5 離婚の条件!?

 一体どうしたら離婚に応じてくれるのでしょうか。

「世間体が気になるんだったら、妻が不倫したから捨ててやったんだーとか友達に言えばいいんじゃない?」

 かなり捨て身の提案ですが、私の友人関係と夫の友人関係は全く重ならないので、悪評が流れようが構わないという気持ちでした。

「いやだ。不倫するような女を選んだ間抜け男だって思われる」

「ええー……。じゃあ、あなたがすっごい美人と不倫したことにしたら?」

「もっと最低だろ! 俺のイメージが下がるじゃないか」

「……嫁姑問題が原因で離婚とか」

「親を巻き込みたくない」

「普通に性格の不一致ってことで」

「俺はそんなことで離婚するような男じゃない。器が小さいと思われたら困る」

 じゃあ、どうしたらいいの。というか、これが離婚するしないで揉める夫婦の会話でしょうか。夫の世間体の話しかしてないんですが。げんなり。もっとこう……もっと違うんじゃないの、別れ話って。もっと……泣いたり怒ったりじゃないの!?

「離婚したことにして……」

「うん?」

「実は離婚してないっていうことにはできないか?」

「どういうこと!?」

 もうわけがわかりません。

「なんでそう世間体にこだわるの。さっさと別れて、お互いもっといいパートナーを見つけたほうが建設的じゃない?」

 すっかりセックスレスになって冷めた関係なのに、どうして離婚したくないのかがわかりません。夫がどうしても離婚に応じてくれないのなら、私がここを出て行くしかないのかなあと思い始めていました。別居からの離婚に持ち込むパターンってやつです。

「はやく別れて、お互い幸せになろうよ」

「そんなのは理絵が非モテじゃないから言えるんだ!」

「はっ?」

「俺は……俺は離婚したら終わりだ……。もう一生独身だと思う……。それなのに捨てるなんてあんまりだろ……」

 そのとき、私はぴんとひらめいたのです。

「もし再婚できるのなら、別れてくれるの?」

「できないに決まってるけど、まあ、そうだな。俺が再婚できるなら別れてもいい。無理だけどな!」

 そんな自信満々に言う……? 元妻として悲しくなってきますけど?



 というわけで、私たちは次のような契約書をつくりました。

 「1、この契約書を作成後、7日以内に離婚届を提出すること

  2、元妻は、元夫の「婚活」をサポートすること

  3、元夫は、婚活が成功するよう努力すること

  4、元夫の婚活が成功するまでは、離婚を周囲に隠すこと

  5、元夫の婚活が成功するまでは、

  6、元妻は婚活や再婚をしても良いが、上記1から4は守ること」


 5の同居で揉めましたが、夫はここだけは譲れないというので、私は仕方なく条件をのみました。とりあえず離婚届は出せるうちに出しておきたいですしね。そして、さっさと夫の婚活を成功させるぞ! 大丈夫、1回は結婚できたんだし、2回目なんてすぐでしょ! ねっ! ……そうだよね?

 そういえば私たちの結婚も、私がぐいぐいアプローチして結婚したんだったっけ……。夫、もしかしたら女性を口説いたことがないかもしれない……。なんか不安になってきた……。


 離婚届にサインをするとき、夫は「理絵は一度こうと決めたらてこでも動かない」と言い出しました。急に何。

「そういう頑固な性格だから、俺も正直に嫁自慢に付き合ってくれって言えなかったんだ。一度嫌だと思ったら説得も取引も通じないだろ。もし理絵が嫁自慢に付き合ってくれるような素直な性格なら俺だって嘘なんかつかなくて済んだはずだ」などとグチグチと。おおん? いまさら責任転嫁ですか? イラッときたので言いかえそうかとも思いましたが、ここで喧嘩して離婚届を破かれても困るので黙って耐えました。

「理絵、なんでそんな殺し屋みたいな顔になってるんだ……?」

 口には出さなくても表情には出てたみたいですね。というか、殺し屋みたいな顔ってなんだ。かつて愛した女にかける言葉ですか、それ。


 <つづく>

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