第2話 入隊
中学を出ると3つ選択肢がある。
1つは仕事。2つは高校。
そして、3つ目、それは訓練学校だ。自分の才能を開花させ、新しい異能力を身に付け、人喰いに対抗するための訓練学校。
あるものは炎を扱い、またあるものは水を扱い、そして空間さえも扱う者もいるとか。
今日はそんな訓練学校から卒業を果たした訓練生が、”対人喰い対策本部協会”通称HHAへの入隊日であった。
「着いた……ここが……HHAか……」
”泉シンタ”彼もまた、訓練学校の卒業生だ。
背丈は小柄。男にしては少し長い、金色の髪をなびかせ、その姿は女に見間違いられるほど。
「うぉぉ……でっかっ……」
なめまわすように見上げるとその建物こそHHAの本部。市街地の中心に位置し、2、30階建てのビルが四方に、それが連結しているようになっている。その4つのビルの上に大きな時計塔。
見たこともない景色に圧巻だった。
「よしっ!」
そう言い握り拳を作り、正面の玄関口へと歩き出す。周りにも、卒業し入隊をする同級生や、特別推薦で入隊を許可された者まで色んな人で賑わっている。
前を向き進んでいると、後ろから肩を強く当てられた。
「イッ……」
「おいっ!待てよ!」
彼は見かけによらず、男気が強く。そして、直ぐに周りが見えなくなる。そんなにタイプの人間だった。
ぶつかった男はこちらを振り向く。
「あぁ。シンタじゃねぇか」
真っ赤な髪を尖らせたその男は、自分を知っているかのように名前を呼んだ。
「龍二……」
男の名前は、”喜多 龍二”訓練学校の同級生で、そして……
「おめぇは何番隊に入るんだっけか?」
「9番隊……」
「9番?アッハハハッ!負け犬にはお似合いの部隊だな!おめぇが部隊に入れるだけでも奇跡なのに、よりによって隊員1人だけの9番って!」
シンタを虐めていた。
「り、龍二は確か……」
「俺はあの、宮代瑠々が隊長の1番隊」
そう言い得意気に笑みをこぼす。
宮代瑠々。HHA史上最高の逸材とされ、ルーキーの頃からトントン拍子で昇格していく。
ここに入隊しない者でもその存在を知っている程のスター性とカリスマ性を兼ね備えている。
この協会で最強の人物は誰かと訪ねられると、半分はHHA創設者にして現会長の橘 総一朗と言い、また半分は宮代瑠々と言う程。
「まっ!精々頑張れや。どうせお前は死ぬだろうけどな」
そう言いその場を立ち去り颯爽と建物に入っていった。
「……」
シンタは喋ってる内には気がつかなかったが、顔が下を向いていた。
拳をギュッと握りしめる。
悔しさ、怒り、全ての感情が心に混沌とする。
下を向いたまま、建物に入っていった。
入ると受付の前には長蛇の列が出来ていた。
4つのエレベーター乗り場の前には大きなテレビビジョン。その下には受付の女性が1人立っていた。
女性は手に持っている、不思議な機械で手首辺りを計っている。
測った後にはテレビビジョンにその数値が表されていた。
「はーい、次の方~」
「……あの……お願い……します……」
次は声が細い小柄な女の子。
「手首出してくーださい!」
受付の女性が笑顔で機械を近付ける。
「えっ……まじ……」
ふとポロリと受付の口から落ちる。
テレビビジョンを見た他の入隊者からは続々とざわめき出している。
「レート……415……班長…分隊長クラス……」
その女の子からは想像もつかないであろう高レートが叩き出されていた。
レートとは、その人物や人喰いの総合的な強さを表すための数値。
一般的には999が最大値とされており、人間は、レート400までが一般階級。そして、400以上が班長、分隊長クラス。600以上が副隊長クラス。700以上が隊長クラスとされている。
逆に人喰いは200までが人的被害拡大級。400までが大都市被害級。600までが首都壊滅級。そして、700からそれ以上が自然災害級とされている。
「新入隊員で415……歴代で4番目の数字ですよ……」
