約束
王都の中央にある、闘技場。
前世でいうコロッセオのようなところ。
俺は、アラード学園の選手控え室にいる。
ああ、ヤバい。もうすぐで始まるよ。
観客がもういるのか、ざわざわとした雑音がここからでも耳に入ってくる。
どうしてか、ソフィアや両親も来るって言ってたしな。みっともない負け方はしたくない。
だからといって、簡単に勝てるほど弱い相手はいないし。
しかも、魔法だけっていう謎の縛りがあるし。
あれ?詰んでね?知ってたよ。最初から詰んでる。
「マルコ、調子どう?」
俺は緊張を紛らわせるために隣に座るマルコに話しかける。
「……」
ん?どうしたんだろう。返事が返ってこない。
嘘だろ?!マルコが緊張している?
いや、当然か。この大舞台じゃ。
「緊張すんなよ。大丈夫だって、あんなに修行したんだよ。マルコは十分強くなってる」
友だちを励ますのは友だちの努めだ。
「そうだな」
マルコが微笑む。しかし、どこか弱々しい。
何かおかしいんだよな。マルコは相手がどんだけ強くてもそこまで緊張するようなメンタルじゃないんだよな。
原因は、この大舞台か、それとも別の何か。
ドンッ。
控え室の扉が乱暴な音を立てて開く。
そのまま中に入って来たのは無愛想な顔をした男。
男はもう一つのロレイ学園の制服を着崩している。
お?場所間違えたのかな?
「いたいた」
あれ、俺の方見てね?俺の方来てね?
俺知らないよ?こんな野蛮な人。
「久しぶりだなぁ」
歩きながら凶悪な笑みを浮かべる男。
「人ちが――」
「マルコ・ブレイブ」
俺は黙って頭を下げる。
恥ずかしかった。
いや、よくあるよね。遠くから手を振られて、振り返したら俺じゃなくて俺の後ろの人だった、ていう。
そして、黙って下ろすっていうやつ。
知らない?
「……ジャック・ホーテ」
誰だろう。知り合いなのかな。それにしては険悪だけど。
「トーナメント表を見たら見知った名前があると思って来てみたら、本当にいるとはな」
「何が言いたい」
「別に。ただ、落ちこぼれが何でここにいんだと思ってな。
まあ、まだ無駄な努力をしているんだろう。そうだろ、『努力の天才』?」
なるほどな。なんとなく分かった。コイツも勇者候補ってやつか。
「取り消せ」
俺は立ち上がり、男を睨みつける。
マルコが驚いたように見ている。
「ああ?」
「聞こえなかったか?取り消せって言ったんだ、雑魚」
「てめぇ、俺が誰だか知って言ってんのかっ?!」
「雑魚ほどうるせえんだよな。お前のこと?知ってるよ。確か、ザッコ・ホー……なんだっけ?
何でもいいけどマルコはお前より強いよ」
俺は、友だちをバカにする奴は赦さない。
それに、マルコがザッコと言う奴より強いのは本当だ……と思う。勝ってねマルコ。
「ッ!!」
ザッコが掴みかかってくる。
俺はがら空きの腹を殴りつける。
ドンッと音が出る。
「ぐはっ」
ザッコはその場にうずくまっている。
これは、正当防衛である。
うん。俺は悪くない。
俺はザッコの襟を掴み引きずり控え室の外へ投げる。
「てめぇ、覚えとけよ!試合でぶっ殺す!」
「違うよ。お前を倒すのはマルコだ、ザッコ」
「はっ、あんな奴に俺が負ける?笑わせるな。
あと、俺の名前はジャックだ!」
ザッコはフラグを立てながら去っていった。
「大丈夫、マルコ?」
頭を下げて表情が見えないマルコ。
大したことのない男だったが、マルコにとっては因縁の相手なのだろう。
「……」
「マルコ?」
「フフ……フハハハハッ」
お、おお?ま、マルコが壊れてしまった。
ヤバい、叩けば直るかな?
「もう大丈夫だ。負ける気がしない。お前こそ大丈夫なのか?俺に負ける準備をしておけよ」
なんだよ、壊れてないじゃん。というか、さっきより全然元気じゃん。
俺とマルコは四回戦で当たることになっている。
ちなみに四回戦は準決勝である。
そこまで行けるの?俺もマルコも。
三回も勝てるの?
そんな不安が胸を占めている。だけど胸のどこかでマルコと戦いたいという気持ちが叫んでいる。
はあ、準決勝まで行こうなんて普通じゃないな。でも、たまにはいいのかな。
「マルコこそ途中で負けるなよ」
マルコは不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、もちろんだ」
はあ、全くどこからそんな自信が湧いて来るんだろう。俺は不安しかねえよ。
生徒会メンバーは皆、順調に勝ち進んで行くだろう。俺も一回戦目を勝ち進むとする。
そしたら、二回戦目に副会長さん、三回戦目には書紀さんと当たってしまうのだ。
無理ゲーじゃない?
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