第4話 記憶を確かめる
「…だ、大丈夫ですか?」
ケイさんの心配する声でやっと我に返った。
「すみません…。昔のことを…思い出してしまって…。」
「……昔のこと、ですか?」
「…あれー? ケイさんは心が読めるんじゃないんでしたっけ?」
私は元気のない声でふざけたように言った。
でもケイさんは私がばかにしたのを気にもとめず、心配そうに見つめた。
「僕も集中しているときにしかわからないので…。それよりも本当に大丈夫ですか? すごく元気のないように聞こえるのですが……。」
「…! だ、大丈夫です…!」
私はこんなに心配されているのが逆に怖くなってケイさんから少し離れた。
私にケイさんも驚いたのか不思議そうにしていた。
「…あ、すみません。お節介…でしたかね。ごめんなさい。」
そしてケイさんは今までにないくらい悲しそうな顔をすると少しうつむいた。
私はそんなケイさんにあわてて駆け寄る。
「ち、違うんです…! お節介だったとかそんなのじゃなくて、ただ私はこんなに心配されるのは久しぶりで…!」
「はは。そうでしたか……。お節介じゃなくてよかったです。……でも、久しぶりということはいじめばっかりだった人生にもそう心配してくださる方がいたんですね?」
ケイさんに言い当てられ私は少し言葉が詰まる。
「…あ、えっと…。その………」
「隠さなくてもいいですよ。別に言いふらすわけじゃありませんし。」
でも、いえないのが当たり前。
優斗の時だって、言いふらさないのはわかってるのに心配をかけたくないがために言えない。今も同じ状況に置かれている。
…でも今は今で、変わったことがあったんじゃないのかな。
………いや、あるんだよ。いま私の中にある「存在しないとても幸せな日常を送った私」という記憶。
記憶の中の私が走り回って、親友であろう女の子と一緒に笑いあう。
この記憶があるから私はこのさき生きていこうって決めたんじゃない。
だから勇気を出して言わないと。
「……私、昔仲の良かった男の子がいたんですよ。優斗っていって、何でもできて優しい友達でした。」
「友達が、いたんですね………」
ケイさんは安心したようなほほえみを向けていた。
「でもある日、帰らないと親に怒られるからって言って帰ろうとしたんですけど優斗が『また何かされるんじゃないのか』って…。……でも私そのときあれを話せる勇気がなくて必死にごまかして帰りました………。そしたらそれ以来優斗は私の前から忽然と姿を消したんですよ。………なんでだと思いますか?」
「…さすがにあなたのことを避けているとは思えませんね。……なんとか思いだせませんか?」
「無理ですよそんなの…。だってさっきもらった記憶もあるし…」
「…おや。さっきの記憶はあんまり役に立たなかったですね。まぁあなたの自殺を免れる唯一の支えとなってくれればいいですけど。」
「役に立たなかったなんてことはないですよ。……まぁちょっととりあえずいなくなった理由を思い出すために頑張ってみます。」
私は記憶の最後のところから一つ一つ記憶を確かめていく。
記憶をたどって、優斗に何があったのかを思い出すために。
そして…、やっと思い出したんだ。
その記憶を思い出した私は、深く罪悪感を覚える。
そして、恐怖に襲われた。
「…あ……あの時…優斗は…。」
「…思い出したんですか?」
あの時優斗は…、自殺しちゃったんだ……。
その時に遺書が残してあって……。わたし宛のものが。
『恵美へ。
助けてあげられなくてごめんな。でも俺は恵美を助けたかった。
結局考えた結果これしか浮かばなくて…。
だって恵美は俺と遊んだ次の日は絶対に悲しい顔してるよな。
…あれ、俺と遊んだせいで親にまた虐待まがいのことをされてたんじゃないのか? 違うんだったらこんなことしてごめん。でもさ、これでいいと思うんだよ。こうすればきっとクラスでのいじめも少しは軽くなるんじゃないか?
他人事だな。ごめん。
クラスの奴らが恵美をいじめてた理由って友達がいるのが生意気とかだろ? この前ちょっと聞いちゃって…。くだらないよな。
でもこれいじめもなくなると思う。
これでいじめの悲惨さを知ってほしい。
ごめん。
さっきからずっと他人事で恵美のことちゃんと考えられてなかったかもな。ほんとにいい選択だったかはわからない。だけど俺は恵美が幸せになってくれる何でもする。だからまだいじめられるようだったらあいつらにこう言ってやってくれ。「優斗が私のことを守ってくれるからあんたたちのいじめなんか絶対に真に受けてやらないから」って言ってやれ。死んだ奴からのじゃないと説得力ないだろ? 俺は幽霊になっても必ず恵美を守るから。
今更だけど死ぬのって怖いのかな。
痛いのはちょっとやだな。
まぁ…勇気を出せばそれで終わりなんだから頑張るぜ俺も。
絶対助ける。
がんばれ。
優斗より』
全部憶えてる…。
遺書の内容まで全部……思い出した。
「ケイ…さん……。」
「…無理はしなくていいですよ。話さなくても大丈夫です。」
さっきの時の反応を知ってケイさんはすごく気を使った言葉をかけてくれた。
「…なんか、話したい気分なので話します。」
私は泣きそうになっている目まじめな顔でそういった。
そして、全部話す。
「…話してくれてありがとうございます。そこで僕から提案があるんですよ。」
「提案……ですか?」
「はい。それはですね……」
私は生唾を飲み込んだ。
そしてケイさんがゆっくりと口を開く。
「死者の世界へ行ってみませんか?」
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