first season 第二章
第4話 異例
「貴様らは一体何をしている!!」
ドアを突き破るような怒号が飛ぶ。
彼女は3番隊。隊長。橘 瑠亜柰。
橘 総一朗の娘にして、将来を渇望されている逸材。
「あんな挨拶をしては、新入隊員に示しがつかんだろ!瑠々、桜花!」
彼女はいたって真面目で当たり前の事を言っている。男としても女としても、やる事はしっかりとやらなければいけない。
「だって私仕事だったし?」
桜花はふぅ。という声と共にタバコに火をつける。
「元々はうちの隊への出撃命令だったはずだ!人命が掛かっている中、貴様の身勝手な行動で被害が拡大したかもしれんのだぞ!?」
机をドンッと叩き、座っていた体を起こす。
「瑠々も瑠々だ!桜花を止めなかったし、ましてやHHA最強クラスの男が遅刻して挨拶するなど言語道断だ!」
「まぁ、まぁ。落ち着こうよ。瑠亜柰ちゃん」
渋い声で瑠亜柰に問いかける。
その男は尾田川 敦。4番隊。隊長。
髭を生やした4、50くらいの男は足を組み直し、顔色を変える。
「それに、今日の本題はそこじゃないだろ?」
「チッ」
そう言い、瑠亜柰は自分の席につく。
尾田川が話を続ける。
「今日入った新入隊員。1人怪しい奴がいた。」
「9番隊。隊員の”泉シンタ”だ」
咥えたタバコを吐き出し問いかける1人の女性
「あ?私の部下になにか用か?」
「いやね、レートを計ったときにさ。ある表記が出たんだってさ。」
「一般階級と同時に人喰いに出る用の表記。つまり、人的被害拡大級。って出たんだってさ。」
その言葉を聞いた会議室はあっという間に静まり返った。
「もしかしたら彼……」
「”人喰い”になるかもしれないね」
聞いた瞬間だった。組んだ足で会議室の机を蹴飛ばし天井に突き刺さる程の衝撃だった。
「てめぇ。何が言いたい」
「つまり、彼は殺すべきだと僕は思うんだよね」
「可能性がある段階で手を打っておかなければ、また”あの時”みたいに、”才能を持った人喰い”が出てきてしまわないかい?」
「幸い、彼はまだレートが低い。成長してからでは遅……」
桜花は吸っていたタバコを持ち替え小さなナイフへと変形させた。
瞬間的に悟った尾田川が体を少し反らせる
ナイフは尾田川をギリギリにかすめ、タバコに戻った。
そのタバコを再び咥え出す。
緊迫した状態に1人の老人の声が響く。
「やめんか馬鹿者どもがっつ」
不満そうに無言で席に戻る桜花と尾田川。
「そうはいってもさー。じーさん。どーすんの?殺すの?生かすの?」
余裕そうに笑みを浮かべながら見ていた瑠々がポツリと呟く。
「ならば答えは一つじゃ。」
「特別保護観察対象として在籍を許可する。」
「ホントか!ジジイ!」
桜花は再び元気そうに顔を上げる。彼女からすれば、久々に出来た部下。
絶対に離したくないであろう大切な存在。
「ただし、1つ条件をつける。」
「条件?何だ?」
「もしも”人喰い”なると確定した場合。」
「桜花。お前が責任を取って殺せ。」
「はっ?私が殺すのか?部下を?んなっ!ふざけん……」
「ならば今、ここで”泉シンタ”は除籍処分とし、”人喰い”として抹殺対象に入るが……それでもよいのか?」
流石の桜花もその言葉を聞き、勢いを失う。何かを得るには何かを条件にしなければいけない。
そんな自然の摂理は人間関係にでも当てはまる。
「……」
言葉が詰まる。結局は向こうの方が正しいからだ。
言い返そうにも言葉が出てこない。
「分かったよ……それで飲む……」
悔しそうに条件を汲んだ桜花。
その時だった。HHAの緊急アラームが鳴り響く。
緊急--緊急--
都内にて人喰いが出現--
人喰いの対象者は都内在住の佐竹 学さん38歳
妻との離婚後、人生が徐々に下落。会社も上手くいかなくなり、解雇通知を出された時にストレスが爆発。上司をめった刺し。後、人喰いへと変貌対象レートは420。大都市被害級。至急、副隊長以上の隊員で出撃を要請する--
繰り返す……--
老人が口を開く。
「9番隊で対処へ向かえ。」
「私の所か?何でまた」
「本当に泉シンタが大丈夫かの実験でもあるんじゃよ」
「チッ……」
「9番隊。出撃します……」
そう言い、会議室を後した。何か言いたげだったがそれよりも対処に向かわなければならない。
色んな思いが続く中さらに、続報が入る。
追加情報--
さらに人喰いの存在を確認。年齢。性別。不明。
同じく都内にて出現--
対象レートは660。首都壊滅級。
至急、隊長数人で対象すべし。
これは一刻を争う--
