第9話 光の雨

「朝姉は本当にいらないのか?好きな武器を持って行っていいんだぞ?」


「いやぁ・・・・・・あたしには扱いきれねぇだろコレ・・・・・・」


ちょっとだけ顔を引きつらせた朝姉に拒否されてしまった。

うーん。お気に召さないか。


「魔王様の趣味はよくわかりましたが。他に朝子へ贈るにふさわしい物はないのですか?」


むむ。馬鹿にしてるなエレーナめ。


「なぁまー坊。あそこに光ってるモノはなんだ?」


朝姉の指摘した先には、くすんだ硬貨の山があった


「あぁあれな。全部金貨だ。凄いだろ」


「古竜と殺し合いになった時に、魔王様が宝物庫からねこばばしたものですね」


ちっ。こっそり持ち出したつもりだったがバレてたのか。


「なんだよまー坊。こいつを換金すればマジで大金持ちじゃ・・・・・・げぇっ」


金貨の山に近づこうとした朝姉が急に飛び退った。


「・・・・・・これ。ヤバくね?」


朝姉の額に冷や汗が流れている。


「竜の呪いが掛かっていますからね」


「竜の呪いって・・・・・・?」


「金貨に指の先を触れただけでも、常人なら精神が発狂してしまう程度の呪いになります」


「ひぇっ!な、なんでそんなものを持ってるんだよっ」


「記念の品として?それよりも朝姉は呪いとかもわかるんだな」


「むしろ仕事で十八番な方だっての。いいからとっとと、こんな恐ろしい物どっかにやってくれ」


「へいへい」


だけどクリーンな金貨も一枚くらい転がってるかもしれん。

ガサゴソと物に溢れた海を漁っていると、汚い布切れがでてくる。げっ。奴隷の時に着ていた下着じゃねーか!なんでこんなものを入れといたんだ俺は。

黒炎で跡形もなく瞬時に燃やしてやる。すると、その下から銀色の腕輪が出てきた。

・・・・・・ふむ。こいつなら。


「とりあえず。朝姉にはコレを渡しておこう」


「腕輪か?へぇー。綺麗じゃんっ!」


朝姉が早速、銀色の腕輪を嵌めて見せる。サイズも大丈夫そうだ。


「それはただの装飾品ではなく魔道具なんだ」


「魔道具?」


「あのいやら・・・対霊忍の服にやってたように魔力を流してみてくれ」


朝姉が昨日着ていたタイツも、魔道具に似た性能があったのはわかっている。

おそらく腕輪の方も扱えるだろう。


「うわっすげぇ!これってバリアか?」


果たして魔道具の効果はすぐにあらわれた。

朝姉の周囲にガラスのような障壁が現れる。


「一定以上の威力がある攻撃に晒されると障壁が発生します。物理攻撃や魔法攻撃、さらに霊的な干渉も自動でガードすることが可能な魔道具ですね」


「トラックの衝突程度なら余裕で防げる筈だぞ」


「す、凄すぎないかコレ。ほんとに貰っていいのか?」


「危険な仕事をしてるんだろ。いざと言う時の身を守る助けにしてくれよ」


「ありがとうな、まー坊。大事にするよ」


「ちなみに一度障壁を破られると、魔道具は砕けますのでご注意のほどを」


バリンッ


「「「あっ」」」


「・・・・・・・・・・・・すまん」


ちょっと効果を確かめるために軽く殴ったら割れてしまった。

エレーナの説明の通り、障壁がガラスの様に割れると同時に腕輪も砕け散る。

二人の視線がとても痛いです。


「だ、大丈夫だ。似たような魔道具ならいくらでもあるし・・・・・・」


「良い機会です。この際に整理整頓しましょうか魔王様」


「そうだな・・・・・・」


結局似た性能の魔道具を見つけた頃には日は沈み、辺りは暗くなってしまっていた。


「しょうがねーなぁ。そんじゃせめて今晩位は気晴らしに外にメシ食いに行くかぁ」


落ち込む俺に朝姉が外食の提案。やった。


俺は家にあったTシャツと短パン。エレーナは朝姉に服を貸してもらい、街へと繰り出した。

そしてさんざん悩んだ末に、地元で人気のラーメンを食べることに決定。


食券を購入し、カウンターに並んで座ると、しばらくして醤油ラーメンが登場。


「これがらーめんですか。面白い餌ですね」


「餌とかいうな」


「麺が伸びねぇうちに早く食おうぜ」


ズズーとスープを飲み、豪快に麺を啜る。

ンオオうめぇ!うますぎるううううう!

くひいいいいいいいいい。

・・・・・・はっ。

なんということだ・・・・・・3秒ほどで完食してしまった。


横を見ると、エレーナはまだ口をつけていないようだ。

レンゲに掬ったスープみつめ、やがて少しだけ飲み込む。


「ほう・・・・・・」


エレーナの目が僅かに見開く。

その後は淡々と、使うのは初めてな筈の箸を巧みに操り、麺を啜って食べている。


ふふふ・・・・・・嵌ったな。これは。

隠しても無駄だ。魔王はお見通しである。


「どうだぁエレーナァ。これがラーメンの力だ・・・・・・!」


「なんでまー坊が偉そうにしてるんだよ」


「・・・・・・わかりました」


エレーナはしばしの沈黙から、ぽつりとつぶやく。


「ここの料理人を拉致して。城へ連れて帰りましょう」


「駄目に決まってるだろ」


その後4杯目のおかわりをしようとして朝姉にブチ切れられた。

くそぉ。なんとかして日本での金策を考えなければ。


「はぁ。なんということでしょう」


ラーメン店から出てしばらく。

エレーナがため息をつき、悩まし気な顔をしている。


「どうやらゴブリン並みの餌を食べていたのは私たちの方だった。という事実を認めざる得ないようですね」


「だろぉ?もう異世界に戻るのやめようぜ」


「駄目です」


即答である。

ちっ。


「ですが」


エレーナは少し間をおいて言葉を続ける。


「私も少し、魔王様の故郷に興味がでてきました」


「そいつはよかった。ちなみにラーメンには色んな味があるからな。色々と挑戦してみるといい」


「・・・・・・その機会が、あればいいのですが・・・・・・」


エレーナがビルの上を見上げる。

朝姉もまたその反応につられて空を見て、指をさした。


「なんだあの光?」


上空から光が、雨の様に降り注いでいた。


転移の光だ。

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