不老×二百年
「……えっと、もしもし、確かに西郷ですが……」
俺が困惑しながら答えると、電話の相手は「あれ? 声が若い?」と不思議そうな声を出す。
「この電話番号知ってるのは西郷くんだけのはず……というか、あ……もしかして西郷くんのお子さん?」
「……ええ、はい。父の遺言に従って電話をかけさせていただきました。今はお時間大丈夫でしょうか」
「大丈夫だけど……えっ、うそ、西郷くんが死んだの?」
「十日ほど前に……すみません、バタバタしており連絡が遅れてしまいました」
「いや……そっか……。あー、じゃあ、ちょっとまずいね」
女性は悲しそうな声色だが、声の高さに似合わない冷静な様子を変えずに話していく。
「……えーっと、あー、ごめん、形式的なやりとりをするべきなのかもしれないし、心情を慮るべきかもしれないけど」
「いえ、大丈夫です。既に昨日、九魔三頭を名乗る人物に襲われました。今回は退けることが出来ましたが、一人ならまだしも五人や十人で来られると妹を守ることが出来ないかもしれません」
俺の返事を聞いた電話先の女性は「えっ、退けたの? 五人や十人相手で出来るの……?」と困惑の声をあげてから、おほん、と咳払いをする。
「あ、うん。……とりあえず今は無事なんだね。あー、今そっちの方に向かってるけど、結構遠いから明後日の昼……いや、朝ぐらいになると思う。ちょっと歩きながらの電話になるから電波途切れるかも」
「いえ……ありがとうございます。本当に、助かります」
そう口にしてから、ゆっくりと息を吸う。
「……あの、絶対にお気を悪くさせると思うことを聞いていいですか?」
「私は信用出来るのか、かな」
俺の言葉を先読みしたように女性は言う。
「まぁ、父親が死んだあとすぐに襲われたとなると、気持ちは分かるよ」
「……ありがとうございます。聞かせていただいてもいいですか?」
「まぁ、私としては一人娘って聞いてたのに兄が登場してることに困惑してるからそっちを聞きたいけど……。あー、そうだね。メールアドレス教えて、あと、何かポーズの指定をして」
ポーズ? と疑問に思いながらメールアドレスを口頭で読み上げて右手をあげた格好と指定すると、すぐにメールが来る。
初と二人で添付されていた画像を見ると、初以上に幼い少女が右手をあげている自撮り写真だった。可愛い女の子だけど、これが何か関係あるのだろうかと思っていると、繋ぎっぱなしの電話から女性の声が聞こえる。
「これが何か……ただの可愛い女の子の写真ですが……」
「それ、私なの」
「いや……親父の知り合いってことはそんなに幼い……若いはずはないと……」
「ちょっとした事情があって不老なの。それを治すために西郷くんに協力していたんだ。こう見えても西郷くんよりもよほど歳上なんだよ」
「……それと信用はあまり関係ない気がします」
事情……おそらくそういうスキルだろうか。
「西郷くんの研究の中に私の体を治すものがあるよ」
「……でも、父の研究は途絶えたわけで、妹が引き継ごうとはしていますが父と同じところに辿り着くのにさえ何年後になるかは分かりませんよ。元々協力していても痺れを切らすって可能性は高いかと」
仮に初が30歳になったころ、やっと親父の研究者としてのレベルに追いついたとしても17年後だ。途中初が諦めるかもしれないし、そこからスキルをどうこうという話をしても時間的に厳しいだろう。
「不老だから時間は気にしなくていいんだよ。こう見えても西郷くん……お父さんよりもよっぽど歳上だからね」
「寿命はあるかもしれないでしょう」
「いや、ないと思うよ。あったらとっくに過ぎてるはずだしね」
……いや、迷宮災害があったのは二十年前だぞ? 元々百歳とかでスキルを得たとか……いや、なんか妙か感じがするな。
どういうことだろうか。と考えていると、俺の疑問を察したように女性は口を開く。
「二百年以上生きてるよ。迷宮はたくさん出てきたのが二十年前ってだけで、実際はもっと昔からあったの」
「……そんなこと初めて聞きましたが」
「西郷くんの研究も二十年以上前から続いているはずだし、私についての研究もあるはずだから調べたら分かると思うよ」
二百年以上生きているとか、迷宮災害以前から迷宮があったとか……信じがたい情報が出てくるが、こちらが調べればすぐに分かることなのでおそらく嘘は吐いていないのだろう。
「……はい。分かりました。すみません疑ったりして」
「いやいや、妹さんを守るために必死なんでしょ。仕方ないし、気を悪くしたりもしてないよ」
その返事に少し安心していると、電話先の女性は「ところで」と口にする。
「君の正体は? 西郷くんは娘が一人って言っていたけど」
「……あー、まぁ、法律上は息子です。血の繋がりはないので話題に上がっていないのは不思議ではないです」
「怪しさを解こうとしたら私よりも怪しい人が出てきたね……」
「あー、いや。まあ、全く否定出来ません。後日役所に戸籍とかもらってきましょうか?」
「いや、いいよ。名前は?」
「西郷良九です」
「ヨク? よく……良い九かな、漢字は。なるほど、西郷くんの息子さんなのは間違いなさそうだ」
女性は一人で納得した様子でうんうんと言ってから「あっ」と声をあげる。
「名前どうしよ? 不老だから時々変えてるんだよね。今風の名前がいいよね」
「……戸籍とかどうなってるんですか?」
「初めて作ったときのはもう死んでることになってる。……うーん、そうだね。初ちゃんとヨクくんと一緒にいてもおかしくないように西郷を名乗らせてもらうね」
すげえカジュアルに人の苗字を取っていくな、この人……。
「名前は……ん、そうだね。今215歳だから
適当な……と思ったが、まあそっちの方がいいのか?
とりあえず初には許可を得たほうが良いと考えてスマホから耳と口を話す。
「初、協力してくれる人が一緒にいるという都合のために、西郷に苗字を合わせたいそうだが、大丈夫か?」
「えっ……あ……」
「嫌なら断るが」
「い、いえ、わがままを言える立場ではありませんから。……というか、えっ、一緒にいるんですか?」
「そりゃそうだろ……魔法かなんかで敵がいなくなるってわけでもないんだし。女性みたいだし、初としても安心だろ」
俺がそう言うと、初はモジモジと指先を合わせる。
「で、でも……兄さんは……嫌だったりしません?」
「……いや、別に」
俺がそう答えると初はすっと不機嫌そうな表情をして「問題ないです」と返事をする。
いや……なんで怒ったんだ……。
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