つくす孫

――過去に何かがあった「おちち」。


――大事にしてあげなくては!


小学生の私は、祖母を大事にしようという使命感にかられておりました。今にして思うと洗脳というか、うまく誘導されてただけなんですが。

一緒に出かけるときは、祖母に荷物を持たせるなんてとんでもない! 私は祖母のハンドバッグを持ち、買い物袋も持ち、もちろん自分の荷物も持ち、夏であれば祖母の日傘も持ち、「今日は暑いわねえ」と言われれば、飲み物をご所望だと察し、荷物を抱えたまま自販機に走っていってミネラルウォーターを買ってきて、「あら、これは冷たすぎるわ。常温の水が良かったのに」と文句を言われ、飲み残しのペットボトルも持たされ、それでも、おばあちゃんのおちちは大変な病気をして、今も後遺症で苦しんでいるのだからしかたがないと思って尽くしておりました。


私だけでなく、2歳年下のいとこのユリちゃんも、祖母の胸に負担をかけないよう料理を手伝ったり、抱きつくときも胸に当たらないように配慮したり、いつも祖母の左胸を気にかけていました。


敬老の日でもないのに、日ごろから「おばあちゃん、元気でいてね。ずっと長生きしてね」と私たちは祖母に懇願し、すると祖母は「そうね、長生きできたらいいけど……ねえ……」と言って意味深にため息をつき、左胸を押さえるのでした。



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