第3話 決起集会

コンコン。

一回り大きな木の扉を軽くノックする。1人の男の子。

「今日付けで9番隊に入隊することになりました泉シンタです」

それほど大きな声ではないが、扉1枚分は貫通するであろう声量で扉の奥に問いかける。


「あっ!どうぞっ!」

若くて高い女性の声が聞こえる。


「あっ!失礼します……!」

少しオドオドしながらも扉をゆっくりと奥に押すように開ける。


「待ってたよー!!」

そんなに叫び声と共に、1人の女性がこちらに飛び込んできた。

思わずうわっと声が出る程の勢いで来たため、地面にしりもちをついてしまった。


「君が新入隊員の泉シンタ君ね!」

「あっ……はい……」

いきなりだった為、動揺を隠しきれないようだった。


「私は、オペレーターの三月咲ねよろしく!」

その高い声と元気はつらつな女性は、キャリヤウーマンのようなビシッとしたスーツに眼鏡をかけており、長く艶のある美しい髪をしている。

「ささっ!案内するからこっちに来て来て!」

その女性に、連れられるかのように部屋の案内が始まった。


木の扉を潜ると、席は8人分くらいの小さな食堂があった。白い椅子に木の長いテーブル。

その左手にはしっかりとしたキッチンがあり、右手側には上に連なる螺旋上の階段が。

奥には、ガラスの机と灰色のソファ。そして、大きなテレビが置いてある。

「おぉ……すげぇ……」

思わずそんな声が漏れる程、隊員室は充実をしていた。


「ここが食堂ね!奥にはゆっくりくつろげるソファとかあるけど、何せ隊員が私だけだからね。ほぼほぼ使わないかな。」


「思ったんですけど、何で隊員がいないんですか?」


シンタはずっと気になっていた。1番隊の瑠々や他の隊のメンバーはもっと大きな組織で動いているからだ。

何人もの班長がメンバーを取り纏め、それぞれ副隊長が2人はいるのがこのHHAでは普通だからだ。


「うちの隊長がね。自由奔放な人でね……。あんないい加減な奴には誰も着いていかないって……そんな感じだと思うよ」


「それでも、少なくても数十人はいるんじゃないんですか?」


「それはね、皆うちの隊に入るのが怖いみたい。」

そう言い、少し顔をした向け表情が暗く曇る。

「1度、自分の身勝手でミスしちゃってね。ここって強い人が順に上から番号を振られるんだけどその事件で、部下を無くして、番隊も最下位の9番に降格。」

「ね?そんな所に入りたくはないでしょ?」

尋ねるようにこちらの顔を覗き込む。

「何で君は、9番隊を志望したの?」


「理由は言えないですけど……」

「あの隊長に助けられた経験があって。だから、俺にとっての憧れの人なんですよね」

そう言うと、三月は少し笑みを浮かべ、フフッと笑う。

「それ、隊長に言ってあげて。きっと喜ぶから」

「よし!それじゃ案内を再開するぞー!」


俺の中でのこの女性の印象がこの時、少し変わった気がした。

そして、螺旋上の階段を上がると下が見えるように解放感のある廊下。木の柵で四方を囲み、下を覗けるようにしている。

それぞれ左右と手前。それから奥に扉があった。

「まずは階段を上がった手前の部屋ね。」

そう言い、ガチャッと扉を開ける。

「ここは会議室ね。」

丸く細長い円柱の白い机に椅子が8つ程それぞれ左右と奥に置いてある。そして、見える位置にホワイトボードがあった。


「んで、左が寝床ね。」

全部で4つの二段ベットが完備されており、きれいな白いそれにいますぐにでも飛び込みたいほどだった。

「右がオペレーター室。まぁ私の部屋だね。」

パソコンが光る暗い部屋。モニターが三つもあり、中々高価なチェアが置いてある。

横には少し敷いた布団があり、生活には支障がない。

「それで、奥が隊長室」

開けると、真正面にまず黒色のソファのような椅子に高そうな木の机。後には花瓶や絵画が飾ってある。

「今は、隊長はいないの。多分直ぐ帰ってくるかと思うけど、あと15分くらいで新入隊長への集会があるから先にそっちに行ってね」


