第2話 魔都ベルギリアにて

ここは暴力的で残忍な、多種多様な魔族共が闊歩する魔都ベルギリア。

陰気な厚い雲に年中覆われ、得体のしれない毒々しい瘴気が漂う他に、様々な不快要素をかき集めたようなクソ都市である。

その中央に位置する天を突くような巨大な城は魔王城。

俺の住んでる家だ。


今王宮には主だった幹部が集まっていた。

アンデット族、竜族、鬼族、獣族、悪魔族、虫族、天族などなど。

いずれも一騎当千を超えた正真正銘の化け物共だ。


ちなみに一番強いのは俺だ!・・・・・・たぶん。

魔族は力こそすべての実力主義な社会。

俺が魔王になってしまった事情もそこに絡んでくる訳。


悪趣味なデザインの巨大な玉座に座る俺の目の前には、恭しくかしずく魔王の副官である魔神エレーナ。思えば迷宮で出会ってからこいつとは長い付き合いであった。

腰まで届く紫がかった銀髪に、なぜか露出度の高いメイド服を着ている。

超が付く程の美人で、しかもムチムチなボディだ。

健全な野郎なら舌なめずりするような極上な女。

だが、今の俺にとってそういった性欲や情熱は縁遠くなって久しい。


なぜならこの身体は小学生並みに縮んでいるからだ。

俺をこんな状態にしたエレーナいわく、原因は半魔神化による副作用らしい。


そんなオスガキな外見と元人間という経緯もあってか、魔王でありながら大半の部下に嫌われている。今も不愉快な鬼気を隠そうともせず俺に対してぶつけてきている。


我慢だ我慢。今すぐにでも襲い掛かってこの場をグチャグチャに掻き回してやりたい衝動を抑える。

この身体になったせいか、なにかと破壊衝動が湧きやすくなって困る。


「それは元からでしょう」


エレーナめ、勝手に心を読むな。

これだから魔族はだめだめなのだ。

プライベートというものがない。


だがしかし。そんな挫けそうな状況であっても、今日の俺は特別にごきげんである。


「これがこの世界でもっとも古く、深き迷宮にあると謡われていた伝説のダンジョンコアというわけだ」


俺はしたり顔で掌大の虹色に輝く玉を手に弄びつつ、ハイパーチートアイテムである神玉を覗き込んだ。

吸い込まれるような美しさだ。気を抜くといつまでも眺めてしまいそうになる程に。

勿論このダンジョンコアの素晴らしさはそれだけではない。


「なんという膨大な魔力か。そう思わないかエレーナよ」


エレーナは無表情で冷たく、切れ長の眼差しを俺に向けてくる。

相変わらず感情を表に出さない女だな。

それでも絵になってしまうのがムカツク。


「その神玉さえあれば、この世界は魔王様の思いのままです」


うんうん。実際こうして手に乗せてるだけでも全能感が凄いよ。

正直な話をすると、コイツを手にするためにここまで嫌々ながら魔王をやってきたのだ。

感動も一塩である。

そう、ついに時はきたのだ。


「ククク・・・・・・思いのまま・・・・・・か」


ゆっくりと玉座から立ち上がり、ここにいるクソ幹部やクソ将軍共に見せつけるよう、ダンジョンコアを掲げてみせてやる。


そして、膨大な魔力を徐々に宮殿内へ解き放ってやった。

 

「「「「!?」」」」


宮殿が激しい揺れに襲われる。

城が、いやこの大地が鳴動し、異変が起きているのだ。

皆の困惑している顔に胸がすかっとするよ。


「ま、魔王様なにをっ」


豪奢な鎧を纏った銀髪の犬耳の女が前に出て問うてくる。

俺は複雑で巨大な魔術を組みつつも、その問いに答えてやることにした。

こいつは頭のおかしい性悪な他の魔族共とは違って数少ない忠誠心のある魔族だったからな。


「帰るんだよ!日本へ!!!」


無限ともいえる神玉からの魔力を糧に、極大魔術が発動。

天高く、白い光の柱が城を突き抜け、圧倒的な力の奔流に全てが埋め尽くされる。


こうして俺は、魔王としてのすべての責務を投げ出し、日本への帰還を果たしたのである。

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