第47話 二次試験前哨戦 その1
一次試験の翌日の朝。受験者達は朝食をとるために食堂を訪れていた。その中でアルトはお目当ての二人を見つけ、食事に同席していた。
「ボルト先輩とエリィさんはチームを組んでるんだね」
「おうよ。そう言うお前はルームメイトと組んでんだろ?」
「あっ、やっぱり知ってますか」
「お噂はかねがね伺っておりますわ。それで、あなたは偵察に来たと見ていいですわね?」
「……そーかな?」
「目が泳いでますわよ」
正直者なアルトに腹芸などできるわけもなく目的を一瞬で見破られた。彼はもう無駄だと悟り、変に情報を聞き出そうとするのをやめて普通に食事をすることにした。
「降参です……」
「今は食事を楽しみましょう。アルト先輩。どの道私が以前に二次試験に出た時のログも、ボルト先輩が陸上の大会に出ている映像もありますから情報は筒抜けなんですけどね」
「あっ、そうなの?じゃあなんでシアンは僕に偵察に行かせたんだろ」
「いたら邪魔だからじゃないですの?」
「うっ、やっぱそうかぁ」
「適材適所!役に立てるところで頑張ろうアルト少年!」
「……私も偵察の時はこの人置いて行こ」
エリィは脳筋先輩を心の内で戦力外と置き、他チームの偵察と残りメンバーをどうするかについて思案を始めた。
○○○
一方、速攻で食事を終えたシアンとザックは二次試験に出そうな受験者を見繕っていた。
「で、どーなんだ」
「まちまちって感じ。魔力が高い子も結構いるけどアルトくんほど飛び抜けた子はいないね」
シアンは魔眼を使って受験者の魔力を眺めていた。全員が第二級魔術師というだけあって平均的に魔力が高い。
「やっぱ仮想戦闘室で目立ってるやつ探すか?」
「そうだね。そろそろ食べ終わった人がそっちに流れる頃だろうし……ん?」
「どうした」
「面白いの見つけたかも」
シアンは食堂の受け取り口に好奇の目を向けて笑った。
○○○
「絶対やめた方がいいって!お金の無駄だって!」
「止めないでくれたまえヒロトくん!一回だけだから、一回やれば僕の好奇心もおさまるから!」
「ただでさえ金欠なんだから普通のもの食べようよ!」
「気にならないのかい!「昔気質の気まぐれシチュー」が!普通の名前のメニューの中で唯一浮いてるアレが!」
「気にならないよ!」
「いいかいヒロトくん!人は好奇心を捨てた瞬間ただの肉人形と化す!僕らは歩みを止めてはいけないんだよ!」
「その好奇心で死ぬのが先だよバカ!」
食堂の前で男二人が馬鹿みたいに騒いで目立っている。その様子を少し遠巻きからシアンとザックは眺めていた。
「……面白いってそういう方向か?」
「アレも面白いけどそうじゃないよ。暴走を止めてる方の子から怪しい魔力の動きを感じてね。それに、三人で組んでるっぽいし」
「え、馬鹿やってるのは二人だけだろ」
「近くにいる小さな女の子。列に並んでるのに不自然に後ろを向いてるよね。恥ずかしいから他人のふりをしてるんだよ」
シアンが指差した方を見ると、行列の中で不自然に後ろを向きながらも、たまに気になってチラチラ二人の方を見ている金髪の少女がいた。
「かわいそうに……」
「じゃあ行こうか」
「アレに絡んだら俺らも目立っちまうだろ」
「構わないさ。派手に行こう」
謎に自信ありげにシアンが前に進み、ザックはその後ろをついていく。騒ぐ男二人を囲む人ごみをかき分け、決して誰も触れようとしなかった二人の肩を叩いた。
「やぁ、何をそんなに騒いでいるんだい?」
「見てわからないかい。これは」
学生服を着ている暴走していた方の青年は急に顔色が変わり、シアンの目に向かって手刀を放った。シアンはそれをギリギリで避けて間合いをとった。彼の瞳の色は咄嗟に行動したせいでスカイブルーから元のグレーに戻っていた。
「魔力の覗き見は感心しないね」
