第4話
また、休憩時間の鐘が鳴った。背伸びをして手を洗い、奥の机に移動する。午後の休憩はお茶を飲むのが私たちの決まりだ。
私は紅茶を淹れる用意をしつつリナに尋ねた。
「クッキーにする?」
「うん、お願い」
紅茶を飲みながら、近所の洋菓子屋で買ったクッキーを頬張る。私たちは2人とも紅茶が好きで、戸棚には何種類も茶葉を揃えている。今日はシンプルにアールグレイのストレートティーを淹れてみた。
穏やかに近付いてくる、祭の日。私の胸はどうしても不吉にざわついた。6年前のこととはいえ、祭自体はあの時ぶりなのだ。嫌でも鬱々としてしまう。美味しいはずのクッキーも少し喉につかえる気がする。
「そうだ、あとで買い出しに行きましょう」
「……そうね」
店に響くリナの声に、私は笑って頷いた。そろそろ、祭の準備をする時期だった。
◇◇◇◇
買い物帰りに回り道をすると、街中に宝石を模した飾りが置かれている。専門の呪い師が家々を回って、暗い夜道で輝くよう飾りに細工をしているはずだ。
この時期はまじないの代金も少し安く抑えられているから、大抵の家が飾りを美しく瞬かせる。そして夕暮れ時には、一面が幻想的な淡緑色に包まれ、とても荘厳な雰囲気を醸し出す。
私はつい足を止めて、1人無心に眺めてしまっていた。浮世離れした空間が私の輪郭を曖昧にしていく。
「……トワ?」
引き返してきたリナが心配そうに私の顔を覗き込んだ。リナは、メイの話を一部だけれど知っている。私が引き摺っていることも、おおよそ把握していた。
リナと出会った頃には4年も経っていたのに、何一つ私は忘れられていなかった。ずっと囚われていた私を、リナが少しずつ掬い上げてくれたのだ。
学院の帰り道、何度か通った雑貨屋の近くでリナと顔見知りになった。綺麗な銀髪と優しい声に意識を奪われたことがつい昨日のようだ。
「ごめんなさい、何でもないわ」
答えた私は、リナの手を取って店の方角へと体を向けた。
覚悟くらい、何度もしていたのだ。もう慣れている、私は大丈夫だ。
昔からずっと唱え続けている。
ただ、意識の片隅にある時点で不完全なことも分かっていた。
◇◇◇◇
正反対で、どうしても似ている私たち。
深く恨みきれず、理解もしきれないまま。
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