6 夫を変身させましょう
離婚届けを出した後、私たち元夫婦が最初にしたことは、夫こと
「やっぱり結婚相談所がいいんじゃない?」と言う私に、
「そういうところって、年上のオバサンしかいないイメージがある」と渋る司。
贅沢を言えた立場ですか……?
「じゃあ、ネットの婚活サービスにする?」
「遊んでそうな女性が多そう……怖い……」
チキンすぎんか?
「じゃあ、えーっと合コンかな。私たちも合コンで知り合ったんだしね」
「離婚を隠してるから、合コンする相手がいない」
た、たしかに……。
「……」
「……」
これは詰みってやつでは。
「もー、贅沢言わずにネット婚活に登録しなよ、手軽だし。ねっ、決定!」
「い、いやだ、それだけはいやだー! そうだ、誰か知り合いを紹介してくれよ」
「無理無理。さあ、どこのネット婚活サービスにしようかなあ」
スマホでネット検索していたら、ふと婚活パーティーの広告が目にとまりました。
「あ、これなら……」
そうして、司は婚活パーティーとやらに参加することになりました。もちろん私が勝手に申し込んだのですが。
「婚活パーティーには付いてきてくれるか?」
「いやいやいや、行くわけないでしょ。一人で頑張ってきてよ。自分の力だけで女を口説け。頑張れ」
司は怯えた顔をしました。なんでそこで怯えるのか全然わかりません。
「もちろん丸腰で行けとは言わないよ。婚活勝負で勝てるように変身させてあげるから安心して!」
「は?」
そして婚活パーティの日。私は朝から司を連れまわしました。まず美容室にいき、今風かつ顔立ちに似合うようカットをしてもらい、ヘアセットの方法も伝授してもらいました。怯える司を美容師さんに引き渡すとき、ペットを獣医さんに預けるときのような気持ちになったのはナイショです。
もっさりした髪を別人のようにイケメンヘアにしてもらい、眉も整えてもらってすっきりした夫を今度は服を買いにつれていき、これまた店員さんからコーディネート全部おまかせで服を買い、靴とかばんも買って、財布も新調しました。眼鏡も顔に似合っていなかったので新調し、あと男性向けの情報誌とグルメ情報誌を買って、けっこう疲れてきたのでカフェに入りました。
もっさりして年齢不詳だった司がいまふうのイケメンとなったのを、まるでプロデューサーのような気分で眺めながらカフェオレを飲む。なかなかいい気分です。
「ずずーっ、……ぐっ、ぷはあ!」
司はホットコーヒーをずずっと音を立てたかと思うと、一気に飲み干しました。なんかもう一気に台無し!
「待って待って」
「何が」
「飲む音を立てないで。あと女性と、いや、性別関係ないな、人と一緒にカフェに来て、一気飲みはないでしょ。飲むペースを相手に合わせようよ」
「はあ? なんで自分の好きに飲んだらいけないんだよ」
「協調性がないのが相手にバレるから」
「うっ」
「カフェだけじゃないよ、食事でも、一緒に歩くのでも、相手に合わせることができないと婚活で生き残れないよ。結婚ってのは相手に合わせる能力が求められるんだから」
「でも、そんなことしなくても理絵とは結婚できたけど……?」
「そりゃあ、私が合わせてあげてたからだよ。二人で一緒に何かやるなら、どちらかが合わせるか、お互いに合わせるか、そのどっちかしかないの。うちの夫婦の場合は私が合わせてた。もしかして気づいてなかった!?」
「……」
司は頷きました。でしょうね!
<つづく>
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