第11話 アル




 ノーブルビーの女王、クイーンノーブルビーのエリザベスを新たに仲間に加えた俺たちだったが、さっそく問題が起きている。


 空に索敵として飛ばせていたエリザベスが、大きな鳥に追われて戻ってきた……。


 戻ってきたエリザベスは涙目になってるじゃないか。可哀そうに。


 エリザベスを追っている鳥、あれは……まさかアルゲンタヴィスか?

 アルゲンタヴィスは古代に存在した大きな鳥で有名だったから、真っ先にその名前が出てきたが……ただの巨大な鷲のようにも見える……。


「ほう、アルゲンタヴィス種か。こんなところにいるなんて珍しいが……そうか」

 霞もアルゲンタヴィスって言ってるな。なんで地球の古代生物と名前が同じなんだ?

 まぁ異世界だし……ファンタジーだしな……深く考えても仕方ないか……。


 あ、大鳥がアトラの吐いた網で捕獲された。あんなデカイ網も吐けるのか。

 網で地面に張り付けられて身動きが取れないようだな。

 空を飛べる魔物をテイムできる絶好のチャンスだ。


 さっそく口元にテイムミートを投げてみるが、どうだ……?


「どうだ? 俺たちの仲間にならないか? 飯ならその肉を毎日食わせてやれるかもしれないぞ」


「…………」

 俺たちを見渡しているが、品定めでもしているのか?


「…………」

 横にいる霞とベヒーモスを見て固まっている。

 霞はニヤニヤして、ベヒーモスはアルゲンタヴィスを見つめたまま動かない。


 お、アルゲンタヴィスが肉を食べ始めた。どうやら仲間になってくれるようだ。


 まぁ断った瞬間に殺されると考えれば、大抵は受け入れるだろうな……。

 プライドの高い魔物とかだったら、そのまま死を選ぶか?


 こうしてさっきの今で、新たに大鳥アルゲンタヴィスが仲間になった。


「ということで、お前の名前は今日からアルだ。よろしくな」


「クエッ」

 アルゲンタヴィスはクエッて鳴くのか。地球にいたとされるアルゲンタヴィスも、こんな風に鳴いていたのか?


 体のサイズはアルが一番大きいか。その次にベヒーモス、アトラ、エリザベス、霞といった感じだ。


 アルの高さは平屋くらいありそうだし、やっぱアルゲンタヴィスは大きかったんだな……と思ったが、ここは異世界で。地球にいた種と比べるのはおかしいか。




 ▽   ▽   ▽




 アルに仲間の紹介も終わったし、エリザベスと一緒に空からの索敵をしてもらおう。


「ところで霞、アルはどのくらいの強さなんだ?」


「アトラ殿と同じ中位種の存在だ。風魔法を得意とし、空から獲物を強襲して喰らうぞ」


「同格なのに簡単に捕まってたな」


「相性の問題だ。下位種のままだったら逆だったが、今のアトラ殿はアルゲンタヴィス種にとって天敵なのだ」


「そうなのか。どちらかというと、アルがアトラの天敵というイメージなんだがな」


「飛んできたところを丈夫な巣や網で捕らえ喰らう。それだけグラットンスパイダーの糸は強力なのだ」


「……ん? グラットンスパイダー?」


「言ってなかったか? アトラ殿はシャドウスパイダーからグラットンスパイダーに進化していたのだ」


「聞いてないぞ……」


「はっはっはっ、そうだったか。それはすまなかった」

 楽しそうに笑っている霞に教えてもらったが、アトラの今の種族名はグラットンスパイダーなのか。


 グラットンの意味は確か――謙虚……いや違うな。そうだ、大食いだ。大食いか……。

 大食いとなると、これは食費に苦労することになるのか?


「アトラ、グラットンスパイダーだったんだな」


「キキ」


「よしよし」

 なんにせよだ。なんであれ、アトラが進化していたのは良かった。

 俺と出会ってから割と早い段階で進化したってことは、出会う前に大量に敵を狩っていたんだろうか?

 そうなると次の進化までが遠そうだが……。


「キ?」


「あぁ、もっと強くなろうな」

「キキ」

 俺が元の世界に帰るために。俺が消えてもアトラがこの世界で満足に生きていけるために。




 ▽   ▽   ▽




「クェーーーー!!」


「なんだ?」

 空から索敵してるアルが突然鳴き出したが……敵か?!


「――あれはレイジングボアだな。こっちに向かってきている」


「レイジングボア?」

 ボアってことはイノシシ系の魔物か? 突進攻撃が怖いが、アトラの網なら抑えられるか?


「オイオイ……大丈夫か? なんか滅茶苦茶木が倒れる音が聞こえるんだが……」

 ヤバイな、あの巨木をなぎ倒す勢いの突進って、俺がくらったらミンチになりそうだぞ……。


「問題ない。アルがもう向かった」

 空にはエリザベスだけだ。いつの間に……。


「グモォォォォォォォォォォォ!!!!」

 低音の断末魔が聞こえたが、一体何が起きた?

 アルがレイジングボアを倒したのか?

 木々の茂る先で何かが起きたことは分かるが、木々が邪魔で先が見えず、何が起きたか分からない。


 ばっさばっさと空からアルが戻ってきた。自分と同じくらいのサイズのレイジングボアを掴んで。


「クェーー!」


「でっか……マジかよ……」

 一鳴きしたと思ったらレイジングボアを俺の前に落としてくれたが……デカすぎだろ。

 ドォンって落下音がしたぞ。地面の揺れた気がするし、どんだけ重いんだこれ。そしてそれを運んできたアルは凄いな。


 レイジングボアのほうは……茶色の毛並みに白い牙が四本生えてる、まぁイノシシだな。

 この牙で獲物を串刺しにするのか?

 この体と質量だ。体当たりだけで人間がハジけそうだ。

 全体的に見ても、ベヒーモスよりも大きいんじゃないか? 本当に大きいな。


「よくやったぞアル。アトラ殿、さっそく血抜きをしようか」


「キ」


「血抜き? コイツを食べるのか?」


「ああ。主、コイツの肉は美味いらしいぞ」

 霞が興奮気味に話してるが、それだけ美味いのか……?


「あ、あぁ、アルもよくやってくれたな。凄いな、自分より体の大きな獲物を仕留めて運んでくるなんて」


「クエ」

 俺が褒めてもアルは無表情だ。当然のことをしたまでと言わんばかりのような、クールな仕事人という感じだな。カッコイイぞ。


「キ」

 いつの間にかレイジングボアはアトラの糸で宙づりにされ、血を抜かれていた。手際がいいな。


 霞の作った水の枠に、アトラの糸を引っ掛けている形だが……どっちも凄い耐久性だ。

 トンはありそうなイノシシを吊って、壊れない、千切れないなんてな。

 

 これが人に向けられれば、人間には対処しようのない一種の暴力だと思うが、俺がテイマースキルを持っているんだから、他のクラスも対抗できるようなスキルを持っていると考えるべきか。そう考えるとやはりこの異世界は油断はできない。



 ん……? そう言えば食うにしても、火はどうするんだ?

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