15 はっきりして
「はっきりさせましょう」
「な、何をですか……?」
「今夜、理絵さんがどっちの男と寝るか」
「はっ?」
「はっ?」
私と司は同時に声を上げてしまいました。
「いいかげん、うざいんですよ。理絵さんをそろそろ離してくれませんか」
「俺は……理絵を離さないとか思ってない。すでに離婚しているんだ。俺はただ婚活の勉強をしているだけで」
「もうそういうのいいですから、終わりにしましょう。理絵さん」
「は、はいっ?」
思わず正座してしまいました。
「夕食はこの鶴の間で食べて。いいの予約してるから」
「う、うん……」
「司さんは鳩の間でコンビニ弁当でも食べてればいいですよ」
「お、俺だって夕食は宿の料理をお願いしている!」
司の抗議を三井さんはまるっと無視して、私への話を続けた。
「それで、食後に大浴場に行くだろ?」
「うん、そうだね……」
「その後、鳩にいくか鶴にいくか決めて。もちろん鶴にくるのわかってるけど。鳩には待ってても無駄なんだってわからせてやるのも愛情だ。理絵さんが来なかったほうは、きっぱり諦めて手を引く。それでいいな?」
「……いやだ」
「はあ?」
三井さんは呆れたと言わんばかりの顔をしています。
「俺には契約書がある。理絵が誰を選んだとしても、俺の婚活がうまくいくまで理絵は俺と暮らすんだ!」
「あー、そういうことか。読めてきた」
「え、どういうことですか」
三井さんはにっこり笑いましたが、なんかちょっと怖い笑みです。
「意地でも理絵さんにへばりついて離れる気はないってことだろうね。もしかして婚活しているのもポーズだけで、あえて振られるようにしてたりとか?」
「え、そうなの……? それって私との契約書を守る気がないってことだよね。裏切りだよね……」
私が眉をひそめると、司はあわてて否定しました。
「そ、そんなことない、婚活はちゃんとやってる。たまたま結果が出ないだけだ」
それに三井さんがすかさず「でしょうね!」とツッコミを入れました。
「普通に素で振られてるんでしょうね、わかります。だって司さんってイケメンになってもメンタルは非モテのままですもんね!」
「……」
なんかすごい陰のオーラ漂う目つきで司は三井さんを睨んでいるけど、三井さんは涼しい顔をしています。
「……さてはおまえ学生時代は陽キャだったな。その血も涙もないイジリ、これまで何度味わわされてきたことか!」
「あはははは」
私はいま一体何を見せられているのでしょうか……。
その後、あっという間に日が暮れて、豪勢な夕飯をいただき、味もよく分からないまま食べて、お風呂に浸かって、そして無心で髪を乾かして、えっと、それでこのあとどうするんだっけ。
どうしたらいいんだっけ?
ケェェエって鳴く優美な鳥にする? くるっぽぉって鳴く親しみやすい鳥にする?
<つづく>
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