10 目の前で夫が振られる
やっと司のことを忘れて三井さんのことに集中できていたというのに、なぜか三井さんが「あれっ」と声をあげました。
「どうしました?」
「いや、元夫さんが……どうしたんでしょう」
私もしぶしぶ司のほうを見ると、席には司だけしかいません。テーブルにはお札が置かれており、女性の姿はありませんでした。
これは……もしや……?
そのとき、司と目が合いました。そして……いやいや、嘘でしょ、待って待って、いやほんとちょっと。
「理絵、困ったことになった」
司は私に話しかけてきました。いまデート中なんですけど? 元夫が話しかけてくるとか論外なんですけど? 気が利かないなあ!
「立ったままもなんですから、どうぞ」
三井さんが慇懃無礼に着席を促すと、夫はするっと椅子に座りました。
「うわあ、座っちゃうんだね……」
一つのテーブルに3人で向かい合うトライアングル状態。なんだこれ。
「あ、はじめまして。俺は栗林司と言います」
座ったまま自己紹介する元夫に、自己紹介を返す彼氏(候補)。
そして司は私のほうを向くと、
「さっき一緒にいた女性なんだけど、俺がトイレから戻ったらいなくなってた。あと、テーブルにこれが置いてあった」
と言って5千円札を私に突きつけました。
「これってどういうことだろうか」
「どういうって、振られたんじゃないのかな。司が嫌われることをしたんだと思うよ」
「り、理絵さん……もうちょっとオブラートというか……」
三井さんが慌てている。
「いや、大丈夫です。三井さんでしたか、俺ははっきり言ってもらったほうがいいんで」
「そうですか……」
「振られたのだとして、ここにあるのは5千円札なんだ」
「うん」
「彼女の食事代は3000円ちょっとなんだ」
「うん」
「お釣りを渡さないといけないんだけど、どうしたらいいのかわからない」
「ううーん」
しょーもないことで悩んでるなー。
「今から追いかけたほうがいいのか?」
私は頷いた。
「追いかけて、それで自分の非を詫びてみたらいいよ。それでワンチャンあるかどうかがわかるから。ダメそうならお金だけ返してさよならしてくればいいと思う。もし要らないって言われたらもらっとけばいいよ」
「……ワンチャンあるかどうかって、どうやったらわかるんだ?」
私は頭を抱えてしまった。三井さんも「うーん」と唸ってしまっています。
<つづく>
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