決着×新子
言いたいことはよく分かる。
俺も人間は好きじゃない。俺が素直に新子を慕えているのは新子がいわゆる「人間」とズレているからというのとあるだろう。
俺も木田も同じことを新子に関しているのかもしれない。だが……。
「新子は寂しがっていたぞ。だから、お前は間違っている」
不愉快げに眉を顰めて指先を俺へと向ける。
撃たれまくって分かったことの一つに、スキルを発動すふタイミングでほんの少しの集中を要するらしい。
その意識の集中を感じ取り、指先から真っ直ぐに放たれた風の弾丸を避ける。
「っ……」
「何発撃っても無駄だ。そのスキルはもう見切った。……木田、俺のスキルは「攻撃を拘束に変換する」だが、どこまでが攻撃だと思う。例えば後者から物を落とすのは、柔道で相手の力を利用してぶん投げるのは」
木田は答えることはなく、弾丸を避けながら木田に迫る。
「何の、話だよっ」
「まぁ、当然と言えば当然だけど、俺以外の物の力が介在していても、俺が意図的に介入して引き起こせばそれは俺の攻撃だ。……じゃあ、木田のスキルによる弾丸に、俺が投げた石がぶつかったとき、その石に俺は攻撃したことになるか、否か」
近寄ってきた俺に向けて木田は扇子を振るい、俺は自分の着ていた上着を広げるように木田へと投げる。
「目眩しなど効くか!」
「答えは「もちろんそれも俺の攻撃」だ。[
木田の前に広がった俺の上着から鎖が伸び、木田の真後ろにある石と繋がる。
「ッ!?」
木田も気がついたようだがもう遅い。俺の広げた上着は木田の風を受けて俺の方へと勢いよく飛び、上着と鎖で繋がれた石も同じ方向へと引っ張られる。
木田は真後ろから飛んできた石を回避しきれずに後頭部に直撃し、衝撃でぐらりと揺れながらも体勢を立て直そうとするが全身に鎖が巻き付いて受け身を取ることも出来ずに倒れる。
「その体勢だとスキルはどちらも使えないだろ」
「くそ……」
戦いが終わったことを察したのか、少し離れたところから新子がパタパタと走ってくる。
「木田くーん、大丈夫?」
「……俺が倒れているのを見るより先に俺の心配しなかったか?」
「あ、ごめん」
俺が拘束を解くと木田はゆっくりと体を起こしてその場に座り、顎に手を乗せて不機嫌そうに俺を見る。
「……まぁ、結果を見るのより先に俺の心配をするのも分かるけどな。これだけ暴れてかすり傷ひとつ付けられなかった。……柊が正しかった」
「あ、いや……ごめん、そういうつもりじゃなかったんだけど……」
木田は不機嫌そうに呟く。
「ダサいところ見せたな」
「新子はそういうのは気にしないだろ?」
「……俺が気にするんだよ」
木田はガリガリと頭を掻き、睨むように俺を見る。
「……西郷、俺の負けだ。連れて行ってやる」
「ああ、いつにする?」
「今からでいいか?」
「いいわけねえだろ。……家族に説明するから、明日か明後日だな」
「あー、分かった。泊まっていっていいか?」
「いいわけねえだろ。連絡先だけ置いて帰れ」
木田は不満そうに俺を見て、それから新子の方をチラチラと見る。
「……なんか勘違いしてそうだから言うけど、二人暮らしじゃないからな? 俺の妹とかもいるから泊まるのは無理だ」
「俺と妹、どっちの方が大切なんだよ」
「妹に決まってんだろ。ほら帰れ」
「ここまでクソ遠いんだけど……ホテルとかねえの?」
「ない。コンビニもない。定食屋なら一軒だけある」
木田は頭を抱えて「どうしたもんか」と呟く。
「結構疲れたし、今日はもう運転したくねえんだよな。車の中で寝るか……。風呂貸してくれ」
「断る。……ああ、多分ここから30分ぐらいのところでイタリアンを銭湯の中で食える店があるらしいからそこに行けばいいんじゃないか?」
「お前は何を言ってるんだ……?」
木田が正気を疑うような視線を俺に向けるが、俺は至って正気である。
簡単にこれからどうするかを木田と話し合う。
「それで、幾らいる?」
「いくらって何がだ?」
「金。無償ってわけにはいかないだろ。流石に言い値ってわけにはいかないが、ある程度なら出すぞ」
「相場が分からない。寄越せるだけ寄越せ」
「お前なぁ……。まぁ、日数は一週間と見て、対人があることと実力があることを考えると……まぁ相場は50万ぐらいか」
高くないか? と思って新子に目を向けるがそれほど間違っていないのか小さく頷く。
「まぁ、じゃあそれでいい。早く終わっても遅くなっても一律か? あと、俺達が介入しなくても解決した場合とか」
木田は新子の方に目を向けてむすっと表情を歪める。
「……ああ、金の話は後で話すか?」
「別に今でいい。勝手に解決しても、早く終わっても50万、反対に想定よりも厄介だったり日数がかかれば追加で出すか、諦めて解散するかする」
木田の言葉を聞き、俺は「女の子の前で見栄を張らせて申し訳ねえなぁ」と思いながら頷く。
そもそも新子目当てだから俺と協力する意味もあまりないだろうに。
簡単に話をまとめて別れようとすると、木田は新子に聞こえないような小さな声で俺にだけ話す。
「……余計なこと言うなよ?」
「はいはい。人間嫌い拗らせてないで素直に生きた方がいいぞ」
「十歳も歳下のガキに言われたくねえよ」
俺と新子は歩いてアパートに帰る。さっさと風呂を浴びたいところだが、新子も少し埃っぽいので先を譲った方がいいだろう。
そう思っていると、新子は俺の服をちょんと摘まむ。
「……ごめんね。巻き込んで」
「いや、金にもなるから大丈夫だ。柊って名乗ってたんだな。名字? 名前?」
「ん、名字は名乗ってなかったから名前ってことになるのかな」
「……名字なかったのか」
「まぁ、自称だからなんでもいいんだけど……。でも、人との繋がりって感じがするから、なんとなくね」
そんなものだろうか。
……俺にとっての西郷という名字は、母の名字を名乗らなくても良い道具だったり、あるいは名乗るだけで初から父を奪っているかのような気がする、そういうものだ。
つまりそうな息を思い切り吐き出して新子を見る。
「……やっぱり、長生きするのはしんどいか?」
新子は小さく照れるように笑い、首を傾げる。
「木田くんから変なことを聞いたの?」
「いや……なんとなく」
質問に答えることのない新子とアパートに帰り、初の顔を見る。
……数日離れるという説明をするの面倒だな。
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