第16話 圧倒的強者 ~ベルカの疑問~
あれからどれだけ時間が経ったかな……。
他の種族の女の子たちもだいぶ人数が減ってきた。次はいよいよ私たちの番かしらね……。
「ん……? ゴブリンたちの様子がおかしいぜ?」
「殺気立っているわね……」
ジェニスとシーリアの言う通り、ゴブリンたちの様子がおかしい。
洞窟に誰か入ってきたの……?
カシウス? いや、カシウスがやってくるとは思えない。別の村の誰かかしら……。
――だとしたらこれは希望だわ。その知らない誰かが、あの憑き物ゴブリンを倒してくれれば、私たちは助かる!
お願い、名も知らない誰か! どうかあの憑き物を倒して私たちを助けて……!!
▽ ▽ ▽
「アル、捕まってたダークエルフたちはこやつらか?」
「クエッ」
――信じられない光景が私の目に映っていた。
ウンディーネ様とアルゲンタヴィス、人と虫が混ざり合ったような、今まで見たことのない魔物が私たちの前に現れたけど……蜂みたいな見た目だし、もしかしてクイーンノーブルビーの進化系……?
ウンディーネ様は縄張りを持ち、自分の縄張りから動くことは滅多にないとされている。
ましてや、他の魔物を従えてゴブリンの巣へやってくるなんて……一体何がどういうことでどうしてこんなことが起きてるの!?
私たちはこのあとどうなってしまうの……?
「アル、全員の拘束を解いてやれ」
「クェッ」
「っ」
アルゲンタヴィスの風魔法で拘束していた縄が切り裂かれた……助けてくれた……?
そ、そうだ、お礼! お礼を言わないと!
「あっ、あのっ、助けて頂いてありがとうございます! ウンディーネ様!」
私に続いてジェニス、シーリア、他の女の子たちも膝をついて頭を下げた。
上位種上位大精霊であらせられるウンディーネ様に頭が上がる存在なんて、この森にはいない。
ましてや私たちを助けてくれるなんてこと、夢物語でもない限りありえない。
本当に何が起こっているの???
「礼は我らが主に言うとよい――が、その汚れたままの姿ではダメだな……この辺の布で良いか……」
ウンディーネ様が汚れたボロ布を集めた。一体何を――え!?
生成された水の中に入れて……洗ってるの?!
「……よし、清潔になっただろう。これを使って各自身を清めよ。それが終わったら出てくるがよい」
それだけ言って、ウンディーネ様はクイーンノーブルビーと部屋から出て行った。アルと呼ばれたアルゲンタヴィスが残っているけど、見張りかしら……。
ウンディーネ様がまとめた汚れたボロ布は、一瞬で汚れが落ちて奇麗な布に変わって――温かい……。
これで体を拭いて出てこいと仰られていた。もしかして身分の高い者がきている……?
――まさか水の女神様!?
「……」
「……」
「……」
私たちは無言で頷き合い、奇麗な布で体を拭いた。
▽ ▽ ▽
体を拭いて汚れを落とし、部屋から出た私たちの前に、またしても信じられない光景が映った。
水の女神様はいなかった。でも――周囲には大量のゴブリンの死体。憑き物だったゴブリンは胴を何かで貫かれ、大きな風穴が空いていた。
風穴は――あの蜘蛛、グラットンスパイダーかしらね……隣にはウンディーネ様の眷属として知られる、あのアサルトヒポポタマスがいるなんて、もう何がなんだがわからない……。
グラットンスパイダーと遭遇したら、まず助からないと言われている危険な魔物。しかも赤い姿からして亜種かしら……そもそもこんな場所にいていい存在ではない。本来はもっと山側にいるはず……。
アサルトヒポポタマスもこんな場所にくるような魔物じゃない。それがどうして……。
そしてグラットンスパイダーの背中の上で誰かが寝ている。人族……?
ウンディーネ様はそれを慈しむように眺めていた。
こんな場所にいるなんて、一体どんな人族? 近づいて確認したいけど、ウンディーネ様たちがこっちを見た……。
グラットンスパイダーとも視線が合っちゃったし、生きた心地がしないわ……。
私たちは本能的に、膝をついて頭を下げていた。
絶対強者を前にして、対等な状態で話ができるわけがない……!
「ウンディーネ様、全員身を清め、参りました」
「うむ。主が目を覚ましたら今後の行動を決める。それまで各々好きに休むがよい。そのまま住処に帰るのも自由にするといい。だがダークエルフたちは一緒に村に行ってもらうため、ここに残ってもらう」
「「「――はっ!」」」
ウンディーネ様が主と呼んでいた――あれは人族――人族がウンディーネ様の主?――なんで?――人族はテイマー?――なんで??――テイマーがウンディーネ様をテイムした??――まさかグラットンスパイダーも???――
…………ダメだわ、無理。理解が追い付かない。本当に何が起こっているのかしら……。
でも、テイマーだなんてね……。
「ああそうだ。そんな畏まる必要はない。主が起きたら驚いてしまうからな」
ウンディーネ様はいたずらをする子供のように笑っていらっしゃる。
そんなにあの人族を気に入っているの……? 一体どんな人族なのかしらね……。
もしウンディーネ様やグラットンスパイダーたちを支配においているなら、あの人族を味方に引き込めれば――
「……そうそう、あまり主に変な気を起こさないように気を付けろ。私が許しても、アトラ殿が許されるかな?」
「キ」
――心が読まれたの!?
……グラットンスパイダーから尋常じゃない殺気を感じる。余計なことは考えないほうがいいわね……。
「はっ……肝に銘じておきます。失礼します」
と、とにかく一度この場から下がりましょう。こんなプレッシャー、命がいくつあっても足りないわ……。
▽ ▽ ▽
「一体なんだよありゃ……」
「多分、あの人族の男の子がテイマー、よねぇ……」
「えぇ、多分そうね。なんでここにいて、ウンディーネ様たちと一緒にいるのかはわからないけれど、私たちは今こうして無事に生きているわ」
「生きた心地がしねーけどな……」
「そうね……」
ジェニスとシーリアの言う通り、助かりはしたけど未だ生きた心地がしないわ……。
好きに帰っていいと言われた獣人族の女の子たちも、身動きが取れていないしね……。
「あ、あの……」
「あ?」
狼人族の少女が話しかけてきたわね。何かしら。
「ジェニス、そんな威嚇するような真似やめなさい」
「別に威嚇なんてしてねーよ……」
「フフ」
ジェニスは男勝りなところがあるから、普通の女の子だと萎縮しちゃうのよね。
シーリアも笑ってないでフォローしてくれてもいいのに。
「それで、どうしたの?」
「あ、あの、私たちもあなた達に付いていってもいいですか……?」
狼人族の少女の申し出は理解できる。この危険な森を武具もなしに出るのは自殺行為だわ。別に他の種族を村に招き入れてはいけないという掟もないし、問題ないでしょう。
「ええ、構わないわ。私たちといるほうが安全だし、賢い選択ね」
「あ、ありがとうございます!」
ウンディーネ様一行の戦力を考えれば、今ここが一番安全なのは間違いない。
……あとはあの人族が目を覚ますのを待つだけね。
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