第12話 発見・ゴブリンの巣




 ――太陽の位置から察するに、今は昼時か?

 

 さっき入手したレイジングボアの肉を冷やすため、俺たちは川辺に移動してきた。

 ここをキャンプ地としよう。一度使ってみたかった言葉だ。

 

 で、肝心の火だが――


「キィ……」


「私も使えないな」


「ブモ」


「……」

 ベヒーモスもエリザベスも首を横に振ってる。

 

 つまり誰も火の魔法を使えないってことだ。アルは周辺探索でいないが、アルも使えないだろうな。

 

 これは自力で火起こしをする必要がありそうだが……俺にそんなスキルはない。

 幸いまだ夜でも温かい気候だ。寒さに苦しむことはないが、早めに火を扱えるようにしておきたい。


 霞の水魔法で太陽光を集めて着火……は難しそうだな。あれはそんな簡単にできないんじゃないか?

 

 まぁ今すぐ必須というわけでもない。幸い調理は霞の水魔法でどうにかできるらしいが、火もないのにどうするのか見物だ。

 いざとなればキリモミ式着火術でなんとかしよう。


 解体されたレイジングボアの肉は、既に川にさらされている。水で冷やすのは、血抜きの他に肉の劣化を抑えるためらしい。

 流されないようにアトラの糸でしっかりと結び付け、周囲にはアトラが巣を張って肉をガードしている。

 

 巣の糸が水に触れても流されることなく形を保っているが……どういう理屈だ?

 なんであれ、肉を守れるならここを離れても大丈夫だろう。


「キキ!」


「おや、この気配は――」


「ん――あ」


「ちょっとアンタ! どういうつもりよ?! この周辺は私の縄張りよッ……てアンタ隣のやつじゃん」

 目の前に、霞と似た姿をしたウンディーネが現れた。しかも縄張りを主張している。


「そんな堅いことを言うな。それに今の私はこの人族の従魔に過ぎない。私の縄張りならお前にくれてやるから、見逃せ」


「は……? アンタが従魔? この人族の? 嘘でしょ!? ありえないありえない!!」

 このウンディーネはツインテールだが……ウンディーネらしくないというか。霞の知り合いのようだが、凝視してくるんだが……。


「えっ、これってグラットンスパイダーの亜種? こっちはクイーンノーブルビー? しかもあんた、眷属のアサルトヒポポタマスまで連れてきてるじゃない! 一体なんなのよこれ!」

 ツインテウンディーネが仲間たちを見て狼狽えている。まぁ面子が面子だけに、驚くのも仕方ない気はするが……。


「え、ベヒーモスって霞の眷属だったのか?」


「あぁ、言ってなかったか? そういうことになっているぞ」


「言ってなかったこと多くないか? まぁ構わないが……」

 まさかベヒーモスが霞の眷族だったとはな。確かに強さとかを考えれば妥当かもしれない。


「とんでもない魔物をテイムしてるこの男はなんなのよもう」

 ツインテウンディーネが凄いジト目で見てくるんだが、この様子からやはり俺の今の状態は異常なんだろう。

 多分、これで人里に行ったら混乱が起きそうだな。どうしたもんか。


「……うーーーーん、分かったわ。アンタの縄張りはアタシが貰う。だけどまだ条件があるわ」


「何を望む?」


「この近くにゴブリンの巣があるのよ。そこの奴らが無駄に水を汚していくから処分してくんない?」


「お前が自分で行けばいいだろう?」


「嫌よ、アイツら臭いし汚いし。そういうことだから、任せたわよ」

 それだけ言って、ツインテールのウンディーネは姿を消したが……。


「主、そういうことだ。頼んだぞ」


「何がそういうことだよ……第一、ゴブリンの巣の場所なんか知らないだろ」


「クェーー」

 あ、周辺の探索に出ていたアルが戻ってきたな。何か見つかったか?


「クエックエッ」

 ……何かを見つけたようだが、言葉が分からないので、何を見つけたのかも分からない。


「そうかそうか、よくやったぞアル」


「……霞はアトラのときもそうだが、魔物の言葉が分かるんだな」


「私は大精霊だからな」

 流石は女神の眷属であり上位種の精霊様様だ。俺にはできないし、魔物の言葉が理解できるなら意思疎通も更に図りやすくなる。困ったときは遠慮なく頼らせてもらうぞ。


「で……何か見つかったのか?」


「探しているゴブリンの巣だ」


「マジかよ」

 これも俺の運の良さのおかげか?


