第3話

「今年の花壇は何を植える?」

「そうね……ダリアとかは?」

「ポピーもいいかも。あと、ワレモコウにルドベキア。好きなんでしょう?」


 開店準備をしながら、私たちは次に植える植物の相談をしていた。随分長い間、品揃えを変えていないことに気が付いたからだ。

 別世界から間引いてきた草花は、この国ではほぼ年中花を咲かせられる。それでも時々は花壇を一新して気分を変えたいので、一気に植替えをするのが習慣だった。


 ルドベキア。その名を聞くと、まだ体が強張ってしまう。昔、メイと一緒に育てたお気に入りの花だった。

 無言の私に気付かないまま、リナが言葉を続ける。


「でも私は、白いハナズオウが好きだわ。大きくて植えにくいけれどね」


 薄く微笑みながらそう言った。ハナズオウは、大きな木に白やピンクの花を付ける。小さな店では、育てるとなれば確かに難しかった。


「もう少しお店が大きくなれば植えたらいいわ」


 最近はもう少し仕事の幅を増やせるように、私は少し高度な魔術を、リナは経営を学んでいた。近いうちに、何かを始めてもいいかもしれない。

 そう思って私が言うと、リナは目を丸くして振り返った。心底意外そうな表情だった。


「どうしたの?」

「……ううん、何でもない。いつか植えましょうね」


 はにかんだリナに抱き締められた暖かさに、少し違和感を感じてしまう。忘れたつもりでも、やはり縛られているのかもしれない。



 あの日以降、私は努めて明るく振る舞っていた。出来るだけ行動的に、利発に見えるように。

 そうしているとき、いつも脳裏には彼女の姿があった。私がこんな人間だから駄目なのだと、考え続けていた。私が無能だからと。もう彼女がいなくても、駄目なままではいけないと思った。

 彼女がいる間は少しましだった劣等感も、つい再燃しかけたけれど、今更何を嘆いたところで意味なんかあるはずもない。

 そう信じて封じ続けたつもりだったのに。

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