前世でも今世でも

 とうとう始まってしまった、学園対抗戦。

 対抗戦と言ってもトーナメント戦であるから、同じ学園の選手が戦うこともある。


 一試合目は書紀さんだった。


 それはもう凄い余裕勝ちだった。

 一瞬。瞬殺。


 三試合目は副会長さんだった。

 それも瞬殺だった。相手に手も足も出させない。


 どんどん募っていくプレッシャー。

 俺の緊張は限界突破してしまっていた。


 闘技場に立つ俺。距離を開けて立つ対戦相手。剣を持っている。


 ヤバいヤバいヤバいヤバい。頭が真っ白だ。


『アラード学園一年生、フィン・トレード。ロレイ学園二年生、カイ・ロータス。

 試合、始め!』


 歓声が湧き上がる。


「はああああああっ」


 対戦相手の男が剣を構え走ってくる。


「ッ?!」


『おっと?!剣を構え特攻したロレイ学園のロータス君!同じくアラード学園のトレード君も走り出す!しかし、トレード君は剣を持っていない!どういうことだあ?!』


 あ、俺剣持ってないんだった!癖で前に出たけど、どうすれば。


 ああ、もうヤケクソだ!


(『ファイアーボール、魔力50000』)


 剣が振り下ろされる。でも、スピードが遅かったので簡単に避ける。


 大方、相手はジャブ感覚で振ったのだろう。様子見の。

 だけど悪いね。俺は最初から全力で行かせてもらうよ。


 剣を振り下ろしたことでがら空きとなっている、男の胸に掌底をそっと置く。


「『ファイアーボール』っ!」


 別に口に出す必要はないんだけど、勝手に出ていた。


 魔力を大量に詰め込んだファイアーボールは、相手の胸で大爆発。


 爆発の影響で相手は観客席まで吹き飛ぶ。

 黒煙が舞い上がる。


 会場全体が静かになる。


 やべぇ、やりすぎた。

 ま、まあ今回はちゃんと既存の魔法を使ったから大丈夫だろう。これがもしオリジナルだったら、注目されていただろう。


『しょ、勝者アラード学園フィン・トレード!』


 会場が湧く。


『あれ、何の魔法だ!』

『かっこいい〜!!』

『強すぎだろ!』


 やめて下さい。俺は普通の人です。


 歓声から聞こえる過大評価に足が震える。



◆◇◆◇◆◇



『アラード学園一年生、マルコ・ブレイブ。ロレイ学園一年生、ナタリー・サラブレット。試合、始め!』


 マルコ、大丈夫かな?

 気合い入っていたけど、空回りしないか不安だよ。


 修行したっていっても普通になったってくらいだからな。


 結果、杞憂だった。


 普通に勝っていた。


 ああ、そうか。ロレイ学園って実力そんなに高くないのか。

 次当たるの副会長さんだから関係ないけどね。



◆◇◆◇◆◇



 一日目が終わった。一日目は一回戦だけで、明日は二回戦が行われる。


 アラード学園の戦績は、生徒会全員とマルコがニ回戦に進出。


 選手は近くの宿に泊まることになっている。

 そこで今日の打ち上げを行うらしい。


 俺は宿に行く前に家族の元へと向かった。


「お兄ちゃん、おめでとう!」


 ソフィアが俺を見つけるなりすぐに祝ってくれる。

 はあ、可愛い。天使だよ。

 夏休みのあの姿は幻覚だったんだと思いそうになる。


「ありがとう、ソフィア」


「フィン、ニ回戦進出おめでとう〜。かっこよかったわ〜」


「強くなったな、フィン!」


 母さんと父さんも遅れて祝ってくれた。


「ありがとう、明日も頑張るよ」


 それから、一時家族で話した後帰ろうとした。


「フィン〜」


 背中越しに母さんの声がかかる。


「どうしたの?」


 母さんの方を振り返る。

 ソフィアと父さんは、家族で取ったらしい宿に戻って行ったのかいない。


「フィンは今楽しい?」


 いつものおっとりとした雰囲気じゃなく、真面目な雰囲気。


「……楽しい、かな?分かんないや」


 楽しいと、答えてもよかったんだけど嘘はつきたくなかった。


「そう」


 フィン・トレードとして生まれてきてから、ずっと普通になるためだけに動いていた。


 もちろん、友だちもできて普通だ。でも、楽しいかと言われると即答できない。


「あなたは幼い頃から普通になりたいとか言ってたけど、たまには子供らしくはしゃいでみたら?」


 子供らしく、ね。俺は子供だけど、子供じゃないんだよな。

 でも、思い返してみたら前世でも今世でも子供らしいことしてなかったかも。


 普通になるために、努力したり手を抜いたり。


「あなたは私の大切な息子だからね。精一杯人生を楽しんでほしいのよ」


「……あ」


 そうか。俺はもう独りじゃないんだったな。


 俺の命も人生も俺だけのものじゃないんだな。


「まだ分かんないけど、努力するよ。ありがとう」


 普通にこだわりすぎるのも良くないな。

 探して見みるよ、楽しいを。



◆◇◆◇◆◇



 母さんと別れて宿に戻る。


「遅かったな、フィン」


 宿に入ると食堂らしきところで皆で打ち上げをしていた。


 会長によれば、五日間毎日するらしい。


「明日負けるなよ」


 マルコが励ましに似たプレッシャーをかけてくる。


「マルコこそな」


 俺は、副会長と。マルコはザッコと。


 楽しいっていうのは理解ができない。

 けど、マルコとの試合を想像すると、どうしても心が踊る。

 きっとこれが楽しみっていう感情で、マルコとの試合はきっと楽しいのだろう。


 俺は明日の試合に静かに闘志を燃やしていた。


 


 

 





 


 

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