ハンバーガー×決断
【ルール3:魔物が生命活動を停止して一分経過すると、その死体はなくなり稀に特殊な道具が出現する。】
早く初に会いたいと思いながら電車に乗る。
出勤時間が終わったような時刻のためか人がおらずガランとしており、暇つぶしに見た迷宮のルールを見てため息を吐く。
俺のスキルだと、この所謂ドロップアイテムの取得が出来ないため、一人で活動した場合収入が大きく落ちるだろう。
まぁ、それよりも注目すべきところは分かりやすく敵と味方の両方が増えたことか。
現在の味方陣営は俺と初と新子に加えてツツと星野の五人。敵はたくさん。
……ツツの能力がどれほどのものか気になるな。
俺が銃弾を避けながら数人を倒したところを見て「同格」と判断したことを思うと相当な自信があるのだろう。
そう考えたあと、自分の中に「同格であってほしい」という願いがあることに気がつく。
初と出会ってから、自分のことを見つめ直すことが増えた。初に「俺はこんな人物です」と伝えるために自分のことを考えていたせいだろう。
だから分かる。初と、それからツツと出会ったことでハッキリと理解する。
俺は俺が嫌いだ。
努力も何もなしに強い俺のことを卑怯だと思っている。
だからこその【英雄徒労の遅延行為】というスキルが生まれたのだろう。大嫌いな俺の行動を阻害し、縛りつけるスキルを。
自己嫌悪と自縄自縛の塊である俺の人格を表したような「自身の動きを阻害する鎖のスキル」。
深くため息を吐いて、電車の床に目を向ける。
散った桜の花びらが誰かに踏まれたのか黒ずんだ色をして張り付いていた。
家族が欲しい、友人が欲しい、理解者が欲しい。だから俺は……「弱く」なりたかった。
「……期待しすぎだな」
多分、ツツは俺よりも弱い。
俺が本気を出せば着いては来れない。だから……期待するな。
駅に着いて改札を出たところで「よっ」と声がかけられる。
「お勤めご苦労さん」
「お勤めって、人聞き悪いな……というか、お前もだろ、星野」
何の用だろうかと思っていると、星野は駅の柱にもたれていた身体を俺に向けて、ポケットから何かの紙を取り出す。
「これ食いに行こうぜ。さっきもらったんだ」
星野はチェーン店のクーポン券をピラリと見せて、ニヤリと笑う。
そういや、クーポンが昨日までって言ってたけど、新しいのもらえたのか。
「ツツはいないのか?」
「あー、引っ越しの準備とか色々するってよ」
「高三なのに自由だな」
「まぁ、高卒認定試験を受けたらいいだけだしな」
「……友達への誕生日プレゼントとかは?」
「一緒に買いに行く時間がないから一人で買いに行くだろ。俺達が一緒にいっても役に立たないだろうし。ヨクもプレゼントして喜ばれた経験とかないだろ」
少し考えてからポケットに入っているビー玉を思い出す。
「いや、あるな。けど、まぁ……俺が渡したら何でも喜びそうだけど」
「唐突にすげえ惚気られた……」
バーガー店に入って、星野にクーポンを見せられて一番シンプルなセットのクーポンを千切る。
「奢ってもらっていいのか? 金ないんだろ?」
「昨日奢られたしな。その分を返すだけだ」
「……まあ、そういうことなら」
二人でクーポンを使って注文したあと、すぐにやってきたハンバーガーセットを持ってスカスカの店内に座る。
ポテトをつまみ、ジュースを飲んでから星野の方を見る。若い割に苦労をしているのか表情はほんの少し大人らしく、けれども俺よりも急いで食う姿は幼くも見えた。
人というものと深く関わろうとしたことはなかったが、改めて見れば呆れるほどに多種多様だ。
「ん、どうかしたか?」
俺が星野の顔を眺めていると不思議に思ったのか星野が訊ねてくる。
「……ああ、いや、今日はなんで俺とふたりきりになろうとしたんだ?」
「いや、男とふたりきりになろうとする趣味はねえよ」
「警察署から解放される時間なんてさほど変わらないだろ。ツツは俺を待ちたがるだろうし、そうなると星野が帰ろうと提案して一緒に帰ったんだろうが……本人はこうして俺が降りる駅で待ってたわけだしな」