繰り返す……--
「660だと!?」
「へぇ……大物じゃん」
それぞれ、瑠亜柰と瑠々の口から溢れるくらいにいかに今回の人喰いが危険か分かるだろう。
再び老人が命を下す。
「1番隊と3番隊の2部隊で至急対象せよ」
「これは、一刻の猶予を争う。いいか、絶対に犠牲者を出すな!以上!」
「1番隊」
「3番隊」
「出撃します」
2人が声を揃えてそう言い放つ。こんなに大きな敵は久しぶりだろう。
ましてや新入隊員の入隊日に合うかのようにだ。
まるで元々計画されてたかのように……。
9番隊。隊室にて--
「お前がシンタだな!遅くなってすまん!私が隊長の喜多 桜花だ!よろしくな!」
その凛々しくカッコいい女性こそ、まさに自分が求めていた存在。憧れの存在であった。
「あ!あのよろしくお願いします!」
いざ目の前にしてしまうと緊張してしまうものだ。
「すまないシンタ。時間が無いんだ。今から出るぞ」
焦ったように桜花がジャケットを着る。
「どうしたんですか?」
「仕事だよ。人喰いが出たんだ。」
「あっ……はいっ……」
「……?何だ?行くぞ?」
「……」
シンタの様子がなにかおかしい。そんな事を感じとりながらもさっそうと部屋を後にした。
大きなバイクに桜花とシンタが乗り込む。
桜花愛用の大型の単車だ。
「おい咲!敵の場所どこだ!」
桜花が自分の耳に手を当てる。おそらくマイクで繋がっているんだろう。
「原宿の竹下通り。周りは警察が封鎖してるから行ったら分かると思う!」
「おっけいありがとう!」
そう言い、マイクから手を離すとヘルメットをかぶった。
「シンタ!行くぞ!隊長の威厳を見せてやるよ!」
「あっ!お願いします……」
シンタもヘルメットをかぶる。
ここがシンタの始めての初陣となる。
同時刻 渋谷--
大勢の警察がある商店街を封鎖している。
こちらはレート660の大物。
そこに一台の軍用の車が止まった。
トコトコと車から警察の方へと歩いて行く1人の女性。
胸ポケットからパスポートのようなものを見せる
「HHA。3番隊隊長。橘瑠亜柰だ。すまないが状況を説明してくれませんか」
1足先に現場へと足を運んだ瑠亜柰。他の部下は後々副隊長と共に出撃してくるようにと命令を下していた。
「いや、それが分からないんですよ」
警察が不思議そうに答える。
「分からないとは……?」
警察が言うには、こうだ。
人喰いが出たという通報が入り来てみれば誰もいない。もしや、もう既に商店街の人間は全て喰われて人喰いは巨大な存在になっているのかもしれない。
そうなれば警察の銃でも対応は出来ない。だから、専門職である我々を読んだのだ。
「とりあえず、まずは私が様子を見てきて見ます。警察の方々は市民への警戒を引き続きよろしくお願いします。」
そう言いその場を託した瑠亜柰を警察官は後から心配そうに見ていた。
普通の人喰いと何が違うというのだろうか。
人喰いは人喰いだ。それ以外の何物でもない。
暗い商店街を突き進む。そこには人の姿はなく、皆しっかり避難をしたのだろうとホッとしている。
走る瑠亜柰の前で小さな女の子が1人泣いているのが見えた。
「ママ~!どこ~!」
「危ないじゃないか君」
とっさに瑠亜柰が女の子に近づく。
「どうしたんだい?」
「ママがいないの!うぇぇぇえん」
女の子は再び泣き出しぐずる。
見かねた瑠亜柰はまずこの子を外に逃がそうとする。
「ほらおいで?お姉さんがママの所に連れてっあげるから」
そんな優しい言葉と一緒に女の子を抱き込む。
「ママがいないの!」
「ママは避難したから外にいるはずだよ。一緒に行こうね」
瑠亜柰は周りを警戒しつつも元に来た道で戻ろうとする。
その瞬間だった。
熱い何かがお腹辺りを貫通する感覚が全身を襲った。
「ヴッ……」
自分の足元を見るとそこには赤く真っ赤な血が滴り落ちていた。
間接視野で見えた自分の体からは触手のようなものが自分を貫通しているのが見えた。
「うぅ……」
女の子を抱き抱えたまたその場に膝をついてしまった。
そんな状況でも女の子を心配していた瑠亜柰だった。
「ふぅ……だ、大丈夫かい……?」
女の子はずっと泣いている。その様子を見て安心をした。
「ママがいないの!」
「今すぐ……ママの所に……連れてってあげるから」
「ママがいないの!だって」
「私がママを食べたもん」
そう言いニヤリと笑った女の子の口元は長く横に裂けていた--
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