武器×同衾

 新子と寝るというのは気まずさもあるが都合の良さもある。

 一応……まだほとんど習っていないが、師匠でもあることだし、話すべきことは多い。

 先程の武装の話もそうだしこの機会に話してしまおうか……と思っていると、新子はやはり恥ずかしいのかチラチラと俺を見ては平気なフリをしようとしている。


「……あの、そこまで警戒しなくても襲ったりしませんよ」

「だ、だって、ヨクくん……わ、私のことえっちな目で見るんでしょ」

「…………誤解です」


 いや、そりゃ思春期だし女の子の肌を見れば思うところはあるが、それはあくまで多少程度のものだし、むしろ何も感じない方がおかしいだろう。

 そもそも性的な視線を向けるどころか見ないように配慮するということだったので、新子のこの言動は遺憾である。


「それはさておいて……俺、ドラゴンに負けたんですけど、そこそこ善戦はしたんですよね。視界の端に人型の魔物が見えて、迷宮に迷い込んだ人かと思って集中を乱した隙を突かれまして」

「ん、あ、そ、そうだ。私は師匠だった……。師匠のはずなのになんか普通に一緒に探索してたから忘れてた……」

「頼りにしてるんですから忘れないでください」

「えっと、それで?」


 新子は話題が出来たおかげか、先ほどまでの慌て方がなかったかのように俺の方を見て軽く微笑む。


「ちゃんとした武器とかがあればもっと戦えるかと思いまして、拳で殴るとかだとこっちの方が壊れかねないので本気ではやれませんし、攻撃を防ぐのもかなり神経を使いますから」

「ふむ……武器がほしいってことだね。まあ探索者資格を取れたら武器もある程度なら持ち歩けるからね。他の探索者に襲われる可能性も考えると持っているのはいいかも」

「そこで、具体的にどんな武器が使い勝手がいいかな、と」


 ふわふわとしたパジャマの袖をパタパタと動かした新子はベッドの上で俺と向き合うような形で女の子座りをして、ゆっくりと口を開く。


「ん、んんー、そうだね。一番安定なのはやっぱり銃かな。取り回しのいい拳銃、その中で口径の大きいものが魔物に有効で人気があるよ」

「やっぱり銃か。……銃を使ってない探索者もいるよな」

「んー、まぁもちろんいるよ。単純にスキルが銃よりも威力が高くて速射が効くみたいな性能をしてたら荷物を減らした方がいいし、あと相性が悪かったり」


 相性? ……ああ、この前の桜川の狼化のスキルだと銃とスキルを同時には使えないし、簡単に脱げるような服装だとガンホルダーを付けにくいとかそういう理由があるのだろう。


 それに……一応は市街地なので銃を使うのが難しいとかがあったのだろう。柳下の影を実体化させて操るスキルも、おそらく影の本体から離れる弾丸は実体化出来ないなどの弱点があるのかもしれない。


「俺の場合はどうだろうな」

「ん、んー、そもそも銃使えるかな」


 新子幼い顔をこてりと傾げる。やっぱり可愛い顔をしているなと思っていると、新子は「ちゃんと聞いてる?」とばかりに俺の手をトントンとつつく。


「銃……まぁかなり器用な方だという自信があるが」

「いや、そうじゃなくて、銃って内部で弾丸を叩いて撃ってるわけだけど、その叩く動作にスキルが発動しないかな? って思って。半分、弾丸を壊すことで飛ばしてるわけだからさ」

「……あまり考えていなかったが、そういうのは基本的に大丈夫だな。あくまでも俺の意識によるものらしい」

「じゃあ、人を殴ったりしても「攻撃してる」ってヨクくんが思わなければ発動しないの?」

「まぁそういうことになると思う」


 そう答えたあと、新子と目が合う。どうやら同じ発想に至ったらしい。新子は俺の目を見たまま答え合わせをするように口を開く。


「つまり……攻撃と思わずに攻撃をすればいい……と、なんだか武術の極意みたいだね。無我の一撃って感じで」

「武術とかを習うのがいいんでしょうか? それとも精神修行みたいなのをするべきですかね」

「んー、ヨクくんの動きは既に人類のトップクラスだから、改めて覚える必要は薄いかも。精神修行というか、スキル側でオンオフが効かないのをヨクくんの方でオンオフ出来るようにするのがいいかもね。婚礼術は時間かかるだろうし」

「精神の修行……何すればいいんですかね」

「したことないから……ん、んー? そうだね、ほら、集中が乱れる中で何か集中力が必要な作業をするとか」


 なるほど。体調が回復したらやってみるか。


「それより先に武器かな。銃は置いておくとして、ヨクくんのスキルの特徴的に、多分斬撃と打撃が同じ扱いになるだろうから、刃とかは付いてない方が扱いやすいかもね」

「棒術ってことですか?」

「うん。自由度が高いところとかヨクくん向きだと思うよ」


 前に桜川が落とした特殊警棒を拾って使ったことがあったが、確かに取り回しは悪くなかったように思う。

 アレなら持ち運びも楽だしな。


「それと、補助というか保険にナイフとか寸鉄みたいなのがあった方が便利かも」

「寸鉄?」

「あっ、うん。これぐらいの手で隠せるぐらいの暗器。素手の延長で使ったり、戦闘以外でも色々と便利だから器用なヨクくん向きかなって」


 新子は手を広げてどれぐらいの大きさを示しながら俺に言う。手、小さいな。


「だから、ヨクくんにする私のオススメは棒とナイフと寸鉄とあとは銃とか持つって感じかな。もちろん、小さなものとかで荷物を圧迫しないなら良いと思うし、探索する迷宮に合わせて変えるのもいい」

「少し考えてみます。多分その通りの装備をすると思いますが」

「私も武器とか持って来ようかなぁ……」


 ああ、そういえば持ってないな。新子は素手でも十分に戦えることなどから対して疑問に思っていなかったが、普通は持ってるよな、武器ぐらい。おそらくは俺と初に会いにくるのに急いでいたから持ってこなかったのだろう。


「どんな武器を使ってたんですか?」


 新子のことなので何かしら取り回しが良かったり、使いやすかったりだろうと考えながら尋ねると、新子は少し照れたように頬を掻いて口を開く。


「ハルバードだよ。長い槍に斧が付いてるみたいな武器」

「派手ですね……」

「スキルと不死身の両方と相性がいいんだよ。ちっちゃい武器だと無理したら壊れやすいし、重い武器もスキルで落ちる力を減らしたら持ちやすいしさ、あと大きくて長い方が攻撃力不足も補える」

「ああ、ちゃんと考えてるんですね」


 新子は「伊達じゃないよ、流石に」と言ってくすくす笑ってから、少し眠たそうに目をとろんとさせる。


「あ、新子さん、眠いなら寝ますか?」

「えっ……あっ……そ、それ、それは、そ、そうだね……あ、あんまり、その、変なとこ、あんまり触ったりしないでね」


 いや、俺の隣でという意味ではなく……と止めるのより先に新子はペコリと頭を下げてから俺が掛けている布団の中に入り込む。


 まぁ、一緒に寝るだけで問題になるような年齢ではないか。……「あんまり触ったりしないでね」ということは少しならいいということだろうか。

 いや、しないけども。


 ……なんか思ったよりも気まずいな。見た目は幼いけど、話し方は大人と変わらないので子供という感覚ではないからかもしれない。

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