「あっ!分かりました!」


「これで紹介は終わりかな。まだ時間あるから、下のソファでゆっくりしてていいよ。時間になったら言うね」


「あっ!はい!ありがとうございます!」

元気な声と、共に深くお辞儀をした。

憧れの人と仕事が出来るという喜びがあったからだ。


一息つこうとソファに座り込んだ。

思えば”人喰い”とは一体何なのだろうか。

負の感情が急速になだれ込む事により、人間としての尊厳を失い怪物になってしまう。

人間はいつ、誰もが人喰いになる可能性があるという事だ。

もしも、自分が人喰いになるかもしれない……そう考えるだけでも眠れなくなる。

実は今までにでも……いや、この事を考えるのは辞めておこう……

「シンタくーん!」

上からヒョコっと顔をだし高い声で名前を呼ぶ。


「あっ!はーい」

「そろそろ集会だから行っておいでー!」

「分かりましたー」

そんなやり取りをし、集会が行われるであろう大きな武道館のような施設に足を運んだ。

これも全てビルの中にあるのが驚きだ。


席に座り、暗い中。ステージ上にだけ明かりがつく。

ステージには1人の老人がマイクを片手に立っており、その姿が現れた瞬間に武道館内ざわめきだした。

「まずは、入隊おめでとう。君たちで44期生になった。HHAへ改めてようこそ」

長い白髪をなびかせ、少しの顎髭。

周りがざわめき出すのも無理はない。彼こそが、HHA創設者にして、現会長。

「私の名前は橘総一朗。人喰いが出始めて50年。この組織を作るまでは被害が増え続ける一方であった。」

「このまま黙っている訳にはいかない。人間の底力を見せなければならない。人は人の手で成仏をさせる」

「歓迎しよう!皆の力が人々を救う手助けとなる!」

「そして、未来へと足を踏み出そう!人間の未来のために!」

会長の熱い熱弁は各々の心に刻み込まれた。

「そして、今から君達の目標になるであろう隊長達からの挨拶だ。つつしんで聞くように。以上。」

そういい、老人はマイクと共に下へと降りていった。


次に現れたのは、羽織を羽織った17歳くらいの女性だった。

紫色の髪を後で結び、その白い美肌は美しいの一言だった。

「3番隊。隊長。橘 瑠亜柰だ。」

第1声目は凛々しいの一言だった。

「まずは力ある諸君の入隊に心から感謝する。」

「私たちは、諸君の入隊をずっと心待にしていた。」

「共に、戦い。そしてたくさんの人を救え。」

「以上だ。」

そういい放ちステージを後にする。歳は自分とたいして変わらないような見た目だが、大人でカッコいい女性だった。


そして、次々と隊長達の挨拶が続いて行く。

4番隊。隊長。尾田川 敦

5番隊。隊長。大宮 連斗

6番隊。隊長。華々 凛

7番隊。隊長。林 清十郎

8番隊。隊長。成川 紅蓮

次々と挨拶が進む中。とうとう9番隊隊長だった。

だが、誰もステージに上がって来ない。

集会が解散されようとしたなか突如、後の扉が開く。

視線が全て扉に集中する。光と共に誰かが入ってきた。


「間に合ったぁぁぁあ」

たばこを吸いながらそんな大きな声を1人の女性

腕を組み、仁王立ちをするかのように立つ。


「9番隊隊長……」

光が少し晴れ、顔が見えるとそこにはニヤリとした顔でこう言った。

「喜多 桜花でーすっう!」

「皆っ。よろしくっ。」

シンタは鳥肌が立った。隊員としてはここで初めて隊長の顔を見た。


そしてもう1人。奥から歩いて来る。

「桜花……そこは俺の出番だろー」

「しゃーねぇーだろ!仕事してきたんだからよ」


「まっ。いいや。」

「1番隊。隊長。」

その言葉を聞いた瞬間、時が止まったかのように静まり返る。

皆、生で見るのは始めてだろう誰もが憧れの人。

HHA史上。最高の逸材。会長と対をなす存在。

「宮代 瑠々ちゃんでーす!」




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