第10話

 リナが姿を消したあと、残された私は魂が抜けたようにへたり込んでいた。……まだ状況に頭がついていかない。リナの冷たい眼が脳裏から離れなかった。


 少ししてトワが目を覚まし、ぼんやりと私の顔を見つめる。それを見ていると、つい問いかけたくなった。


「……もう一度、やり直せる?」


 おずおずと囁いた私を、トワは睨みつける。


「……今更」

「……そうよね、ごめんなさい」


 ……当然の答えだった。私だってリナと何も変わらないのだから、言い訳のしようもない。

 また、独りで旅でもしようか。

 そう思い、トワから目を逸らす。


「さよなら」


 私はトワから身体を離して立ち上がった。



 ◇◇◇◇



 ――そのとき、突然肩に手が添えられた。


「……忘れたことなんか無いの」


 背を向けた私に身体を預けながら、トワが耳元で呟いた。困惑と高揚で意識が乱れる。上手く返事が出来ず、ただ抱きつかれるままになった。


 ――でも、温もりは確かに感じるのに。トワの身体は、不自然なほど重さが足りなかった。嫌な予感で肺腑が満たされ、心音が激しくなる。


「……メイ?」


 トワは異変に気付いていないようだった。


 ……それでもいい、と私は思う。

 いつかトワが気付くまで。それは今日かもしれないし、もっとずっと先かもしれないけれど。どうにか騙し続けてみせる。


「……また、私といてくれる?」

「……ええ」


 頷いたトワの手を今度こそ握りしめる。幻のような体温は、すうっと心を落ち着かせてくれた。

 ……皮肉なことに、これでもうトワを奪う者はいないわけだ。



 宝石のような花火が夜空を飾る。黒曜石色のはずの空は、魔法で黄金に近い色に鈍く輝いていた。

 その空の下で私たちは、お互いを見詰め永遠を誓う。重ねた手には、私がずっと持ち歩いていたあの手鏡を握った。


 ――あの日と同じ眩い花火が、2人の幻想を照らし出していた。



 ……ずっとずっと、このままなら。

 叶わなくても、私はそう願い続けるのだ。

 愚かな灯りに、身を灼かれながら。

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花蘇芳 lampsprout @lampsprout

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