「他人に迷惑かける君に言われたくないな」
先程までのおふざけムードは消え失せ、二人の間に一触即発の空気が流れ始めた。ザックはシアンの魔眼を見破った青年への警戒をし、ヒロトと呼ばれていた青年は状況の変化に戸惑っていた。
「ちょっと、いきなりどうしたの」
「彼は魔眼持ちだよ。多分僕らの魔力はバレてる」
慌てるヒロトを後ろに下げて青年は矢面に立った。シアンはフッと鼻を鳴らし、学生服の青年に語りかけた。
「よくこれが魔眼だってわかったね。僕の元の瞳の色がスカイブルーだとは思わなかったのかい?」
「君は不自然に目を大きく見開いていた。そんなふうに目に意識的に力を加えるのは魔眼持ち以外ありえない」
「意外とバレないからいけると思ったんだけどね。やっぱ分かる人にはわかるか」
シアンは魔眼のことがバレたのにも関わらず余裕を崩さない。一つは目的である受験者の魔力は既に見終わっているから。そしてもう一つはシアンの魔眼のスペックは完全にはバレていないからだ。
魔眼と一口に言ってもその能力は多様だ。一番多いのは魔力量を見られるものだが、シアンの魔眼はそれに加えて魔力の質と流れを見ることができる。
特に魔力の流れを見るというのが強力で、それを見れば相手が魔法を使ってくるタイミングや、何を使おうとしているかの大体の予測ができる。戦闘で使うのは魔力の流れを見る能力のため、これさえバレなければ二次試験に影響はない。
「それで何のようかな。僕の迷惑行為を止めるためだけに来たわけじゃないでしょ」
(迷惑だって自覚あるならやめてよ……)
朝食もとれないままよく分からないことになったヒロトは心の中でそう思った。
「隣のたしか……ヒロトくんだっけ。その子に少し興味が湧いてね。仮想戦闘室でうちのザックと手合わせして欲しいんだ」
「えっ」
「えっ」
「ほう、ヒロトくんか。それはお目が高い。雰囲気的に君も二次試験に上がってきそうだし、その勝負受けて立つよ」
「受けて立つって何!?戦うの僕だよ!?」
「お前が売った喧嘩を俺にやらせんじゃねぇよ!」
レスバをしていた二人にいつの間にか売られていたザックとヒロトはすぐさま抗議した。
「いやいや、僕ら仲間じゃん。じゃあ僕が売った喧嘩は、僕らの喧嘩ってことじゃん」
「お前な……まぁいい。俺も自分の力が二次試験レベルに通用するか試したかったからな」
ザックはシアンの無茶に慣れているからすぐに収まった。どうやらヒロトも丸め込まれたらしく、同時に四人が向き合った。
「勝負する気になってくれたかな」
「もちろん。でもその前に一ついいかな?」
「なんだい?」
「朝ごはん奢ってくれないかな。お金少なくてさ」
「そのくらい朝飯前さ」
「僕らは本当に朝飯前だけどね」
『ハッハッハー!』
似たもの同士で波長が合うのか、うまくもない洒落を言い合って笑っている。
「お互い苦労するな」
「はは……」
ザックとヒロトもも似たような匂いを感じたらしく、この後戦うのにも関わらず仲良く並んでお騒がせな二人を追いかけた。
ちょこっと裏設定
「魔眼について」
魔眼とはこの世界の人間が先天的に得られる不思議な力を持った目のこと。確率的には一万人に1人くらいで、それなりにポピュラーな概念だ。
発動条件は本人が魔眼を使うという意思を持った上で目に力を入れること。使用時は瞳の色が変わる(変わる色は人それぞれ)。能力も人それぞれだが、その多くはあったら少し便利という程度のものだ。
シアンの「魔力の量、質、流れ」を見るという能力ですら魔眼の中では大当たりの部類だ。
魔法医学において研究対象で、後天的に魔眼を使えるようにする研究や、能力を強くする研究が行われている。
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