第15話 裏切り ~ダークエルフ・ベルカの災難~




「ゴブリンに憑き物が出た? それは本当? シーリア」


「そうなのよベルカ、狩りから戻ってきた子が見たって言ってるわ」


 憑き物――それは黒い靄に憑りつかれた魔物を指す言葉。

 いつそれが生まれたのかは誰も知らない。


 憑りつかれた魔物は憑き物となり、黒い靄によって自身の限界を超えた力を発揮する。

 知られているのはそれだけの、謎の多い存在ね。

 

 山奥にいた地竜も憑き物になっていたけど、あれは正に悪夢だったわ……。

 アイツに私の妹や仲間たちは……くッ!!


 ……そして今回、ゴブリンに憑き物が出たという報告。

 

 雑魚ゴブリンが憑き物になっても脅威には感じられないけど、油断はできないわ。

 それだけ憑き物は脅威的で、未知数な相手。それに時間をかけてしまえば、更に力を付けてしまうだろうし……。


 そうなる前に仕留めないと、この村が甚大な被害を受けてしまうかもしれない……。


「お困りのようだなベルカ、手を貸してやろうか?」


「……カシウス。いらないわ、どっか行ってちょうだい」


「へっ、相変わらずつれない女だな、お前は」


「カシウス様っ、ベルカよりも私たちと遊びましょうよ!」


「おうおう、そうだな」


「ふぅ……」

 カシウス――シーリアについで二番目の次期族長候補だけど、性格や女癖が悪すぎる。

 武力は高いんだけど、素行の悪さで二番手ね。それでも族長の座を狙っている面倒な男だわ。


「おーーーーい!!!!」

 この大声は……ジェニスね。


「ベルカ! 憑き物のゴブリンの巣が分かったぞ!」


「本当!?」


「あぁ、ここから南にいった場所にある、崖下のデカイ洞窟だ!」

 憑き物の巣が判明したのは大きいわ。そいつが力を付ける前に叩くべきね。


「わかったわ。準備して向かいましょう」


「おう! シーリアにも話してくるぜ!」




 ▽   ▽   ▽




「それで、どうしてカシウスがいるの?」


「シーリアに話してるところを聞かれちまってな……」


「なんだよ水くせぇなベルカ。村の危機に、村一番の力を持つ俺がいて、なんか不満なのか?」


「そうね、不満だわ」

 コイツは何を考えているか分からない。同行させるのは危険すぎるわ……。


「ごめんなさいねベルカ、お父様がカシウスも同行させろって言っていたのよ……」


「そういうことだ。族長命令に逆らうのか?」


「ッ……!」

 族長の命令なら仕方ない……確かに戦力としては一番だし、憑き物を討伐するならその力は必要になるかもしれない。だけど――


「オラッ、いつまでグズグズしてんだ。憑き物が力つける前に仕留めにいくぞ」


「あっ、オイ! 何お前が仕切ってんだよ!」


「……ジェニス、いいわ。行きましょう。カシウスの言う通り、時間が惜しいわ」

 討伐のメンバーは私、ジェニス、シーリア、そしてカシウスの四人。

 他の仲間は村の守りに回してるけど、これでいい。下手に被害が増えるよりも、少数精鋭での行動が望ましいわ。

 それに、カシウスが何かしようとしても私たちは三人がいる。絶対に変なことはさせない





 ▽   ▽   ▽




「カシウスッ……!! これは一体どういうこと!?」

 信じられないことに、洞窟の奥深くに入ったところで、カシウスが私たちの動きを封じた。


「アーーーーッハッハッハッハ!! こいつぁ笑いが止まらねぇぇーーーーぜ!!!!」


「クソがッ……!!」


「そんな……体が動かないなんて……!」

 カシウスの手には魔道具が……あれで私たちの動きを封じたのね……!


「いやぁこんな上手くいくなんてなぁ。良い眺めだぜぇベルカ」


「カシウス! 何を考えているの!!」


「ナニってそりゃ、お前たちをゴブリンに始末させんだよ」

 コイツッ……! そこまで墜ちていたのッ!!


「テメェッ! 憑き物はどうすんだよ!!」


「相変わらず威勢だけはいいなぁジェニス。憑き物程度俺一人でどうにでもなるだろ。たかがゴブリンだぜ?」


「カシウス! 私が戻らなかったらお父様が怪しむわよ!」


「大丈夫だシーリア。善戦虚しくシーリアは憑き物に囚われてしまいました。って報告しといてやるからよ。安心してゴブリンの子供を産んでいいぞ」


「この下種ッ……!!」


「クックックッ……おっと、そろそろゴブリンたちのご登場だ。せいぜい優しくシてもらえるよう祈るんだなァ!! アーーッハッハッハ!!」


「カシウス……カシウーーーーーース!!!!」

 クッ……ゴブリンたちが洞窟から出てきた……ここまでなの?


「ギャッギャ」

「ギャギャ」

「ギャーーギャッ」

 ……そんな……嘘……信じられない……アレは……ゴブリンなの……?




 ▽   ▽   ▽




「なんだアレは……! オレが見たときはあんな姿じゃなかったぞ……!」


「一体どういうことかしらね……」


「……」

 ゴブリンの巣に連れ込まれたけど、私たちはまだ無事……。


「イヤァァァァァァーーーー!!」

「誰か助けてェェェ!!」

 いや、危機的状況なのは変わらないわね……。先に他の種族の女の子たちが……くッ。


「カシウスの野郎……戻ったら覚えてやがれ!」


「……戻れたらいいわね」

 シーリアの言う通り、戻れる可能性は限りなく低い。

 手足は縛られたまま。魔法もつけられた魔道具によって封じられてしまっている。

 おそらく襲った村から奪った魔道具かしらね……。


 それよりも、憑き物があそこまで変化していたのは大きな誤算だったわ。

 あんな巨大なゴブリンは見たことがない。このままだと本当にマズイわね……。


 何か、何か手立てはないの……!?

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