第3話 昔の記憶

もらった記憶が邪魔して全く思い出せない。


「どうかしましたか?」


ケイさんが私を心配そうに見つめていた。

私は思い出そうとするのにただ首を横に振るだけだった。


なんだっけ。

思い出したいのに思い出せない。

きっとすごく大事な記憶のはず。大切な人と一緒に過ごした大切な記憶。

……なんで思い出せないの。これは忘れちゃいけないことのはず…。

するとその瞬間心の中から何かがはじけた音がしたような気がした。



「お前ってさー、何でもっと堂々としないんだよ? もっと堂々としてりゃ、俺みたいに強くなれるんだぜ。」

「…私には無理だよ。誰も仲良くしてくれないし……。ずっと一人だよ。」

「なにいってんだ。俺がいるだろ~。とぼけても無駄なんだからなー? あ、そうだ、あの丘の上行こうぜー。」

「……うん、そう…だね。」


彼の名は『宮谷優斗』。

私の幼馴染。優斗はいつも嫌われ者の私と一緒にいてくれて、優しくて、頼りになるいいやつだった。そして優斗だけが私の心の支え。


「恵美ぃ~…! 早くこっち来いよーー!」

「ご、ごめん…!今行く!」


私は優斗にも聞こえるくらい、身に合わない大声で叫ぶとダッシュで丘を登っていく。



「おせぇよ恵美~。待ちくたびれたぜ…。」

「うそ、そんな待ってないでしょ…。ダッシュで登ってきたんだから。」

「…知ってるよ、そんくらい。ただ言ってみただけ。」


優斗は私から目をそらして馬鹿にしたような顔をしていた。


「…なにそれ、馬鹿にしないでよ。」

「……違うよ、別にからかったわけじゃなくってさ。なんか恵美がからかってほしそうな顔してたから」

「からかってほしそうな顔って何よ…。結局からかってるじゃん~!」

「…ごめんって。」


そのあとわたしはすねくれて優斗と気まずい空気になって帰った。



次の日


「あの…さ。昨日はごめんな。悪気があったわけじゃないから許してくれ…。」

「……。」

「いいか?」

「……何のこと?」

「は…?」


優斗は素っ頓狂な声を出すが私は全く覚えていなかった。


「私、なんかやったっけ。…ごめん、覚えてない…。」


私はいつもこういうこともすぐに忘れてしまうところがあって鶏みたいって言われたこともあったなぁ。

たまに覚えてることもあるけどほんのごくたまに。


さすがの優斗も昨日のことを忘れるとは思っていなかったらしくその場で硬直していた。


「昨日のことも忘れてんのかよ…。さすがに昨日のことは根に持つかと思ってた。さすがすごい記憶力だな。」


優斗が笑う。

私もこれがおかしくってつられてわらった。


「あっはは、馬鹿にしてんのかほめてんのかどっちなの~…!」

「どっちでも意味は変わんねぇよ~」

「……あ、ほらまたそうやってぇ~」

「ごめんごめん! 今日は許してくれ!」

「…もう。しょうがないんだから。」


私は仕方なく許したが機嫌が悪けりゃずっとすねくれて優斗とは口もきかったんだろう。

そして私はあることを思い出す。


「……あ、ごめん。私帰らないとお母さんとお父さんに怒られるから…。…じゃあね。」


時計はもう5時を回っていた。

私の両親は5時半には帰らなければいけないという決まりがあり決まりを破れば…たぶん、大変なことになる……。

だから、早く帰らなきゃ…!

すると優斗が焦っている私をよびとめた。


「また…親に何かされるのか?」

「………。」


なるべく優斗とは両親の話をしたくなかった。

優斗も私の家の事情は知っているらしいけど、別に何かやれるほどの年齢でもない。

私は黙り込んだ。


「…ごめん、帰る。」

「なんで…言ってくれないんだよ?」

「…。」


私黙ってその場を駆け足で去った。


…ごめん優斗、これだけは話したくないの。



これ以来、優斗とは会えなかった。


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