8 出会い
司のサポートで、婚活について学んでいるうちに、私も男心ってやつがだんだん分かってきて……なんてことは全くなくて、全然分からないままですが、それはそれとして、本やネットで見たノウハウを次の出会いに生かそうという、新しい出会いに対して前向きな気持ちが芽生えてきました。
不思議なことに、出会いってのは、古いものを捨てて次の恋を意識し始めるとポンと日常に飛び込んでくるものなのです。
私の勤め先の会社の顧問弁護士が変わり、といっても法律事務所は変更なく、担当弁護士が変わっただけなんですが、新任の弁護士が挨拶に来ました。私はまったく関係なかったのに、たまたま担当者が病欠で、そのピンチヒッターとして私が挨拶をすることになりました。
「なんでも相談してください」
三井弁護士と名乗る30代ぐらいの柔和そうな印象の男性からそう言われ、
「ありがとうございます。そのようにおっしゃってくださったこと、担当の者に伝えておきます」と私が言うと、彼は微笑んで「会社のことだけでなく、個人的にお困りのことがあったら、なんでも相談いただいて構わないですよ。家庭のこととかでも。お金はいただきませんから」と言ってくれました。
でも、私は首を横に振りました。
「とんでもない。そんな失礼なことはできません」
「失礼、ですか?」
「ええ、だって弁護士さんにとって相談に乗るのは仕事でしょう? 仕事をしてもらってタダだなんて失礼です」
この方はあくまで会社の顧問弁護士なので、個人的な理由で相談するなら、別途料金をお支払いすべきなのだ。私がそう言うと、三井弁護士は驚いた顔をされました。
「そんなふうに言われたのは初めてです」
そして、にっこりと微笑まれました。私を見る目がぐっと優しくなった気がしました。
それから、週に一度は三井弁護士と会うことになりました。もちろん会うのは社内でです。顧問弁護士としての打ち合わせに来たときに、なぜか私とも話をしていくのです。彼はなんだか話しやすくて、ちょうど誰かに話を聞いてほしかったタイミングもあって、すっかり甘えてしまいました。また、ただ単に聞くだけではなくてしっかりツッコミを入れてくれるところも好印象でした。ああ、ちゃんと話を聞いてくれているんだなあって思えて。
だいぶ打ち解けてきてから、三井弁護士は独身で、私はバツイチ……ということも話しました。私ってバツイチで合ってるよね? と一瞬迷いましたが。一緒に暮らしてるもんなあ。でも離婚自体はしているわけだしね。
そんなこんなで、二人で食事にいく約束をするようになるまで、そう時間はかかりませんでした。
<つづく>
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