第8話 秘蔵コレクション

「おぉー。これぞ日本の朝食っ」


気持ちの良い朝だ。食卓の上には味噌汁、目玉焼きにソーセージ、サラダに白いご飯。

俺はそれらを夢中になって口にかきこんだ。


「はあぁ~美味いっ!この味噌汁の味を何度夢見たことか」


パクパクもぐもぐ。パクパクもぐもぐバキバキガリゴリ。

あ。思わず勢いで茶碗まで食ってしまった。


「大げさだねぇ・・・・・・ってなんだい今の音は。まー坊、また茶碗ごと食っちまったのか?」


「ごめん朝姉。そしておかわりだ」


「そんなの腹に入れておかしくならないのかよ」


「このくらいスナック感覚だな」


「スナック感覚で食われてたら、家から食器がなくなっちまうよ・・・・・・ふぁあ・・・・・・」


「なんだか眠そうだな」


「あぁエレーナと夜中まで色々と話しててね」


へー。

あいつが俺以外の人族と積極的に話すなんて、かなり驚きだな。


「・・・・・それよりもまー坊」


朝姉が目をこすりながら庭の一点を見つめて、どこか呆けた様子で聞いてくる。


「なんだ朝姉?」


牛乳をパックで一気飲みしながら、朝姉の視線の先へ顔を向けた。

ごくごくごくごく・・・・・・牛乳うめぇ。


「あの庭のオブジェは何?」


「ブフーッ!」


思わず口に含んでいた牛乳をすべて吹いてしまった。


「うわっ汚ねぇなっ」


「ごめん!浄化っ!」


リビングに吹き散らかした牛乳は、お掃除魔術によって瞬時に消えた。

あぁ牛乳が。勿体ないことをしたな。いや。今はそれよりも。


「エレーナ!」


「はい。なんでしょうか?」


瞬間移動したかのようにエレーナが俺の横に現れる。


「あれは転移門か!?」


庭の端に2メートル以上はありそうな巨大な石の門が鎮座していた。


「はい昨夜のうちに私の魔力で錬成しておきました」


わぉ。魔神は睡眠の必要ないもんな。ちくしょう。

家の前を通りかかった、近所の住民が不審そうに、石垣から突き出た転移門をジロジロと見ている。目立ちまくりだ。


「後は魔王様の所持する神玉を使えば、魔都市に設置された転移門へと繋がります」


「も、もう城へ戻れというのかっ!」


「休暇はこの国の基準に合わせ、週休二日にします。つまり今週の休みは今日まですね」


「なっいつの間にそんな知識を・・・・・・っ!」


「朝子と昨晩色々と情報交換してましたので」


なんということだ。もっと猶予があると思って油断していた。

最低でも数か月は日本でエンジョイできると。

その間にこの世界での娯楽をエレーナに味合わせ、堕落させて、懐柔する計画だったというのに・・・・・・。


「ち、ちくしょうっ・・・・・・!こうなったら今日一日中遊びまくってやる!」


憤然と庭を出て、外へ向かおうとするが、あることを思い出して朝姉の前に戻る。


「・・・という訳で朝姉。少しばかりお金を貸してくれないか?」


「感動の再会を果たしたばかりの姉に金を集るなんて流石ですね魔王様」


「現金がないんだから仕方ないだろ」


言っとくが貯えならなら幾らでもあるんだからな?異世界産のだけど。


「そうだ。朝姉には世話になるんだし、せめて食費の代わりになるようなアイテムを提供しよう」


「変な気を回すなよ、まー坊。こう見えて対霊忍の仕事で結構稼ぎあるんだぜ」


「まぁまぁ。色々心配をかけた詫びも込めてさ、受け取ってくれよ朝姉」


「お、おう。まー坊がそうまでいうなら・・・・・・」


もじもじする朝姉を横目にアイテムボックス。ようは空間魔術を応用した異次元な倉庫を探ってみる。

ふむ。何がいいのか迷うな。とりあえずよさげなアイテムを一旦庭に出してみるか。

長い間色々貯め込み過ぎてて、忘れている物も多そうだし。

ドサドサと、何もない空間からモノがあふれ出して、あっという間に庭の空間を埋めてしまった。


「わわっ何が起きてるんだよこれっ」


「モノを収納する魔術です。それにしても魔王様?庭をゴミで満杯にしてどうするのです?」


「ゴミじゃねぇよ!よく見ろ」


大剣からショットソード、斧や槍に弓。様々なサイズの盾など。

俺自慢の秘蔵コレクションであるぞ。

余裕で店や博物館を開けるレベルの質と品数だと自負している。


「どの武具も向こうの世界では伝説級の武具なんだからな」


試しに庭に散らばった、様々な形状の剣の中から一つを手に取り、掲げてみせた。


「どうだこの精緻な装飾とフォルム。美しいだろ?勿論見た目だけでなく性能も超一級品だ。この一振りで城が買えるほどの価値があるんだ」


「そのせいで万年金欠なんですね?」


うぐぅ。殺伐としたした異世界で唯一の慰めだったのが武具の収集だったんだよぉ。


その後も巨人殺しの大剣、不死断ちの斧、竜狩りの槍、地獄返しの鎌。などなどなど・・・・・・。

じっくり、丁寧に、一つ一つの武具を解説していく。


・・・・・・気が付けば日はすっかり高くなり、エレーナと朝姉は俺の解説を無視して縁側で昼飯のチャーハンを食っていた。


酷い。

しかももう昼過ぎじゃんか。

俺は貴重な休日に一体何を・・・・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る