第13話 探索・ゴブリンの巣
アトラに騎乗しているおかげで、俺が足手まといにならずに、サクサク進行できているのは助かる。
進行中、ゴブリンの他にもキノコ型、ネズミ型、虫型……色々な魔物と遭遇しているが、本当に俺は運が良かったんだな。
他にも色んな魔物が数多くいるが、そのどれとも、アトラと出会う前に遭遇していなかったからだ。
霞が、ここで人間が生きていることが面白いと言っていた理由が、改めてよく理解できた。
フル装備の冒険者でも、一人なら危かなり険な場所だろうなここは……。
だが、そんな危険な魔物たちをアルとエリザベスが瞬殺するから、苦戦の一つもない。
多数に急襲されても範囲魔法やスキルで一網打尽だ。
魔法やスキルが飛んできても、アトラや霞、ベヒーモスの魔法で相殺されるので、飛び道具でやられることもない。
まさかベヒーモスが土属性の魔法を使って、土壁を作って攻撃を防ぐとは思わなかった。
これだけの防御力があれば、そうそうやられることはなさそうだが……。
戦場で無防備に体を晒しているというのは、かなり心臓に悪い。ワンミスで死にかねないからな……。
アトラたちを信用していないわけではない。しかし物事に絶対はないと思っているからだ。
どこかで運悪くアタリを引いてしまうことは十分有り得る。宝くじを当てた俺なら、そういう極僅かな可能性を引き当ててしまう可能性は高い……。
ともかくだ。無事に目的地までたどり着けることを祈ろう。
▽ ▽ ▽
――俺の心配とは裏腹に、無事に目的地に到着、したようだ。
切り立った崖の中に大きな洞窟がある。やはりゴブリンの巣といえば洞窟が定番か?
ん? もしかしてこの崖って、霞たちと出会った場所と繋がっていたりするのか?
今はそれを確認してる暇も無いし、それよりも先にゴブリン討伐だ。
「にしても、結構デカイな……」
幅も高さも普通の洞窟の大きさじゃないな。高さも十メートル以上あるんじゃないか?
飛行生物のエリザベスとアルが入っても問題なさそうなくらいだ。
「この規模の洞窟なら大量のゴブリンがいるかもしれないな」
「霞はなんでそんなにワクワクしてるんだよ……」
ノーマルゴブリン以上の存在は間違いなくいると考えるべきだろう。
メジャーなところだと、体の大きなホブゴブリンや、魔法を扱うゴブリンメイジ、狼に乗ったゴブリンライダーなんてのもいたな。
規模によっては、ゴブリンキングやゴブリンロードなんてのもいるかもしれない。
ここにくるまではノーマルゴブリンとしか遭遇しなかったが……気を引き締めていくぞ。
「主、どうする?」
「陣形はベヒーモスを前衛にして進むか。アルは俺の上を頼む」
「ブモ」
「クエッ」
アルが上に飛んでも余裕があるほど広い洞窟だからな、上からの急襲にも警戒だ。
前方からの攻撃は、一番装甲の厚いベヒーモスで受けて様子を見るのが無難か。
霞曰く、ベヒーモスなら滅多なことじゃ装甲を貫かれないらしい。
「アトラ、文字通り俺はお荷物だ。すまないがお守りを頼む」
「キキ!」
いくらアトラたちが魔物を倒しても、俺にはエクスペリメンタルエネルギーもとい経験値が入らない。
少しでも入っていれば――……入っていればどうなったんだ? レベルアップでもするのか?
……気になるところだが、今は捕まったダークエルフを救出するのが先決だ。
「それじゃ行くぞ!」
▽ ▽ ▽
やはり――というか多すぎだろ。洞窟内の崖上から、ゴブリンたちが投石攻撃をしかけてきやがる。
今のところ全部アルが風魔法で防いで迎撃しているが、それにしても数が多い。そして臭い。
糞尿や何かが腐ったような異臭がする……。
正直なところ、やっぱ俺はアトラと外で待ってるべきだったかもしれないな……。
なんで死の危険があるところに、わざわざ自ら足を踏み入れてしまったのか。
……それは俺が、仲間だけを危険な場所に送り出し、俺だけが安全な場所で待っているという罪悪感に耐えられないからだ。
絶対に俺は日本に帰らなければいけない。だが仲間となった魔物たちを雑に扱って、その結果死なせてしまえば、戻ったとしても一生心の傷として残り続ける。
だから俺は自分の心の平穏のため、仲間たちと危険な場所にやってきた。
何度もそう自分に言い聞かせているが、これで何度目だろうな……帰りたい。
正直愚かな考えだとは思っている。だが霞たちが止めないことからも、危険はそこまで高くないと踏んで突入してる。これもこの世界を学ぶために必要なことだと考え、進んでいく。
前方からの攻撃はベヒーモスが体で受けて防ぎ、更に正面から現れた狼に乗ったゴブリンはエリザベスが、後ろから不意打ちを仕掛けてくるゴブリンメイジは霞が倒している。
この鉄壁の布陣を突破できるゴブリンはいないだろう。
……本当にゴブリンたちはただ数が多いだけで、圧倒的な質の前には数の暴力も無意味だな。
想定外だったのが、洞窟内に篝火が置かれて灯りがあることだ。
あまりデキは良くないように見えるが、それでも篝火という道具を使って、光源を作っているという事実に驚きだな。
「霞、この世界のゴブリンは光源を作れるほど頭がいいのか?」
俺の知ってるゴブリンだと知能が低いからな、あっても焚火だと思うが。
「下位種のゴブリンは頭が悪いが、おそらく中位種に近いゴブリンが存在しているだろう」
「ホブゴブリンとか、ゴブリンメイジとかか?」
「いや、ゴブリンロードかゴブリンキングだな」
「……ん? それって上位種な存在じゃないのか?」
「いや良くて中位程度の魔物だ」
「じゃあゴブリンの上位種は?」
「見たことはないな」
「……ゴブリンエンペラーとかゴブリンカイザーみたいなやつは?」
「聞いたことはないな」
「……この世界の強さの基準とかがイマイチ理解できないが……上位種は相当な存在だということは分かった」
「私がその上位種だぞ。どうだ、凄いだろう?」
……ウンディーネという存在は確かに凄い存在だと思うが、だからといってそこまで強力な存在であるということは、ほとんどない。これは地球にある架空の物語の出来事から得た、俺の経験則にしかすぎないが。
この世界のウンディーネが、水の女神の眷属ということを考えれば、相応に強いのだろう。だがそうなると、水の女神の強さはどうなってるんだ? 型に収まらない規格外ってやつか? いや、そもそも女神イコール神だったな。神の強さを語るのはナンセンスか。
今いるこの異世界は現実で、事実だ。事実は小説より奇なり、とは言うが、それかもしれないな……。
「……あぁ、凄いと思う。これからもずっと頼りにしてもいいか?」
だが――その上位の存在が、俺に簡単にテイムされて仲間になっているという事実が、どうしても俺には未だにも受け入れがたい事実だ。本当はそこまで凄くないんじゃないか? 自分で言ってるだけで……という考えは逃げだな。
「ああ。私を頼り、私を楽しませてくれるなら、私は主の力となろう」
後ろでそう言ってくれているが、楽しさの切れ目が縁の切れ目になりそうだな……。
ま、せいぜい愛想を尽かされないように頑張るか。
……しかし気になるな。俺たちが倒していないゴブリンの死骸があちこちに落ちている。それもまだ新しく見えるが、誰がやったんだ? ダークエルフか? その謎は助け出せば解るか。
「……そういえば、この世界のゴブリンの肌の色は灰色なんだな。緑とかいないのか?」
「存在するぞ。他には紫や黒い肌を持ったゴブリンもいると、昔ほかのウンディーネから聞いたことがある」
「肌の色の差はなんだ?」
「戦い方や強さの違いだろう。緑が最弱で、黒が最強だ」
「灰色は?」
「確か黒の次に強いらしいぞ」
「……そうなのか」
灰色で下位種だって言ってたよな? じゃあそれ以下の緑はどんだけ弱いんだ?
そんなことを考えている間に、大きな広場に出た。
「ギャッギャ!」
「ギャギャ!」
「ギャーーー!」
崖上には――いやこの形状は、コロッセオか?
崖上の観客席の位置には、今まで倒した以上の大量の灰色ゴブリンたちが、狂ったように喚き散らしている。
そして円の中心には、豪華な装飾で着飾った、巨大な灰色のゴブリンがいた。
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