第18話 ここをキャンプ地とする
雑魚ゴブリンたちの肉は既にアトラが解体済みか。あとは俺の仕事だな。
レイジングボアの肉は……どうするか。
とりあえずゴブリンの肉を加工しながら考えよう。
「スキル<クリエイト・テイムミート>」
干し肉を齧りながらの作業だが、だいぶ慣れたもんだ。
「主よ、そんな張り切らずともよいのではないか?」
「いや、そうはいかない。みんなの活躍で助かったわけだしな、その働きにはしっかり報いるべきだ。と、俺は考えている」
「従魔のためにそこまで考えているとはな。立派な主を持って私は嬉しいぞ」
「……労働には対価を。当たり前のことだよ」
霞の不意に見せるイケメン笑顔にドキッとさせられるが、集中だ。
▽ ▽ ▽
「よし、こんなもんだろ」
まだ死体は残っているが、量としては十分だろ。問題は……。
「主、ゴブリンキングの首はどうする?」
「その肉を食わせるのは怖いな……どうすればいい?」
なんかまだ黒い靄出てるぞ……近づいて大丈夫なのか?
「きょ、キョータロー様!」
ダークエルフたちが跪いてきた……どうすれば対等な立場で話してくれるようになる?
「ど、どうした?」
俺としても丁寧語で話しかけたいが、霞に止められてしまっている。
霞の言い分も理解できるし、ナメられているよりかはマシ、だけどなぁ……。
「お、恐れながら、そ、その首を、私たちの村に持ち帰る許可を、頂けないでしょうか……?」
首が必要? あぁ、討伐の証か?
そうなると、このダークエルフたちはコイツを討伐にきていた?
で、あるなら、持ち帰らせたほうがいいだろう。断る理由もない。これで好感度アップだ。
「ああ、構わない。持ち運べるか?」
「そこは問題ねぇ、オレが持ち帰るぜ!」
おぉ……随分と男勝りなダークエルフだな。いかにも活発でボーイッシュな見た目だしな、見た目通りの人物なのだろう。
「ちょっと、ジェニスッ……!」
それを諫めようとしているのが、長い銀髪のお姉さんっぽいダークエルフだ。母性的な感じがするが、面倒見がいいのかもしれない。
「あー……話し方とかも気にしないでくれ、俺は構わない。気楽にいこう」
「おー! アンタとは気が合いそうだな! オレはジェニスだ!」
「あぁ、よろしく頼む」
この銀髪ショートのジェニスと名乗ったダークエルフは、黒髪と銀髪ロングの二人と比べてかなりフレンドリーな性格のよう――だ?
「…………」
「じぇ……じぇにす……」
二人の顔が真っ青に見えるような……あっ、倒れたぞ!
「なんだよ、二人ともだらしねぇな」
……まぁ二人の顔が青くなった理由も理解はできる。
恐怖の存在に馴れ馴れしい態度で接していれば、いつ逆鱗に触れるかも分からない状況だ。気が気ではなかったのだろう。
こっちを見ている他の女の子たちもそうだ。こりゃ打ち解けるには時間がかかりそうだな……。
はぁ……。
▽ ▽ ▽
「とりあえずだ。死体は片づけたし、臭いも風で飛ばしてもらったし大丈夫だろ。今日はここで一泊しよう。この人数で今移動したら、移動中に夜になるだろうな。だから移動は明日にする」
「わかったぜ、大将」
ジェニスは俺のことを大将と呼ぶようにしたようだ。まぁ変に畏まられるよりマシか……。
移動に関しては、流石に夜に移動は危険すぎるし、護りきれない可能性がある。
安全策をとって明日の朝に移動することにした。
そうなると問題は飯だな。流石にテイムミートをダークエルフや獣人の女の子たちに食わせるのはな……万が一にでもテイム状態になったら面倒くさい。
「アル、エリザベス、みんなが食べられるような魔物を――あっ、そうだ。アル、あのレイジングボアの肉、持ってこれるか?」
「クェ……」
「無理か?」
「主、アトラ殿の糸を切るのはアルには難しいだろう」
「霞。そういうことか……となればアトラ、アルと一緒に行ってくれるか?」
「キ……」
「不満そうなところ悪いが、頼む」
「アトラ殿、主の護りなら任せるがいい」
「ブモ」
「……キィ」
「ありがとう。それじゃあ頼んだぞ」
渋々と承諾してくれたアトラが、アルと一緒にレイジングボアの肉を取りに行ってくれた。次は――
「エリザベス、俺やみんなが食べられそうな木の実とか、見つけられそうか?」
コクリと頷いたな、こっちの問題は大丈夫そうだ。
「よし、じゃあ頼む。見つけたら、それを帰ってきたアトラたちと一緒に持ち帰ってくれ」
これで肉が食えない子もなんとかなるか。
「ベヒーモスは入り口に行って他の魔物が入ってこないよう見張りを頼む」
「ブモ」
ベヒーモスが入り口にいれば、魔物が入ってきて襲われる心配もないだろう。
で、残ったのは……。
「こうして主と二人きりは初めてだな」
「いや周りを見ろ」
「主と従魔、としてだ」
「まぁ……そう言われるとそうだな」
本当になんで霞が、水の女神の眷属であるウンディーネが俺にテイムされて、仲間になったのか、そしてここまで好感度が高いのかが理解できない。
面白い、楽しいからという理由だが……いや、異世界の超常の存在に、地球の人間である俺の価値感で推し量ろうなんて、ナンセンスもいいところか。
俺としては強力な戦力が手に入って好都合だが、いつ気が変わって姿を消すかも分からない。この不安はいつまで経っても消えない。
テイムされた魔物がそんな簡単に消えられるかは分からないが、霞なら消えてもおかしくない謎の信頼がある。
だから俺は霞を信用しきれない……が、今はそんなことを言ってる場合じゃない。
「……大丈夫だ主。そんな不安な顔をするな。私はどこにも消えない。こんな面白い生活、簡単に捨てられるものか」
その声は優しく、まるで子供をなだめる母の様に聞こえた。
俺はそんなに不安そうな顔をしていたのか……ダメだな、気を付けよう。
それに霞に対して失礼だったな。信頼している主にあんな風に思われていたら、流石に霞も傷つくか……。
いや、表に出していないだけで、内心傷ついているかもしれない。悪いことをした。
俺ももっと霞を信じてやるべきだな。
「あぁ、悪かった。これからも頼む」
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