第19話 異世界の食べ物
「水を飲みたいやつは並ぶがよい」
霞が水を生成して、それを女たちに飲ませている。
あれは魔法か? それともスキルなのか? 詠唱をしているようには見えなかった。無詠唱なのか?
「ありがとうございます。ウンディーネ様」
「まさかウンディーネ様直々に水を頂けるなんて、夢みたい……」
「私、ウンディーネ様を見るの初めてよ!」
霞がウンディーネ様と呼ばれているが……もしかして、全員が跪いていた理由は、霞か?
確かにそうか、上位精霊であり、女神の眷属とされているウンディーネなんだから、この世界の住人からすれば高位の存在だし、畏まるのも当然と言えるか。
「今の私は霞と名乗っている。呼ぶときはそちらで呼んでもらおう。文字はこれだ」
「はっ、はい! 霞様!」
壁に霞の文字を掘って説明していた。そんなに気に入ったのか。
しかしあれは、崇められているとか、祀られているとか、そんな感じだな。
膝をついて霞に祈り出してる子までいる。
流石は水の女神の眷属様だな。
俺の推測が正しいか、ちょっと確認してみるか。
「なぁジェニス、どうして霞はあんなに崇められてるんだ?」
「ウンディーネ様は水の女神様の眷属で、大精霊様だからな、ウンディーネ様のおかげで清潔な水が飲めるし、作物も豊作になりやすい。オレたちの生活には欠かせない神様みたいな存在だぜ」
清潔な水は分かるが、作物は土壌ってことで、ノームとかそういう土の精霊じゃないのか?
まぁ川の水で肥沃な土や栄養を運んでくるという解釈もできるし、おかしくはないか……。
「それにウンディーネ様の縄張りには凶悪な魔物は寄ってこねぇ。守り神の役割もしてくださっているんだ!」
「なるほどな……」
じゃあやっぱりあの場から離れたのは環境的にマズかったんじゃないか……?
だがあの付近に集落はなかったようだしな……大丈夫、か?
まぁ今頃はツインテールウンディーネが縄張りにしてるだろうし、大丈夫だろ。
「そんなウンディーネ様をテイムするなんて、やっぱ大将は凄い人族だな!」
「はは……」
それにしても……。
女の子しかいないっていうのは、肩身が狭いな……。
アトラたち、早く戻ってきてくれ……。
▽ ▽ ▽
アトラたちが持ってきたレイジングボアの肉を、ジェニスが解体して調理までしてくれた。
ジェニスが火の魔法を使えるというのも驚きだったが、料理が作れるというのも驚きだ。
倒れていた二人、黒髪がベルカで、銀髪がシーリアだったか。
二人も近場でソルトリーフという塩分を含む葉っぱを集めてきてくれた。
勝手な想像だが、他の二人のほうが料理が得意そうに見えたが……見た目だけで判断するのはよくないな。
更に食べられる魔物をアルが狩ってきて、エリザベスも果物を見つけてきてくれた。
この世界にきて、初めて干し肉以外を食べられるのか……素直に嬉しい。
そして肉料理と、切られた果物が葉っぱの皿の上に並べられている。ありがたく頂こう。
……が、まだ誰も手を付けていない。しかもこっちを見ている。まさか……。
「主が最初に手を付けないと、誰も食べないぞ」
霞の指摘……やっぱりか。目上の人が食べるまで食べないという文化は、この世界でもあるようだ。
多分、何か話したほうが食べやすいよな。面倒だが、これが俺の仕事だと、状況を受け入れよう。
「あー……みんな、遠慮なく食べて欲しい。食べられない物があれば無理に食べなくてもいいから、ゆっくりくつろいで食べてくれ」
言葉を終えると同時に果物を齧ると、みんなも食べ始めた。
これで良かったのか? できれば二度とやりたくないな……それにしても――
「この果物は美味いな」
リンゴの様な赤い果物は、味もリンゴみたいだ。
「それはアップルの実だな。ノーブルビーの好物だったか」
霞の説明にエリザベスが頷いている。リンゴではなくアップル……いや、アップルの実という名称みたいだが……細かいことはいいか。
本命の肉だが、ジェニスの焼いた肉と、霞の茹でた肉の二種類がある。
茹でた肉は、霞の生成した水を沸騰させ、その中にぶち込んだだけの茹で肉だ。
火もなしに、宙に生成した水を沸騰させる技は、流石はファンタジー世界といったところか。
どちらも味付けは塩だけだが――いただきます。
「…………」
「どうだ主?」
「大将、美味いか!?」
「……ん、どっちも美味いな。こんな上手い肉、元の世界でも食ったことないぞ」
どっちも口に入れた瞬間旨味が広がり、絶妙な塩加減がマッチして更に美味さが上がっていた。顔が笑ってしまうほど美味すぎる……!
日本でもこんな美味い肉を食ったことがなかったが、そもそも安い肉しか買ってなかったし当然か……。
まさかこんな異世界で、臭みもなく美味い肉が食えるなんてな……これだけで日本でも商売が成り立ちそうだ。
レイジングボアの肉か。しっかり料理したらどうなってしまうんだ……?
「そうかそうか、言った通り美味いだろう」
「大将の口に合ったようで良かったぜ!」
霞とジェニスは満足そうな笑顔だ。
アトラたちも、ジェニスが焼いたテイムミートを食べて喜んでるようだな。焼いた方が美味いのか? やはり火は常備できるようにしておきたいか……。
とりあえずこれで一段落か。明日はダークエルフの住処に移動だ。
色々ダークエルフたちから話を聞きたいが、委縮させてしまいそうだしな。
ジェニスは話してくれそうだが、今は明日に備えて、仲間と一緒にゆっくりさせておくべきだろう。
肉も果物も美味かった。今日はゆっくり休もう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます