第2話 脳内劇場
頭の中から綿々と湧いてくるストーリーは脳内のメモ帳に綴られていく。永遠に続きそうな、妄想という名前の下手な話を誰かに見せるわけでもなく、好きなように、気の向くままに自由に創造していた。彼女と彼氏のどこにでもあるお話を少しアレンジしながら、少しずつバッドエンドに近づくように世界を変えていくのだ。頭の中にある世界を。
なかなか面白いものだなと思いながら、ノートにストーリーを書くわけでもなく、紙に漫画を書くわけでもなく、メモに浮かんできた描写を殴り書きする訳でもなく、只々、浮かんできた悲観的な物語を一人口元を緩めながら楽しんでいた。その姿は、傍から見ると奇妙だったかもしれないことは、自分でも容易に想像することができた。だが、特に気にすることもなかった。
その悲観的な物語を頭の中で組み立てながら、にやにや気持ちの悪い笑みを浮かべている自分の姿ではなく、もっと根本的なものを気にしなくても良いのだろうか。と、頭の片隅で自問自答していた。
今、私は創造神であるが、彼氏と彼女のことをコントロールしているわけではない。彼らは、私の想像の中で生きていて、自由に活動しているのだ。私は環境を操作しているだけ。二人はきちんと生きている。なんなら創造神よりも立派に、人間らしく生きている。
電車の車窓をスクリーンに見立て、浮かんできたストーリーを適当に映像にし、映し出す。他の誰にも見られないシアターが完成した。監督は自分だった。スタッフも自分。演出も自分。しかし、キャストは誰だかわからない、どこにいるかもわからない彼女と彼氏だ。物語のストーリーの原案を創っているのは、自分ではなく、記憶の中にいる自分だった。無意識のうちに物語に原案が浮かび上がり、それを監督こと自分が編集し、キャストが演じ、演出も、それを手伝うスタッフも自分だった。
正確にいうとキャストは演じていない。私が想像した世界で、彼氏と彼女は生きている。色々な経験をし、たくさんのことを考え、感じていた。それを私が操作しているのだ。そう思うだけで、神様になった気分がした。実際、彼女と彼氏がいる脳内劇場、もとい、脳内メモに世界では私が神であり、創造神なのだ。君たちは私が創った世界で、私がシュミレートした世界で生きているのだ。全ては私の思うが儘。そう勝手に思っていると自分も、誰かに創造され、シュミレートされた世界で生きているのではないかという哲学的な疑問が浮かんだ。しかしその問いは胡蝶の夢や水槽の中の脳などの哲学的命題でシュミレートされた世界でどう生きるべきかは結論は出ている。とりあえず今はストーリーを考えるのに専念しようと思った。哲学者たちが導き出した答えのように。
バッドエンドに向かわせることは決めてる。
さてこれからどうしようか。
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