第2話

 6年前の祭の日。私は恋人のメイを探して学院内にいた。その日はいつもの待ち合わせ場所に彼女が来ず、朝から姿を見ていなかった。


 門の陰、茂みの側を通りかかったとき。見知った人影に立ち止まった私は、目を見開いた。状況がうまく飲み込めない。

 やっと見つけた彼女の横には、私の知らない人がいた。楽しそうに談笑する女性の短髪が、薄明りで銀色に輝いていた。立ち竦む私に気付いた様子のメイが顔を少しこちらに向ける。

 暗がりから私を見詰めるメイの口元が歪み、忘れてと言っているように見えた。私の頭は真っ白になった。


 自分なんか、やはりその程度だった。大事な人と在るための、仮の支えでしかない。

 やっと、信じ始めていたのに。落ち着いていられるようになったのに。


 わかっていても、問わずにはいられなかった。恨むより先に、哀しさばかりが募った。


「ねえ、何で……」


 目を伏せた彼女は答えない。そのまま、踵を返して行ってしまった。

 置き去りにされた私の足は動かない。遠ざかっていくメイの赤い髪と、この世の物と思えないほど美しい、女性の銀髪から目が離せなかった。


「どうして……」


 最後まで続けられなかった問いは、喉の奥で燻っていた。それでも何も、吐き出せないまま。

 私の泣き声は、頭上で開いた花火の轟音に掻き消されていった。



 その週のうちに、彼女が退学したという知らせが教授から伝えられた。それから二度と、私が彼女の姿を見ることは無かったのだった。



 ◇◇◇◇



 あの瞬間、私の世界は塗り替わってしまった。どうやって生きてきたのか、分からなくなるほどに。私はせめて、私が知ったあとのことは知りたかった。

 貴女が私を汚したのか。

 私が貴女を汚したのか。

 壊れた私は、あの頃のようには戻れない。いつか貴女を忘れても、きっと元には戻らない。

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