第6話 プリンヘアー
「この化け物共がっ!幾ら気配を上手く隠そうが無駄だっ!」
殺意を漲らせた朝姉が刀を袈裟懸けに一閃――――することはなかった。
俺が人差し指と中指で刃をつまんで止めたからだ。そのまま朝姉の手から刀を強引に引き抜いて回収する。
「くそがっ!!」
朝姉は刀を奪われても怯むことなく、瞬時に後ろの腰から小太刀を抜き放ってきた。
なになに?なんなのこれ?もしかして忍者ごっこ?
「ちょっと待った!オレだよオレっ」
「ふざけんなっ!そんな詐欺に引っかかると思ってんのかよっ!」
首を切り裂こうとする小太刀を持った腕を片腕で掴まえると、ハイキックも同時に放ってきたので、そっちも怪我をしないように受け止めつつ掴んだ。
そういえば隠蔽の魔術掛けたままだったので、解くことにした。
「朝姉よく見ろ!あんたの弟の央真だ!ホラ」
こちらの拘束に抗おうとしていた朝姉が、ここで初めて俺の顔をまともに見た。
身体が硬直する朝姉。
訝し気な表情から、次第に目が限界まで見開かれる。
「ま、まー坊・・・・・・なのか?」
「その呼び方やめろ」
昔から何度も言ってるのに、やめないんだよな。
とりあえず抑えていた腕と足を解放すると、朝姉は地面にへたり込んでしまった。
「その反応・・・・・・。ほんとにまー坊なんだな」
「あぁ。久しぶりだな朝姉。・・・・・・ただいま」
「馬鹿野郎がっ!今までどこで何してやがったっ!」
どこか呆然としていた筈の朝姉が豹変。猛然と立ち上がると俺の頭をはたく。
まぁ心配させまくっただろうし、甘んじて受け入れる。すると今度は頭を抱え込まれて朝姉のでかい胸に引き込まれた。
懐かしい感触だ。ていうか、前より胸がでかくなってる?いや、俺がガキの身体になったせいか?いや、だがこれは・・・・・・。
朝姉に揉みくちゃにされながらもんもんとしてると、ここまでずっと傍観していた筈のエレーナが口をひらいた。
「義理の姉にまで欲情ですか。流石ですね魔王様」
「ちっちがっこれはそういうのじゃないしっ」
第三者の存在を思い出したのか。朝姉が慌てて俺から離れると、今度はエレーナに向けて警戒の様子をみせる。
「まー坊。この女はなんなんだよ・・・・・・」
朝姉の警戒もどこ吹く風といった様子で、エレーナは一歩足を前に踏み出すと、優雅に礼をする。
「始めまして姉君。私はエレーナと申します。魔王様の副官。兼ハーレムのひと「俺の仕事仲間だっ」
激しい誤解を生む語句を放とうとしてやがったので遮ることにした。
「あぁ?マオウ?よくわかんないけどさ、とりあえず家に入りなよ。ったく。どうすんだよこの玄関。ぶっ壊れちまってるじゃねーか」
自分でドアをぶち破った癖に、ぶつぶつ文句を言う朝姉に続いて、ようやく我が家への帰還である。
朝姉がドスケベな忍者衣装から普段着に着替えている間に、家の中を見て回ることにした。
おぉ。俺の部屋は異世界に行った当時のまま残してくれていたようだ。
「ここがかつて俺の住んでいた部屋だ」
懐かしいな。埃も積もっていないし、俺が異世界にいってた9年間。
定期的に掃除してくれていたのだろう。
こりゃ当分、朝姉には頭上がらんね。
「見慣れぬモノが沢山ありますね」
「まぁそこら辺はおいおい説明してやるさ」
勝手知ったる自分の家。エレーナには居間に座って待機するよう命じ、冷蔵庫からお茶を勝手に取り出し、3人分のコップを用意して注ぐ。
朝姉が普段着のラフな姿になって居間に現れた。
相変わらずのプリンヘアーに複数の耳ピアス。目が三白眼でちょっと強面。
だけど、贔屓目なしに見ても の方がよろしいかと。
ちゃんとした恰好すれば一般の男子からもモテまくりだろうに。
とりあえずはお互いに、ちゃぶ台を挟んで向き合うように座ると、朝姉が胡坐をかきながら聞いてきた。
「そんで?なにがあったんだよ」
開口一番。おおざっぱに聞いてくるところが朝姉らしい。
「異世界に行って魔王やってた」
「は?なにそれ」
「こことは別の世界に行ってだな、そこで変な種族の王様やってたんだよ」
「まじか」
「まじだよ」
「ふーん・・・・・・」
朝姉はタバコを取り出して吸いだした。
「・・・・・・え。それだけ?」
思ってた反応と違う。もっと疑うか驚くべきだと思うのだが。
「その変な恰好に加えて、その姿と馬鹿げた力を実際こうやって見せられてるんだ。もう何を聞かされようが、驚くのも馬鹿らしくなるってもんだろ」
「変な格好は朝姉だってそうだっただろ。なんだよあのいやらしい恰好」
「う、うるせぇなっ!あれが湧諸正しい対霊忍の正装なんだから、しかたねえだろっ」
朝姉が猛然と顔真っ赤にしてちゃぶ台を叩く。
「対霊忍ってなんだ?」
「お前にはずっと隠してたけど、ウチの家系の昔からのお役目なんだよ」
そのお役目とやらの内容を聞くと、どうやら悪霊みたいなアンデット系の討伐を目的とした仕事らしい。ゴブリンみたいな魔物はいなくとも、そういうのはちゃん存在していたのか?
「はぁ。まじかよ。小学の頃からここに住んでるのに全く気付かなかったぞ。朝姉はいつからそんな仕事してたんだよ」
「まー坊が高校入った頃だっけか?お陰で授業に出れない日があったりして成績は散々だったね」
「学校をよく抜け出してたのは、別にサボってた訳じゃなかったのか」
朝姉の事を誤解していたよ。
ただのヤンキーなんかじゃなかったんだ!
「いや?半分はだるくてサボってた」
おい。
ていうかおかしいな。なんで異世界帰りの俺の方が逆に驚かされてるんだろう?
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