†×警察

「お金は平気だよ。私、これでもお金持ちだからね」

「まぁ、お嬢様学校通ってるんだったらな。というか、親とか反対しないのか? かなり急な話だが」


 俺がツツを心配して尋ねると、ツツはほんの一瞬だけ表情を固くして、唇を小さく動かす。


「……平気だよ。自主性を重んじる家だからね。お金持ちなのも家がじゃなくて、私がだしさ」


 星野の方にも目を向けると、星野はゆっくりと口を開く。


「俺は……あー、金貸してくれ。迷宮には潜るんだったらそこで稼ぐが、引っ越すのに先立つものがない」

「あ、じゃあそれは私が出すよ。というか、今の東京に住むなら不動産屋も扱ってないから用意しておくよ」


 ツツも星野も、よくそんな簡単に決められるな。

 いや、元々探索者としてどこかに引っ越したりするつもりだったのだろう。


 ……二人はどういう生い立ちで、どういう家庭環境なのだろうか。あまりマトモではないのは、こんなところにいるのを見たら分かるが……。


 ゆっくりと息を吐き出して一歩下がる。


「あ、ところで、チーム名みたいなのあるの? 西郷くんとその妹? がふたりだし、特に決めてない感じ?」


 ツツにチーム名と言われて、これから複数人でやっていくことになるという自覚が湧いてくる。

 そうか、一応組織やグループというものになるのかと思っていると、新子は俺と初に向けて口を開く。


「そうだね、これからのことを考えるなら呼び名ぐらいは決めておいた方が便利だと思うよ」

「呼び名……名前ですか? 父のものがあればそれを引き継いでいきたいですけど……」

「西郷くんは完全に個人だったからそういうのはなかったね」


 初は当てが外れて少し胸の前で腕を組んで考える。


「んー、急な話ですし、考えたこともなかったです。……普通、そういう探索者の集まりの組織ってなんて言うんですか?」

「まぁ法人化してるところは普通に会社名だし、個人のところはみんな好きに名乗ってるよ。慣例的には、漫画の影響か何かで、大人数のところをギルドとかクランとか呼んだりその中で迷宮に一緒に潜るメンバーをパーティって呼ぶことが多いね」

「ん、法人……って会社ってことですよね? 会社にするといいことがあるんですか?」

「普通に税金関係とか、あと社会的信用とか、いろんなところと取引しやすかったり……まぁ、お金が発生するような状況じゃないし、そういう事務手続き出来るような人もいないから今は気にしなくていいよ」


 つまり、名前自体は現状「俺達は仲間である」という認識を深めるためのものということか。

 まぁそれも必要なものかと思っていると、ツツがピンと指を立てる。


「じゃあ、ツツちゃんの迷宮攻略隊はどう?」


 ツツはドヤ顔をしながら俺に顔を近づける。


「ツツが代表でもなければ迷宮を攻略することが目標でもないだろ。却下だ却下」

「むー、じゃあ誰が代表なの? あと目標も不明だしさ」


 俺がゆっくりと初の方に目を向けると、ツツは少し驚いたように首を傾げる。


「あ、ヨクくんじゃないんだ」

「……一応な、初は何かあるか?」


 初は意見を求められて「んー?」と首を傾げて考え込む。数秒経ったあと嬉しそうに「あっ」と声をあげる。


「えっと、【暗黒より出ずる混沌の使者の軍勢†ダークネスカオスレギオン†】っていうのはどうですか?」

「えっ、なんて?」

「【暗黒より出ずる混沌の使者の軍勢†ダークネスカオスレギオン†】」

「…………おう! いい名前だ。それにしようか」

「ヨクくん、止めてあげるのも優しさだよ?」


 いや、俺には無理だ。初めて見るぐらい目をキラキラさせてるんだもん、初さんが。

 俺が初に反対出来ずにいると、新子が誤魔化すように星野の方に目を向ける。


「あ、あー、えっと、星野くんは案とかあるかな」


 俺は初の意見に賛同するだろうという判断からか、新子は俺を飛ばして星野に尋ねる。

 星野は子供にしか見えない女の子に仕切られていることに驚きつつも頭を掻く。


「あー、正直頭がさっきのことから切り替わってないし、話もあまりついていけてないんだが……そうだな。そっちの目的は知らないけど、結局協力するのは月もそっちも、ロクでもないやつに狙われている身だからだろ?」

「星野からしたらロクでもないやつとは限らないだろ。俺達を狙ってるやつのことは知らないわけだし」


 もしかしたら俺たちが悪い奴かもよ、という意味を含めて星野に言うと、星野は「何言ってんだコイツ」とばかりの視線を俺に向けて、人差し指でぐりぐりと俺の頬を突く。


「あんまり俺のことを馬鹿にするなよ。会ったばかりの月を庇って撃たれた奴が何言ってんだって話だ。俺はお前を信じる。お前に協力するのも月のためだけじゃない」


 星野はハッキリとそう言った後、フンと鼻を鳴らしてから俺を見る。


「お尋ね者同士が手を組む……か、そうだな。あー、そのままだけど「ウォンテッド」ってのはどうだ? ちょっと悪党っぽいけど、お前も月も露悪的だから丁度いいだろ」


 ウォンテッド……指名手配犯か、まぁ、確かにそのまんまって感じだ。

 初は少し考えた表情をして【†闇の賞金首ウォンテッド†】ですか……アリですね」と口にする。


 お初さんの「†」ってどうやって発音してんの?


 新子は手をパンと叩いてニコリと笑みを浮かべる。


「じゃあ、特に反対案もないみたいだし、それで行こっか」

「えっ、いいのか? 俺の案で決めて。パッと見、俺が一番関係ないところから首突っ込んでると思うんだけど」

「仲間になるなら関係ないなんてことはないよ。ね、ヨクくん」

「まぁ……そりゃそうだな。【†闇の賞金首ウォンテッド†】でいいんじゃないか?」

「じゃあウォンテッドで決定ね。じゃあ結成ってことで。結成のお祝い……と行きたいところだけど、警察来たみたいだね」


 俺と初の意思は無視された。

 新子の視線を追うとぞろぞろと警察がやってきて、任意で事情を聞くために俺とツツと星野は警察署に行くこととなり、東は少し遠いらしく夜遅いこともあって家に帰るのが難しいということで新子と初に連れられていく。


 それから取り調べ……というには穏当というか、怖い目に遭った学生を安心させようとしてくれている警察に囲まれながら状況を説明し、個人情報を伝えた後一泊だけして、親身になってくれた警察に朝食を奢ってもらってから解放された。


 警察署の前でスマホを確認すると既にツツと星野は先に帰ったらしくメッセージが入っていた。

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