第三部: 終焉
第43話 強制召喚 #1
身体を包む光が閉じてゆく。
ルナと
ルナにとって見慣れた光景。
毎週末のように訪れた、もう一つの世界。
――魔王城。
目の前には男の背中があった。
神父のように見える彼が神に仕える聖職者ではないことを、ルナは既に知っている。
深淵を知り悠遠を望む、魔なるもの――【知恵の魔族】。
その名を――
(ハデス……!)
ルナは桜花を背中に庇うようにして、ハデスを警戒した。
だがハデスは二人に視線を向けることすらなく、静かに魔王城の大広間の扉を見つめていた。
背中越しに、低い声が響く。
「――二年と、半年ぶりでしょうか。魔王様」
「ハデス……桜花ちゃんは関係ない。元の世界に戻して」
「……」
ハデスは答えない。
代わりに片手を挙げ、すっ、と空間を横一文字に撫でるように動かした。
その合図で大広間に明かりが灯る。
「――敵襲です。オシリスが相手をしていますが、まもなくここまで辿り着くでしょう。【魔大樹】を破壊されるわけにはいきません」
二人の後ろには、ルナがこれまで魔力を注ぎ込んできた大樹が高くそびえ立っている。
「……ハデス、あたしは、もう……」
「い……岩崎さん、この神父様は、いったい……何をおっしゃっていますの?」
震える声の桜花が、困惑混じりに問う。
ルナに張り詰める緊張を感じ取っているのだろう。その手で、ぎゅっとルナの服の裾を握りしめた。
ハデスはわずかに振り返り、その光のない瞳でルナを射抜いた。
「――魔王様。ここで決着を付けるのです。あの――【勇者】と」
――破壊音。
扉は、砂糖菓子のようにもろく砕け散った。
扉を突き破った勢いのまま床に転がったのは、巨大で醜悪な肉塊であった。
オシリスの【真の姿】である。
肉塊はあちこち傷付き、体液を流していた。
【敵】はこの巨大な肉塊を吹き飛ばし、その威力で扉を破壊したのだ。
じゃり、と、扉の破片を踏む音。
粉塵の向こうから現れたのは、漆黒の大剣を手にした【敵】――勇者アイの姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます