第7話 エンドレスおかわり

「朝姉の仕事が忍者なのはわかった。だけどさっきはなんでいきなり襲ってきたんだよ?」


「わ、悪かったよ・・・マジで化け物だと思ったんだ。纏ってる気がハンパねぇし」


気まずそうに目を逸らし頭を搔く朝姉。

自分で言うのもなんだが、それは正しい認識だと思うぞ。なにせ魔王と魔神だからな。

・・・・・・しかし纏ってる気ってなんのことだ?


「もしかして姉君は魔力が見えるのでしょうか?」


エレーナがただの無属性魔力を球体にし、掌に浮かべると、朝姉の目の前にかざして見せた。


「魔力って、エレーナさんがその手に浮かべている気の塊の事を言ってるのか?」


「へぇ、こっちの世界ではそう呼ばれているのか」


「そうそう。そんでさっきは家の中で寝転がってたらさ、馬鹿でかい気色悪い気が二つ近づいてきて。家のチャイムを鳴らしやがったからよ、決死の覚悟で打って出たって訳」


あぁ。それで家の前で気配を探った時に朝姉は慌てていたのか。


「そういえばあの時の朝姉、魔術の身体強化みたいな芸当もやってたよな」


「あー・・・・・・。魔術って言うか。端渡家に代々伝わってる秘技みたいなもんさ」


「秘技って、そんなものがあったのかよ・・・・・・俺は何にも教えてもらってないぞ」


召喚された時にそれがあれば、悲惨な状況を少しは変えられたかもしれんのに。


「まー坊を今の仕事に関わらせたくなかったんだよ。今だから正直に言うけどさ、まー坊やあたしの両親が死んだのは事故のせいじゃなくて、この仕事のせいだったんだ」


「なんだとッ!」


俺は思わず立ち上がって大声を出していた。


「そのクソアンデットはどこだッ!!引き裂いて塵も残さず滅してやるッ!!!」


俺の破壊衝動と怒気に居間のコップや窓が全て割れ、生け垣が崩れて家が激しく振動する。


「おっ落ち着けっまー坊っ!もうとっくに仇は討ってるんだっ」


「グッ・・・・・・そ、そうか。すまん朝姉。家を滅茶苦茶にしてしまった」


「仕方のない魔王様ですね。後で私が錬金魔術で元に戻しておきましょう」


お茶を飲みながら、なんてことないように言うエレーナ。


「えっそんなことができるのかっ?」


朝姉がちゃぶ台に身を乗り出して顔を輝かせる。


「はい。いつもの事ですから」


いつもじゃないだろ。時々柱やデカい像に八つ当たりして砕いたりするくらいだ。


「まー坊・・・・・・。エレーナさんに迷惑かけるんじゃないよ」


呆れた顔で俺を見てくる朝姉。


「さん付けはいりませんよ姉君」


「あたしも朝子でいいよ」


なんで今のやり取りで打ち解けた空気になるの?


朝姉はスマホを取り出して、転移する前の俺の姿が映った写メと、今の俺を見比べ出した。


「それにしても懐かしいわぁ。また小学生の時のまー坊を見れるなんてさ」


そうか?頭に生えた角とか目口やら違いは結構あると思うんだが。

いつの間にかエレーナも朝姉の隣に移動しており、写メを興味深く覗いている。


「まぁ、懐かしいですね。出会った頃の魔王様を思い出します」


「転移してしばらくの頃は、訓練やら戦争でかなりムキムキのマッチョになってたんだよな」


それがどうしてこうなった。


「日本だとこのガキの姿じゃ、どこも仕事を雇ってくれないだろうなぁ」


俺のなにげないつぶやきに、エレーナが反応し、細めた目を向けてくる。


「何を言い出しているのでしょうか?魔王という崇高な仕事をお忘れですか?」


「わ、わかってるって」


ちょっと日本での働く姿とかを想像しただけじゃんよ。

・・・・・・ていうか、ほんとにまた異世界に戻るの?どうしよう。やなんだけど。


「まー坊は、またその異世界とやらに戻っちまうのか?」


俺がまたいなくなるのかと、不安に思っているのだろうか。

寂しそうな顔をする朝姉。


「あー休日とか新たに設定されたし、定期的に戻ってくるつもりだ」


今はアイテムボックスにしまってある、ダンジョンコアの中でも貴重で特殊なこの神玉がある限り、好きに行き来はできるのえある。

それを聞いた朝姉の顔が輝く。


「そうか!そうか!ならまー坊の部屋はそのままにしてあるからさ。好きな時に使いなよ。あっエレーナも部屋余ってるし歓迎するからな」


そのまま異世界の話やら積もる話を色々としていると、気が付けばすっかり日が沈んでしまっていた。


「おっともうこんな時間か。そろそろ夕飯の支度をしなくちゃね」


「おぉっ待ってました!待ってましたよ朝姉っ!」


「何が食いたいモンあるか?っと言いたいところだけど、急だったからね。適当な炒め物で我慢しな」


そう言って台所の奥で調理を始める朝姉の姿は、まるで女神の様ではありませんか。


「魔王様。涎をこぼし過ぎかと」


「9年ぶりのまともな食事だぞっ。そりゃ滝の様に零れるというものだ!」


「はい?魔王様は魔王城で至高の食事を毎日していたではありませんか」


「やめろエレーナ」


俺は拳を強く握って絞り出すように声に出す。


「あの悪夢を俺に思い出させるな。俺はアレらを!料理とは!認めない!絶対にだッ!」


エレーナが首を傾け心底理解できない様子で聞いてくる。


「なぜです?摂取すれば即座に体力と魔力を回復し一時的に身体能力も上昇する、完全な料理だったではありませんか」


・・・・・・などと供述する副官殿の生み出した食事は、それはもう、酷い物であった。

効力と効率しか考えていないのだ。

比喩ではなく、鉄のように固い肉や、マグマの様に熱を持ったスープ。鉄を溶かす強力な強酸のような調味料。

そこには出された食事の数だけのトラウマがあった。


ゆえに朝姉の夕飯を食し、俺は涙を流した。

これだけでも帰還した甲斐があったなと。


「どんだけ食うんだよまー坊・・・・・・」


ちなみに家の食材が全て尽きるまでエンドレスおかわりして朝姉に怒られてしまった。

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