14 温泉に行こう、いや3人でではない
「温泉、温泉か、温泉ねえ……」
ああ、どうしましょう。
先日、三井さんに温泉旅行に誘われてしまいました。それってつまりあれでしょ。あれだよね。あれだわ。間違いないわ。そうかあ……。
えっと、最後にしたのはいつだっけ……。司とは結構長い間セックスレスだったから、もう思い出せないぐらい前だなあ。そうかあ、久しぶりにそういうことになりますか。正直あんまり……。まだ早いような気持ちがあるんだけど。でも三井さんのことは好きだし。30にもなってこんなことで悩むことになろうとは。我ながらウブで困ってしまう。
「いやでも温泉かあ……」
自室で苦悩していたら、ドアをノックされました。
「何?」
「入ってもいいか」
「いいけど」
司はドアを開けると、何とも言えない顔をして立っていました。
「どうかした?」
「リビングにレトルトカレーとかレンチンごはんとかが置いてあるんだけど、あれ何」
さあ、芝居の見せどころよと自分に言い聞かせながら、なんでもないことのように私は話し出しました。
「今度、友達の家に泊まりで遊びに行くことになったんだ。それで、私が食事当番の日の分を買っておいたの。食べてね!」
「……三井さんの家に行くのか」
「ち、違うよぉ、私たちまだそういう関係じゃないよ。女友達だってば」
「ふーん。お土産買ってきてくれよ。温泉饅頭がいい」
「わ、わかった。温泉饅頭ね」
司はそれだけ言うと、部屋から出て行きました。ばれてなさそう! よし! ……ん? 温泉饅頭? 私、温泉に行くって言ったっけ?
で、まあ、どうなったのか。嫌な予感はしていましたが、まさかね、そんなまさかねえ~と思ったんですけど、温泉旅館についたら司がいました。いやいやいや……。
いや、なんで? 何しにきたの? まさか3人で一部屋に宿泊ですか? 合宿かな!?
チェックインしたばかりの私と三井さんの部屋にあがりこんだ司は、「俺は偶然おなじ旅館に泊っていただけだが、たまたま二人を見かけたので声をかけた」とばればれの嘘をつきました。絶対あれでしょ、私を尾行してついて来たんでしょ! でも理由がわかりません。まさか嫉妬でしょうか? でも、だったら「ほかの男のところになんか行くなよ!」とか言って引き留めれば良くないですか? 私を口説くのではなく、自分も温泉旅行に参加ってどういうアレなんでしょうか!?
三井さんは妙に澄ました顔をしてお茶を飲みながら、「ところで司さんは、どこのお部屋をお取りになったんですか」と尋ねました。
「鳩の間だが」
鳩はこの宿で最低ランクの部屋です。きっと予約を入れずに来たものだから、鳩しか空いてなかったんだろうなあ。
「そうですか。ここは鶴の間なんですよ。司さんのとった部屋よりランクがずっと上のようですね」
「は、鳩には鳩の良さがある」
「それは認めますが、しょせん鳩ですから」
「鳩の何が悪い!」
「ねえ、これ何の話?」
「理絵さんが今夜どっちの部屋に泊るかって話」と、にっこり笑いながら三井さんが言いました。
「え?」と私。
「は?」と司。
どういうこと!?
<つづく>
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