異世界で魔王になったけど すべての責務を投げ出して 日本に帰還する!

sizu

第1話 プロローグ

ある秋の昼下がり、俺(端渡 央真)は学校の屋上で焼きそばパンを一人で食べていると突然、雲の隙間から光の帯が降りてきて俺の全身を包んだ。

そのまま身体が宙に浮き、宇宙船に拉致されたかのように意識は消失。


意識が戻ると石造りの一室で、貴族風の恰好と鎧を着た人間に囲まれていた。

挨拶もなしに連中は、俺の手足をいきなり拘束すると、重苦しい無骨な首輪を無理やり嵌めさせられる。それは絶対順守の奴隷の首輪だった。


その後は何の説明もなしに剣と魔法の訓練をさせられ、魔物と呼ばれる化け物と殺し合いをさせられた。

その数週間後には馬車でどこか見知らぬ地へと命令されるがままに移動。

この時点で俺は大体の状況を理解し始めていた。

異世界に召喚され、まだ名前すら知らない国の駒として殺し合いをさせられるのだと。


嫌な予感は的中し、戦争の一兵士として戦う、絶望の日々が始まった。

泥と血にまみれ、各地の戦場を転戦し、戦い続けた。

殺す相手は様々だ。魔物の時もあれば魔族という人と似た種族であったり、あるいは同じ人間、それも無抵抗の女子供老人だったこともある。

幾度の死線を潜り、殺し続けて数年の時が流れた。

その頃にはただの平和ボケした高校生であった俺の精神は完全に変質していた。


生れてはじめて剣を握った程度の俺が長い間戦場で生き延びられたのは、転移の際に起きる負荷と、その影響による肉体の変質にあった。

こちらの世界ではそれを加護と呼ぶらしい。

ただ、そんなチート的な超人化があっても戦場は過酷だったし、むしろよりきつい戦況の地へと優先的に飛ばされた。


そんな永遠に続くと思われた生き地獄の日々に突然、終わりの転機が訪れた。

とあるドラゴンとの闘いの際、激しい戦闘の余波で奴隷の首輪が破損したのだ。

部隊は俺を残して全滅というのも都合がよかった。

そのまま軍を脱走し、念願の自由を手にした俺は、早速帰還の術を探り始める。

戦いしかない日々であったけれど、その合間に言葉や文字をある程度学習できていた。


その後の異世界を巡る旅は困難を極めた。

戦場でなくとも異世界は危険に満ちた場所だったからだ。

その最たる場所である迷宮を探索し、封印された魔神と出会い、死んで、人間やめて、逃げたり、暴れたり、破壊しまくって。


結果的に俺は、異世界で魔王になっていたのだ。

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