 それにしてもゴブリンか……。女冒険者を捕らえて――というイメージが強い魔物だが、この周辺に女冒険者なんているのか? 人っ子一人見かけないぞ。


「この周辺にはダークエルフ族以外にも、獣人族やほかの亜人族たちの集落があったからな。そこを襲って糧を得ているのだろう」


「クエックエッ」


「そうか、ダークエルフの女が捕まっていたか」

 ……ダークエルフの女がゴブリンに掴まったのか。助けに行くべきか? 普通は行くべきだろう。

 

 ――だが待って欲しい。ゴブリンも生きるために女を確保して、種の保存をしている訳だろう? で、あるならば。それを妨げてしまうのは、自然の摂理に反するのではないか?

 

 ゴブリンをゴブリンだからと排除するのは、可哀そうではないだろうか。


 ゴブリンだって生きている。彼らに罪はないだろう。彼らの存在を罪とするなら、動物を殺して肉を食い漁る俺たち人間も同罪ではないのか?


 ……などとノリと勢いだけで脳内で語ってみたが、大抵ゴブリンは人類の敵になっていることが多い。しかし場合や立場によっては友好的な存在だったりもする。

 故にこの世界におけるゴブリンの立ち位置がよく分からない以上、変にどちらか一方に肩入れするもあれだが――

 

 なによりツインテールのウンディーネに、霞を見逃す条件として倒すことを命じられたし、それにこれからダークエルフたちのいる場所に向かうというのだから、ここは助けておくべきだろう。

 

 ……まぁ状況によっては、ダークエルフと敵対する可能性もあるかもしれないがな。

 とりあえずやることは決まった。


「助けに行くか」


「主ならそう言うと思ったぞ」

 霞が妖艶な笑みを浮かべてる……思惑を見透かされてるなこりゃ。


「よし、手遅れになる前に、ゴブリンに捕まっているダークエルフを救出する。アル、案内を頼む。アトラは俺を乗せてくれ。エリザベスは俺の前に、霞とベヒーモスは後ろを守ってくれ」


「クエッ!」


「キ!」


「殿は任された」

「ブモ」

 エリザベスもコクリと頷いたな。一応の陣形はできた。あとは現場に向かうだけだ。


「出発!」




 ▽   ▽   ▽




 アルのあとをついていってるが……ゴブリンと遭遇する回数が多くなってきたな。


 ゴブリン……定番の雑魚キャラだが、雑魚でも数が集まれば厄介な相手だ。

 

 ファンタジーでは雑魚筆頭の魔物だが、だからと言って絶対的に弱いわけじゃない。俺が一人で遭遇すれば、一匹二匹は倒せても、三匹四匹目に攻撃されて殺されるだろうな。

 

 ゴブリンだからと油断して、痛い目を見る漫画も見たことがある。

 男は殺され、女は繁殖用として捕らえる。それが俺の知っているゴブリンだ。

 

 なんにせよ、『ゴブリンだから余裕』というその慢心が、油断や隙を生み、ゴブリンたちはそこを突いてくるだろう。だから油断せず挑む心づもりだが――


「キ」

 アトラが鳴いた瞬間エリザベスが飛び出し、ゴブリンたちを殲滅していく。

 そうして出てくるゴブリンたちは全て、エリザベスに蜂の巣にされていった。


 あれは……エリザベスの魔法、か?

 宙に無数の針のような物体が現れ、その針がゴブリンたちを貫き絶命させていく。


「あれはエリザベスの固有スキルだな」


「魔法じゃないのか」


「魔物は特有の固有スキルを持っているぞ」


「……なるほど。エリザベスは蜂だから針の形なのか」

 霞辞典のお陰でまた一つ賢くなったな。

 

 ――となると、ああそうか。アトラが糸を出したり吐いたり、網にして吐いたりするのスキル、か?


 てことはだ。魔物にスキルがあるなら、人間サイドにも――あるな。実際に俺がテイマーのスキルとして、<クリエイト・テイムイート>を使用していた。


 魔法やスキル対策のためにも、もっとこの世界の知識を身につけないとだな。

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