時間移動風×投石
一通り学校内を見終わる。それほど大きな学校ではないため大雑把に見て回るだけでもかなり把握出来た。
同じ形の場所を繰り返し移動するというのは面倒だが、さほど難しくはないだろう。
そう考えながら事前に拾っておいた石を手に取り、窓から飛んでいる鳥に投げてぶつける。
威力自体は大したことはないが、鎖が鳥の魔物に巻きつくことで翼の動きを阻害して地面にへと落ちていく。
「おー、相性いいね」
「新子のスキルでそのまま落とすとかは出来ないのか?」
「アレは一回触れた相手じゃないと使えないからなぁ。短い距離なら空を飛んでいけなくはないけど、空中戦が出来るほどでもないかな」
星野の新しいスキルは……まぁどう考えても使えないな。
まぁちゃっちゃと当てていくか。
「ヨク……よく飛んでる鳥に石を当てられるな」
「えっ……いや、そんな動物愛護的なことを言われても……」
「違えよ。コントロールすごいって褒めてるんだよ」
「ああ、突然動物愛護精神に目覚めて魔物を守ろうとし始めたのかと……。標的に向かって投げたら普通当たるだろ」
適当に放って地面に落としていく。俺は動物愛護の精神は持っていないが投石もそれによる落下も俺の攻撃のため鎖に縛られるだけでダメージにはならないだろう。
新子は窓の外を眺めて「落ちたダメージも無効化されるんだ」と呟いてから俺の方を見る。
「これ、そういう間接的なダメージも防げるんだったら例えばここから私を蹴り落としたりしてもダメージにならなくなるんだよね」
「しませんけど、そうですね」
「落下ダメージ無効みたいに使えるかもね。あと、寝たきりの人を殴れば床擦れを防げたり」
「いや……俺のスキルはあくまでも攻撃として認識してないので、そういう医療目的だと多分普通にぶん殴るだけになりますね」
「うわ……捻くれ者のスキル……」
俺のせいじゃないだろ……。まぁ、非常に使い勝手が悪いのは間違いない。
玄関に戻り、それから北棟の校舎を見上げる。
わざわざ外からよじ登るというのは変な感じがするな。などと思っていると、新子は首を傾げて俺に尋ねる。
「何階から入る? 1階から順番に試して見る?」
「いや、そんなに悠長にしていたら日が暮れる。1日で全てを解決出来るとは思ってないが、夜には初のために帰らないとダメだからな」
「ん、了解、じゃあ一気に四階から行こうか。五十年遡るのも十回と少しでいけるし、案外短いよね」
「そうだな」
新子が真っ先に登ろうとしたのを手で制して登りやすそうな段差に脚を掛ける。
「ヨクくん、壊れやすくなってるから最初に私が行った方がいいと思うよ」
「まぁ、落下を操るスキルがあるのでそうなんでしょうけど……新子、スカートだからな。気にするだろ」
かなりガサツな人間である自覚はあるが、流石にスカートの女の子を先に登らせて下からついていくというのは…….間違いなく見えてしまうので気を使う。
「もう……ヨクくんのえっちー」
「…………」
「冗談だよ。怖い顔やめてよ」
「……まぁ、俺から行きますね。あと、俺のスキルで鎖を垂らして登りやすくはしますし」
新子は「最近の子は冗談が通じないなぁ」と言い、俺と星野が登る後をついてくる。俺たちが登ろうとすると地面に落ちている鳥がぎゃーぎゃーと騒いでもがき出す。どうやら探索者が登ろうとしたら襲ってくるという仕組みで合っていたらしい。
「よし、じゃあ入るぞ」
割れた窓に気をつけながら四階の一番端……4年と12ヶ月、つまり5年遡るのか。窓を潜り抜けても特に変化したような様子は見えない。
安全を確認したあと振り返ると割れていたはずのガラスが割れずに残っていた。窓の下を覗くが星野と新子の姿は見えない。
時間が違う……というか、実際には時間が違うように見えるだけの別空間にいるからだろう。
少し待っていると星野と新子が出てきて、俺と同じようにキョロキョロと見回す。
「あまり違いはないな。まぁ、20年前に廃校になったのと15年前ならそこまで違いはないか。さっさと進むか。十階ぐらい繰り返すだけなら楽そうだな」」
「……少し気になるんだが、さっきの武道場のロッカーに死体はあるのかを確認したい」
「あの骨? そりゃあるんじゃないのか?」
「実際に時間を遡ってるわけじゃなくて「遡っている風」の別空間だろ。廃校前に遡っても生徒がいるってわけじゃないだろうしな」
星野は少し考えたあと頷く。
「いいぞ、さっきのとスクワット侍と同じやつがいたらもう一本予備にほしいしな」
「それはやめてやれよ……」
校舎からの脱出は玄関からしか出来ないため廊下を歩いてから階段を降りる。
出てくる魔物も大したことはなく、さして変化がないように思える。
武道場に行って中を覗くとスクワットはおらず、ロッカーの中に骨はなかった。
「なかったな。どうしたんだ。そんなに実際時間を遡っているか確かめたかったのか?」
「……ああ、もしも本当に見掛け上だけではなくて時間を移動出来ていたのだとしたら……」
親父に会えたかもしれない。けどまぁ……そんなに現実というのは甘くないようだ。
「じゃあどんどん登っちゃおうか。あ、でも、窓からの攻撃が無理なら鳥の魔物が怖いね」
「まぁ、流石にそこまで飛距離出すのは面倒だしな。……いや、星野、上着くれ。破るから」
「えっ、それは普通に嫌なんだが……」
と星野は言いながらも上着を俺に渡して、俺はそれを破いていき紐状にする。
「なんだそれ」
「投石器。素手より遥かに遠くに投げられる。……らしい」
「らしいって……やったことねえのか?」
「現代人が道具を使って投石するわけないだろ。けど、やり方はこれで合っているし、日本でも昔は印地術とか言って合戦でも使われていた技術だし、そこそこ信用出来るはずだ」
「……欠点は?」
「習得が難しい。あと普通に銃の方が強い」
「ダメじゃねえか……俺の服の袖がロックンローラーになっただけじゃねえか」
まぁそれなら別にいいだろ。布を使って遠心力によって石を高く投げるも、鳥の魔物から離れたところに飛んでいく。
「……ヨク、なんか言うことはあるか?」
「もう一回やらせてくれ。あと、ほら、ワイルドな男はモテるって聞くしさ」
「袖が破れているだけでワイルドさをアピールするのはキツくないか?」
「でも、ロックってのはそんなもんじゃねえかな」
「お前にロックの何が分かる」
とりあえず破いてしまったものは仕方ないので何度か練習しようかと思っていると、新子が後ろから俺の手を握って「こう持った方がやりやすいよ」と教えてくれる。
「新子、やり方分かるのか?」
「まぁ、長生きしてるしね」
1800年代ってそんなに主流じゃないと思うが……いや、化け物扱いされていたら一箇所に留まらずに各地に引っ越し続けるだろうから、狩りの一環として覚えたのかもしれない。
新子に習って何度か試していると鳥の魔物に当たり始める。
なかなか悪くないな、帰ったらちゃんとした物を買うなり作るなりしてもいいかもしれない。
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