13 もげる物


 さわらぬ神にたたりなし……私がそろりそろりと着替えを用意し、浴室に向かっていたら、唐突に神は吠えました。

「なんでだよ! 俺は婚活全敗なのに、なんで理絵はもう男を落してるんだよ、ずるいだろ!」

「ええ……。そんなこと言われてもさ……」

「おかしい、俺のほうが理絵よりイケメンなのに」

「さっき非モテとか言ってなかった!?」

「やっぱりあれか? 女のほうが有利なのか? 俺も女だったら良かったのか?」

「ちょ、思考がおかしい方向に行ってるよ! 落ち着いて!?」

「理絵~」

 司ががばっと身を起して抱きついてきました。

「やだ、離してよ」

 振り払おうとしても、理絵~理絵~と言って離れません。

「嫌だ、俺を置いていくなよ……」

 なんだかドキリとしました。司はとても暗い声をしていて、思い詰めてる感じがしたのです。婚活がうまくいかないからって、まさか自殺とかしないよね? 大丈夫だよね?

「つ、司……?」

 司の背中を撫でてやると、びくりと震え、でもすぐに私から身を引き離して、自室へと走っていきました。部屋のドアを閉めるとき、一瞬顔が見えたけど、きらっと何かが光ったような気がしました。もしかして涙?

「司!」

「恋愛の勝ち組は全員もげろ!」とドアの向こうから返事が。


 もげろもげろって言うけど、何が?

 


 <つづく>

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