覗く。
神谷「龍二!雛!来るぞ!」
その掛け声を合図に2人が前に構える。
「おねぇちゃぁぁぁ!!」
--原宿 竹下通り
桜花「っしゃ!いっちょやってやるか!」
❮9番隊隊長:喜多 桜花(21)レート790❯
意気揚々と言葉を吐くと、持っていた小石をその巨大な顔面へと投げつける。
「おぉぉおおぁぁあ?」
こちらを向いた時には既に目の前まで小石がきていた。
桜花「大切断」
その言葉で小石の形は大きな欧州風の剣へと形を変える。
投げたスピードのまま一直線に怪物の顔面へと向かっていく。
剣は怪物の大きな顔面を引き裂き、ちょうど柄のようなところで止まった。と同時に雨のような血が吹き出す。
桜花「命中命中!」
シンタ「流石隊長……凄いですね……」
❮9番隊隊員:泉シンタ(17)レート120❯
その様子はまさに圧巻だった。
投げてから数秒、相手の気付かれる直前で石の形を変えて技を繰り出す。
その芸当はまさに経験と熟練から来ているものだろう。
怪物は、引き裂かれたまま固まっている。
シンタ「倒したん……ですかね……?」
桜花「レート400だろ?こんなもんだろ」
自分の経験から来る自信は簡単には曲げない。
だが、全てが全て当たっている訳ではない--
桜花「シンタ!後ろ!」
油断からくる隙。人喰いは待ってくれる訳がない。
飛び散った破片から再生したのか……?シンタの後ろには、顔に、足だけという最低限しか再生していないであろう人喰いが本能のままで動く
桜花が叫んだ言葉と共に後ろを振り返る。
シンタ「えっ?」
振り向いた瞬間、辺りが真っ暗になった。
桜花「まじ……かよ……シンタ……?」
動揺を隠せない桜花。目の前に映っていたのは、肩から上が人喰いの口の中へ入っているシンタだった。
かぶりついたその人喰いは、ぐしゃぐしゃと口を動かしている。
桜花「はぁ…はぁはぁはぁ……!」
だんだんと桜花の息遣いが荒くなる。
桜花「シンタ……シンタ……」
一呼吸の沈黙の後。桜花はポツリと呟く。
桜花「……ぶっ殺してやる」
その一言と共に目の色を変える。
桜花「才能……開花……」
桜花「無限刀剣……」
その言葉を放つ瞬間だった。シンタを丸のみしようとした人喰いに異変が起こった。
人喰いからは黒い煙が出始め、しだいにポロポロと肉片が落ちていく。
それは、人喰いが死ぬ時の現象だった。
人喰いが溶けた後に映っていたのは、顔が欠けていたシンタの姿だった。
桜花「シンタ……?」
シンタは顔が欠けているであろうに平然と喋る。
シンタ「知ってますか……?桜花さん……」
桜花「何がだ……?」
シンタ「人喰いって……人喰いを喰う事は出来ないんですよ……」
そう言ってこちらを向いたシンタの顔は、欠けた部分からはブクブクと皮膚が盛られて行っており、それは人喰いにしかない超速再生と同じだった。
そして、シンタの表情はどこか切なく悲しげな顔をしていた。
瑠々「へぇ~?おもしれぇ~才能じゃんアイツ」
❮1番隊隊長:宮代 瑠々(20)レート996❯
高いビルの頂上に座って眺めているその男は、どこか嬉しそうな様子だった--
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