2 妻が乱入!?
結婚して半年ぐらいの頃の、ある平日の夜のことです。
仕事を終えて駅に向かって歩いていると、私のスマホが鳴りました。
「もしもし、理絵?」
夫からでした。
「どうしたの?」
「夕飯って俺が食事当番だったろ。でも、仕事が遅くなって作れそうにない」
「なるほど、そういうことなら了解……」
「だから、これからどこかで落ち合って、食事に行かないか」
「えっ、なんかそれって、ちょっとデートっぽいね」
とニヤニヤしながら言うと、電話越しに夫の笑い声が聞こえました。
「お店はどこにする?」
「あ、それなら……」
以前から私を連れていきたいと思っていたイタリアンのお店があるとのことで、その店名と地図をLINEで送ってきてくれました。
「先に店に入ってるから」と言う夫に、がってん承知のすけのスタンプを送り、私はビルの窓ガラスにうつる自分を見ながら髪を手ぐしで整えたりしつつ、うっきうきで店に向かいました。
お店に入ってみたら、そこには夫の仕事仲間がいました。ちょっと何が何だかわかりません。どういうこと!?
わけがわからず面食らう私に、夫は「こちらは職場でお世話になっている皆さん」と紹介するので、混乱した頭で「いつも夫がお世話になって……」と挨拶しながら、だんだん状況が飲み込めてきました。
これ、夫の職場の飲み会だな!?
そこにいたのは夫と年の近い男性が3人、女性が2人、目上と思われる男性2人。計7人プラス夫という集団がイタリアン居酒屋でピザをつまみながらワインを飲んで親睦を深めている場に、私は突撃したということのようです。
そうです、私は夫の職場の飲み会にのこのこやってきた妻でございます。
なんか、なんかもう、なんか居たたまれない……。
私は夫をトイレの前に引っ張っていくと、「どういうことなの」と詰問しました。夫はへらっと笑って、「職場のみんなが、奧さんはどんな人なのか見てみたいっていうから」と言うのでした。
「確かに結婚式はしてないから、職場の人とも会ったことなかったけれども、だからって、こんなふうにだまし討ちみたいな形で呼び出すとかおかしくない?」
「あ-、職場の人もいるって言ってなかったか?」
「言ってないよ! 私はデートだって思ってたよ」
「ごめん、言い忘れてた。思ったより酔ってるのかもしれない」
どうも芝居くさい口調でそう言う夫に対し、私はちょっと不信感を抱き始めていました。
職場の皆さんの懇談の場に私が長居するのも変だと思うので、いやそれを言ったらそもそも参加していること自体おかしいのですが、私はすぐ帰りました。
翌日、仕事から帰ってきた夫は「職場の人たちが、昨日はなんで奧さん帰っちゃったんだって言ってたぞ。奧さん何しに来たんだろうって笑ってる人もいたな」と伝えてきました。何しにきたんだって言われても、私だって何しに来たんだろうって自分でも思ったもんね。赤っ恥です。……あれっ? いや待って。
「職場の人が、私を見てみたいって言い出したんじゃなかったっけ?」
「え?」
「そうだよ、思い出してきた。たしかそう。皆さんが私を見たいって言ったんだよね? それで私は電話で呼び出されたわけじゃん。それなのに、何しに来たのって変じゃない?」
「あー、酔ってたしよく覚えてない」
「ええ……」
ホントいいかげんにしてほしい。
サプライズのつもりか何なのかしらないけれど、こういう形で人に会わせるのはやめてとかなり怒って伝えたら、夫は「もうしない」と謝りました。
「私はね、ちゃんと事前に言ってくれたら、あなたの知り合いに会うこと自体は構わないんだよ。それが職場の人でもね。ただ、職場の飲み会に呼ぶなんていうのはちょっと違うんじゃないのかな……ほかの人たちも家族が参加してるのならともかく、私だけってのは」
「だから、もうしないって」
「うん……」
<つづく>
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