第30話 戦いの後

 戦闘時間はわずか十数分程度。しかし、その戦いは平和だった山の森に大きな爪痕を残した。無数の倒木、禿げて剥き出しになった大地、これが元の姿に戻るためにはいったい何十年必要なのだろうか。そして、朝日が顔を出した頃、孤児院では懸命に戦い傷ついた少年たちがベッドで寝かされていた。


「アルト、まだ目を覚さないのか」

「命に別状はないから安心して。腕の骨もちゃんとくっついたし、一週間後には元気になるよ」


 隣のベッドで眠っているアルトを見て、悲しそうにしているザックをアイリスが慰めた。怪我をした三人には回復魔法が使えるアイリスが治療に当たっていた。アルトとザックは重傷だったものの、すぐにラピスが回収して孤児院に運んだのでなんとかなった。シアンは軽傷だったため、軽く自然治癒を促進する魔法をかけてもらった後、自分で医薬品で手当てをした。


「アルト君が目を覚ましたらメアリちゃんのとこ連れて行こうか。多分そっちの方が治りがはやい」

「そうだな。まぁ、アルトは怒られるだろうけど」

「いいじゃないか。アルト君にとっても、彼女に自分の決意を伝える良い機会になるだろうし」


 部屋に置いてある花瓶の花を弄りながら、シアンはアルトをチラリと見た。アルトは規則正しい寝息を立てて眠っており、その姿は眠り姫と形容できるほど可愛らしかった。


「あぁ、そういえばそのために来たんだったな。あのバケモンが来たせいで頭から飛んでた」

「よしてくれよ。力だけじゃなく頭も弱くなるなんて」

「うっせぇよ」

「……あまり怒らないね。どうかしたのかい?」

「こっちにも色々あんだよ。ってか、怒るってわかってんなら言うんじゃねぇ!」

「ははっ、すまないねぇ」

(シアンにもこうやってなんでも言い合える友達ができたんだ……なんか安心した)


 やいのやいのと言い合う二人を、アイリスは微笑ましいと思って見守っていた。


 一方、ブルーは騒ぎを聞きつけて麓からやってきたマイク達に事情を話していた。


「特級悪魔が二体、しかも片方は地獄変のナックル……なんかいきなり凄いことになっちゃってる。でも、この惨状を見ると信じざるを得ないですね」

「二体とも何かしら共通の目的があるような口振りでした。少なくとも特級二体が動いてるこの状況、早急に対策を立てるべきです」

「わかってます。ともかく、この件はすぐにタイラーさんに伝えます。あと、ここは危険ですので子供達はしばらく憲兵の本部で保護させてもらいます」

「分かりました」


 そんな感じで事後処理が終わり、マイクが報告のために無線を取り出した時だった。空から何かが飛んできて、ドンと凄まじい着地音と共に土煙が舞った。そして、その中からタイラーが現れた。


「タイラーさん!?どうして今ここに?」

「話は後だ」


 タイラーは遠慮なくブルーに詰め寄ってこう言った。


「アルトはどこにいる」

「……ナックルとの戦いで怪我して、今は医務室で眠ってます」

「ちっ、そんなことだろうと思ったよ」


 タイラーはそれだけ聞いて孤児院の中に入ろうとしたが、慌てて駆け寄ってきたマイクに止められた。


「ちょっと待ってくださいよ。なんですか、アルト君に何の用があるんですか」

「……あいつには、話しておかなきゃならないことがある。同じ、力を持つ者としてな」

「……わかりました。僕は先に本部に帰ってこの事を報告してきます」


 タイラーの真剣な目を見て納得したのか、マイクはすぐに引き下がった。ブルーもタイラーを止める気はないようで、彼を放って子供達の方は行った。そして、タイラーは孤児院の中の医務室の扉を開け、スヤスヤと眠っているアルトを見つけた。

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