ふたりきりになろうとした……というよりかはツツのいないところで話そうとしたというのが正解だろうか。
星野は少し視線を上げて俺と目を合わせたかと思うと、ハンバーガーを持っていた手を下ろした。
「月は俺よりも優秀だ。というか、俺は凡人だからな。幼い頃から月を隣で助けようと努力はしてるが、結局まぁそこそこで」
星野は関係のないことを語ったかと思うと、ジュースの紙コップについた結露の水滴を指で掬う。
「でもな、俺は月を助けたい。凡人でも、非才でも、やれることはやりたい」
「……それで?」
「ヨク達の目的は知っておきたい。あまりに危険そうなら、俺だけが加入する」
「星野は来るのか」
「恩があるし、見捨てたくないからな」
案外義理堅いなコイツ……と思いつつ、周りに他の客や店員がいないことを確認する。
「……俺の目的というのは、初を守ることだ。まぁ、星野と同じような具合だな」
「惚れてるのか?」
「ああ、だから、初を変な目で見るなよ。それで初の目的は迷宮の攻略に関してで」
俺の言葉が言い終わる前に星野は眉を顰める。
「叶えたい願いがあるのか? ハッキリ言って、無謀だと思うぞ。迷宮を攻略出来たのは「戦争をなくした」奴らだけで、迷宮での死人はその何万倍もいる」
「いや、逆だ。他人の迷宮の攻略を阻止したいとのことだ、どんな願いに関わらず、強すぎる力を使うべきではない……というのが、初と並びにその父親の考えだ」
俺の言葉を聞いた星野は驚いた表情を浮かべる。
「……迷宮を消したいってことか?」
「それも含めてだな。新子は不死身を捨てたい、そのために迷宮について研究してほしいから協力するって具合だ」
「……話が突飛すぎてついていけねえなぁ」
と星野は言いながらもポテトをつまむ。
「俺達を狙っている敵は、初の父親の遺産である研究成果が目的だ。簡単にだが、俺達のことは話したぞ」
「……月は安全か?」
「それは現状と比べての話だろ。あれはツツの現状がどう危険かを知らないからな。まぁ……俺達を狙う奴は命までは取ろうとしなかったし、仲間に引き込もうとする程度の分別はあった。家を燃やされたから最悪だけどな」
星野は悩むように腕を組み、それから俺に目を向ける。
「……まぁ、問答無用で殺しにかかってくる奴よりかはマシか。そっちはどうなんだ、俺達と組むメリットはあるのか?」
「命を守るだけじゃなくて研究のために頭数と人手が欲しいからな」
「……お互いに問題はあるが、メリットも大きいという具合か」
「そういうことになるな。ついでに言うと、今この場での決断は人生を丸々変える可能性が高いぞ。良くも悪くもな」
俺がそう言うと、星野は首を横に振る。
断られる……と思ったがそんな顔ではなかった。
「ここで決断はしない。何故なら、俺はもうとっくの昔に、小学生の頃には「月を守るために最善を尽くす」と決断を済ませているからだ。手を組もう、ヨク」
「……よくそんな小っ恥ずかしい宣言が出来るな。まぁ、改めてよろしく。……もう一人いた女の子はいいのか?」
「ああ、アイツも資格取ったら合流するってよ」
資格を取れるのはしばらくあとになるだろうが、もう一人人手をゲットか、悪くないな。
「それで、月を狙ってる奴だが……月から聞いてくれ俺の口からは話せない」
「……勝手だな。まぁ、ツツは隠しそうにないから別にいいが。そっちは解決の糸口はあるのか? こっちは人数が増えて組織力が増したら狙われにくくなると思うが」
「今まではなかった……が、昨日のことで糸口が見えた」
星野はハンバーガーを食べきって包み紙をグシャリと握りつぶす。
「他の奴に発見されていない【試練の洞穴】から続く道……そこを調査すれば、何か分かる可能性は高い」
まぁ、調べる価値はあるか。ツツは仲間になったわけだしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます