第11話 ビックウェーブ


「ヒヒ・・・・・・ところで魔王・・・・・・」


愉快そうに悪魔族、アークデーモンのギドリッジが朝姉を指さした。


「魔王の後ろにいる人族のメス。ヒヒ、この世界の戦士?ヒヒッ!ヒヒヒッ!実験したい!是非解体―――」


「してみろよ」


俺は考えるよりも先に、アイテムボックスから適当な剣を握って、そのまま振り抜いていた。

赤黒い稲妻のよう斬撃が、魔導将軍のいたビルの上部を消滅させ、そのまま夜空をどこまでも引き裂いていく。  


「ふん。一撃で死ななかったか。お前はどこまでも不愉快な奴だな」


まるでバームクーヘンの様に、幾重にもわたる様々な障壁を展開していたギドリッジ。

それらは俺の一振りによってすべてが破壊され、その体躯を切り滅ぼした。

残ったのはわずかな上半身とギドリッジの頭部だけだ。

ちなみに悪魔族はこんな悲惨な状態になっても生き続けることなら可能だったりする。

だからきっちりと片をつける必要がある。


「ヒ、ヒヒ。・・・・・・流石、マオ・・・ウ」


「じゃあな。ギドリッジ」


残るギドリッジの部位に黒炎を放つ。


「ヒッ・・・・・・ヒヒヒ・・・・・・ヒィ・・・・・・」


ギドリッジは、最後まで不快な笑い声を出しつつ、消滅した。


「ちぃよっとぉっ魔王君!危ないじゃないか!」


「ひぇえっ危うく巻き込まれるところでしたっ」


「この魔王は恐ろしいのう。容赦ないのぅ」


などと文句を言いながら、残る3体の魔導将軍が地上に降り立つ。

そこに同僚が殺されたことに対する、悲しみの感情は感じられない。

弱い方のが悪い。といった単純な価値観によるものだ。


「魔王よ!この世界への侵略命令を!」


4馬鹿と俺のやり取りに焦れたのだろう。

魔王軍の標準装備である、黒い鎧を着た上級兵の単眼巨人が、地響きを立てて俺の前に進み出てくる。

さしずめ餌を目の前にちらつかされた哀れな馬ってとこか?

だが全く気の毒に思わないな。

それどころか俺の機嫌を更に悪化させた罪は重いぞ。


「お前ごときが、魔王であるこの俺に指図か?」


俺は、手に持った捥ぎたてフレッシュな生首に語り掛ける。


「がっ!?なっ馬鹿・・・・・・なぁ・・・・・・」


俺に頭を持っていかれた巨人が、振動を立てて地に倒れるのと同時に、生首状態の単眼巨人が血を吐いて息絶える。


「魔王なぜ人族を庇う」


「所詮は半人か・・・・・・」


「はやく街、襲いたい」


「魔王は強い」


「いまの魔王キライ!」


周囲に集まった血気盛んな魔族共が爪や牙、あるいは武器を打ち鳴らしてギャーギャー騒ぎ始めた。


「うるさい。黙れ。魔王の命令だ!さっさと元の世界へ帰るぞ!」


俺が魔力を込めて怒鳴りつけると、再び静まり返る魔族。


「魔王くんそれは横暴だよぉ」


ハイリッチのベルダがぶーぶー文句を言ってくる。

面白そうだからと、魔都の住民殺しまくって転移してきたお前が言うのか。


「そうよそうよぉ。魔王様のためにせっかくきたのに!」


嘘つけ、お前さっき観光とかいってたよな?

なんで裏切られた!みたいな顔してるんだよ。


「せめてなにか土産が欲しいのぅ・・・・・・」


そこら辺んに大量に転がってる、適当な石ころでも持っていけばいいんじゃないか?


「大体さぁ、僕たちだけが帰ったとしても、もうこの世界の流れは変わらないよ?」


ペチャパイのベルダが、人差し指をふりふりさせながら、生意気そうに語り掛けてくる。


「ゲッゲッゲッ!しかり!しかり!この世界はわしが育てた!もう魔族のモノじゃぁっ!」


「魔王様も諦めてこのビックウェーブに乗っちゃいましょう!ねっ」


セルリナがデカパイを弾ませて、まるで宗教勧誘をしているかのように両こぶしを握って誘惑してくる。なにがねっ!だよ胸を揉みしだくぞコラ。


「まー坊はほんと乳が好きだなぁ・・・・・・」


朝姉が呆れた視線を向けてくる。なぜばれた。


「魔王様。こんなシリアスな状況で発情しないで下さい」


ため息を吐きつつ、魔王の副官であるエレーナが、魔族の前に歩み出た。

そして、謎の黒いオーラを発しながら冷たい声で魔族共に命令した。


「なにをしている貴様ら。直ちに魔王様の命に従い撤退せよ」


「「「エレーナ様の御心のままに」」」


その場にいた下級兵から上級兵、魔導将軍に至るまでが一斉に膝をつき、こうべを垂れる。


おかしいよね?

君達なんで魔王である俺の命令より従順なのかな?

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異世界で魔王になったけど すべての責務を投げ出して 日本に帰還する! sizu @saikisiguma

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