魔族

「『魔物召喚』」


 あれは、無属性魔法?


 地面に黒いモヤがかかり、十数匹の魔物が現れる。

 犬みたいな。


『うわ〜出たよ「魔族」』


『最悪なんだけど』


 ああ、そういうことね。


 あれは、俺じゃなくて先輩にってことか。


 だから、『ごめんね!』だったんだ。


 まあ、どうでもいいけどね。


 ただ、少しだけ不愉快だ。


「『炎の魔物、魔力10000』」


 燃え上がる炎がうごめき、先輩の出した魔物へと形を変える。


「フィンくん?!」


 先輩が驚いたように声を上げる。


『はあ?アイツも「魔族」だったのかよ』


『生徒会にはまともな奴いないわけ?』


「フィンくん止めないと、君までまきぞ――」


「先輩。俺は気にしませんので」


 俺は再度同じ言葉を伝える。


 いつだって、どこにだって不愉快な人間はいる。俺のことを不愉快に思っている人もいるだろう。


 だから、俺は他人から何か言われても気にしない。

 でも、先輩は傷ついていた。


 それに気づいたら勝手に身体が動いていた。

 はあ〜、こうしてまた評判を落として友だちができる可能性を減らしていく。


 最も人をバカにするような友だちはいらないけど。


「……ありがとう、フィンくん。よし!行けえ!」


 先輩の命令に従い、魔物が一斉に俺の方に。


「行け」


 俺の炎の魔物も前進する。


 二つの勢力がぶつかりせめぎ合う。


 少し、俺が押されているか。

 俺は一体一体操作しているのに対して、先輩の魔物は全てオートだから。


(『ストック1、魔力10000』)


 炎龍。


 大丈夫。コイツはオートだ。


「焼き尽くせ」


 炎龍が先輩の魔物に向かう。


「『魔物召喚』」


 ……マジかよ。


 地面に大きなモヤがかかる。


 漆黒の翼。金色の瞳。鋭利な牙。


 現れたのは、ドラゴンだった。


「行くよ、フィンくん」


 『魔物召喚』って実在する魔物を召喚するんでしょ?しかも、自分の呼びたいやつ。

 チートじゃね?


 たぶん、召喚する魔物が強くなるほど消費魔力が多くなるんだろう。でも、それくらいしか弱点が見当たらない。


 いや、それは普通の魔法も同じだから弱点とすら言わないかも。


 魔力がある限り、自分の指示に従う魔物を呼び出すことができる。


 これは、勝てねえわ。いや、もともと勝てるとか思ってないけどね。


「参り――」


 待てよ。ここで負けたら先輩が目立って、さらに悪評が広がるかも。


(『風龍、魔力10000』)


 勝たせてもらいます。俺の魔法チートをもって。


「行け」


 二体の龍がドラゴンに襲いかかる。


 風龍が暴風を吐き散らし、炎龍の纏う炎を湧き立たせる。


『ギシャアァァァッ』


 身を焦がすような高熱にドラゴンが暴れる。


 よし、行ける!

 あ、フラグ……。


『ギャアッ』


 ドラゴンの口から光線が飛び出す。


「……やば」


 俺の龍が一瞬で消滅したんだけど。


(『ストック1、五体、魔力50000。風龍、五体、魔力50000』)


 炎龍、風龍、それぞれ五体ずつ。

 計十体。これで行けるか?


 てか、行けないともう無理だよ。

 魔物縛りキツ過ぎ。奥義使いたい。



◆◇◆◇◆◇



「ああ〜、私の負けだよフィンくん!」


 あ、あぶねぇええ!

 ほ、本当にギリギリだった。もう、魔力ねえよ!


 というかドラゴンに勝ってしまうあたり本当にチートだな、俺の魔法は。普通じゃねぇな。まあここでは普通じゃねぇのが普通だからいいや。


「……先輩、少し話しいいですか?」


 聞きたいことがあった。


 先輩の魔法はどう考えても冒険者向きではない。

 むしろ、禁忌に近いはず。いつか、命を狙われるかもしれない。

 なのに、何故冒険者を目指すのか。


「……いいよ。フィンくんには助けてもらったし」


 先輩は、いつもの元気な様子が失せて儚げな雰囲気を纏っていた。



◆◇◆◇◆◇



「私が冒険者を目指す理由?それはね、カッコいいからだよ!ほら、命懸けで冒険するのってカッコいいでしょ?!」


 いつもの元気な先輩に戻った。


 でも、それは先輩のつけている仮面。この話も嘘か。


「そうですね。時間取らせてしまってすみません。ライラ先輩」


 いつか、本当の理由が聞けたらいいな。


「また、聞かせてください」


「うん、いつかね。絶対」


 ライラ先輩の儚げな声が背中越しに聞こえた。


 ライラ先輩を悪く言うような奴はこれからもいるだろう。

 その度にライラ先輩は傷ついていく。

 

 どうかしてあげたいな。


 何もできないのに俺はそんなことを思った。

 

 


 

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