受付の女性が唖然としている。
新入隊員が班長、分隊長クラスのレートを叩き出すのは異例中の異例なのだ。
他の新入隊員がざわついている中。1人それをよく思わない人間がいた。
その男は長蛇の列を横から歩いてすり抜けて行く
「おい、女。貸せ。」
龍二だ。
「ああっ!ちょっとっ!」
龍二は機械を無理矢理受付の女性から取り、自らで手首を計り出した。
そして、テレビビジョンに映し出される。
「レート……405……」
龍二の登場によって静まり返ったその場が再びざわめき出す。
「君も凄いですね!歴代で5番目の数値で……」
「チッ……」
龍二は舌打ち女性の言葉を遮るように機械を返す。
そのままポケットに両手を突っ込み、その場がから歩き出す。
「ちょっと……貴方……」
さっきの女の子が龍二の服を掴み呼び止める
「あっ?」
「強いのね……どこの……部隊……?」
「1番隊」
メンチを切るかのように、女の子を睨んでいる。
「そう……残念……私は、3番隊だから……」
「聞いてねぇよ。俺に喋りかけんな」
龍二は再び歩き出す。
女の子は龍二の後で喋り出す。
「今回の……新入隊員……どれも……残念……と思っていたけど……貴方は……マシそうね……」
「あっ……後……列の1番後にいる金髪の……男の子……」
その言葉を聞いた瞬間に龍二が再び女の子の元へと戻る。
龍二が女の子の目の前に立った時には物凄い殺気を放っていた。
「俺とアイツを同じ土台で話すんじゃねぇぞ。」
女の子は不思議そうに首をかしげる。
「殺すぞ」
「殺すか……」
女の子もその言葉を聞いた瞬間に態度が変わる。空気も一瞬で凍りついた。
物凄いプレッシャーと殺気が辺りを渦巻く。
「殺してみろよクソガキ」
さっきまでの細い声ではなく、低くどす黒い声でそう言った。
「チッ……」
龍二はそれを見て、何か感じ取ったかのように舌打ちをし、ポケットに手を突っ込み再び歩き出した。
「えっと……さっ!再開しましょー!」
受付の女性が声を張り上げてテンションをあげる。
静まり返った中、再び再開された。
徐々に順番が回ってくる。
計りが終わった者はそれぞれまず、隊長に挨拶をしに行くため、合宿所に行き荷物を置いてから、隊長室へと足を運ぶ。
シンタはふと周りを見渡す。
「まだあの女の子いる……」
その女の子は1人1人のレートを見て不満そうに立っている。
そして、とうとう自分の番が来た。
「はーい!あなたが最後でーす!手首を見せてくださーい!」
「お願いしまーす」
シンタはそう言い手首をまくり、見せた。
計りがシンタの手首を計り出す。
「……あれ…?」
受付が不思議そうに首をかしげる。
表示には、レートは120と新入隊員としては普通くらいのレートだが、表記には人間の一般階級と人喰いに適応されるであろう人的被害拡大級と2つ表示されていた。
「バグかな……?ま、いいや……」
受付は割りきったように次の話を始める。
「パスポート見せて~」
「あ、はい」
「はーいどうも」
「泉シンタ君ね……あ、はいオッケイでーす」
受付の人にパスポートを返された。と同時にさっきまでいた女の子が満足そうに自分の隊員合宿所へと向かったのが見えた。
「えっ~と!貴方は何番?案内するから」
「9番隊……」
「えっ!?9番!?君が例の9番隊志望の子か!!」
そう言い受付はおおはしゃぎをした
「これはきっと桜花さんも喜ぶぞ……!ささっ!早く挨拶に行ってあげて!!」
「あっ。は、はい」
受付に後押しされるかのように、シンタはその場から離れた。
「やっと桜花さんにも部下が出来るのか…!」
受付はにやけが止まらなかった。
「あっ……そういえば……」
とふと思い出すさっきの表示。
「あの計りのバグは一体……何なったんだろう……今まであんなバグは起きたこと無いのに……」
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