第5話 パーフェクトコンプリート
麻会高校を後にし、かつての下校ルートを辿る。
日は既に傾き、夕焼け空が美しい。
「ところでこれから魔王様はどちらへ向かわれるのですか?」
「この世界で唯一の家族である俺の姉。端渡 朝子の住む家だ」
「魔王様に家族が」
「当たり前だろう」
といってもまぁ、義理の姉だけどな。
俺が小学の頃、両親が交通事故で死んで、親戚である叔父の家に引き取られたのだ。
ところがその叔父夫婦も同じく一年ほどで交通事故で死んでしまい、異世界に転移するまで二人で暮らしていた過去がある。
歳は俺の一つ上で25歳だ。ちゃんと就職してるかな?
なんせ当時の朝姉はヤンキーだったからなぁ・・・・・・。
まさかまさかだけど結婚している可能性だってあり得るんだよな。あれで家庭的な面もあるし。でもなぁガサツで短気な癖に変に奥手だったりと、めんどくさいところが・・・・・・。
・・・・・・だめだ。あれから9年も経ってる訳で、どんな状況になってるのか想像できない。
今現在歩いている滅び野商店街も随分と店が様変わりしているし。
個人営業の店は殆ど消え失せ、チェーン店がずらりと並んでいる。
松屋、吉野家、すき屋、かつ屋、王将、日高屋、マック、モス、などなど、驚愕のチェーン店パーフェクトコンプリート状態だ。
あぁ。今すぐにでも店に飛び込んで、片っ端から食い散らかしたい衝動に駆られる。
だが我慢だ。今の俺は日本の紙幣を1円たりとも持ってないのだから。
ちなみに俺達は、コスプレのような恰好で堂々と商店街の真ん中を歩いている訳だが、誰もこちらに関心を示してこない状態だったりする。
隠蔽魔術の効果は抜群である。
「魔王様。なぜ飛行せずにゴブリンのように徒歩で移動されるのですか?」
「この世界では鳥と虫以外の生物は飛ばないのが普通なんだよ」
こいつはことあるごとにゴブリンの名を口にするが、別にゴブリンのことが好きな訳ではない。むしろその逆で、ゴブリンを見かけたら絶対殺す魔神だったりする。
過去にはとある山で一匹のゴブリンを見かけた、というだけでその山を崩壊させた程の徹底ぶりである。
たぶん日本でいうとゴキブリみたいな認識なのだろう。
「それにな、久しぶりに故郷の街を練り歩きたいのだ。この完璧に舗装された地面とか素晴らしいと思わないか?すれ違う日本人の人畜無害っぷりなんて実に落ち着く」
忌々しくも比較として思い浮かぶのは、魔都のイかれた異形の住民共と、あちこちに死体が転がっていた、おそましい街路の光景だ。空には喧しい飛竜の叫び声、長い年月に増築された歪な住居群からは奇怪な呻き声と悲鳴が・・・・・・。
「じー・・・・・・」
ふと気が付くと、エレーナの視線を感じる。
「・・・・・・なんだよエレーナ。さっきからなにをジロジロと、俺の顔ばかり見てるのだ?」
俺の面なぞ王城でも散々見てるじゃん。
エレーナにとって日本は異世界な訳で、見るべき対象が違うだろうに。
「いえ。そんなに嬉しそうな魔王様は久しぶりなので興味深く」
俺の面のなにが興味深いのやら、相変わらず変わった奴だ。
「ふん。長い間念願だった故郷への帰還だからな。そりゃ嬉しいさ」
むずむずとなんとなく落ち着かないので、歩みを早めることにした。
「お前も折角この世界に来たのだから楽しめよ。なんならこの俺が直々にこの日本を案内してやる」
「それは光栄ですね」
珍しくエレーナが微笑を浮かべている。
こいつを放置なんて絶対にあり得ないからな。常に目が届くところに置いておかねば。
まったく、面倒な事になったものだ。
さて、滅び野商店街を抜ければ懐かしの我が家はもうすぐそこである。
幾度かの曲がり角を進むと目的の場所が見えてきた。
「よし。ついたぞ。ここだ」
昔ながらの庭付き木造一軒家だ。
中々趣のある雰囲気で、朝姉から聞いていた話では、結構昔から建ってる由緒ある家だったりするらしい。
「なんですかこの粗末な家畜小屋は」
「失礼な奴だな。俺の実家だよ」
そりゃ魔王城の馬鹿げた広さに比べたら蟻と象レベルの違いだろうけどさぁ。
「うむ。表札を見た限りまだ住んでるはずだ」
ちょっと緊張しつつも、チャイムを鳴らしてみる。
・・・・・・・・・・・・うん?
反応がないな。留守か?
ちょっと気配察知で失礼しますね。
あれ。なんだよ、いるじゃん。居留守かよ。
家の中の朝姉らしき気配は、なにやら慌てた様子で家の中を動き回っている。
「おぉーい。朝姉ェー俺だぁーっ!」
近所迷惑だが大声で声をかけてみる。
「・・・・・・入るぞぉー」
ドアに手をかけ、サイドにスライドする。
あ、いけね。
鍵が掛かっているのか、ちょっと確認するつもりが鍵ごと壊して開いてしまった。
これからは力加減を気をつけないと、あちこち壊す羽目になりそうだ。
「シッ!」
えっ!?
殺気!?
なんだなんだ!?
ドアの開いた隙間から
いきなり俺の顔面目掛けて刃物が飛んできた。
咄嗟に掴んでみたが、クナイのような武器である。
「はあああっ!」
続いて半開きのドアがダイナミックにぶち破られると、刀を振りかぶった全身タイツの朝姉が躍り出てきた。
姉と弟。9年ぶりの再会がこれである。
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