§ 5―3 はじまりへの旅立ち



「あなたが希望を唄う旅人なのかしら」


「希望を唄ったりはしてないが、旅人ではあるかもな」


 アダムが書いたボードの前で、アダムはイヴと2人で話していた。


「あなたが私を殺せずに苦しむ姿を見てたら、アダムも同じように選択するだろうなって思った……。つらい役を押し付けてしまって、ごめんなさい」


「……あなたが謝ることは何もないよ。それどころか、あなたは俺には想像できない苦しみと孤独を抱えているはず。もし、タイムリープが上手くいかなかったとしても、おれがきみを必ず地球まで連れていくよ。きっと手段はあるはずだ」


 イヴは、こっちを見て、アダム=ニールセスクの面影を持つ人に対して、まだ影を落とした微笑みを浮かべながら言った。


「ありがとう。やっぱり、あなたは希望を唄う旅人よ」




   ♦   ♦   ♦   ♦




 ソフィートがDVR端末の改良を終え戻ってくると、アダムとイヴをコントロールルームに連れて行った。


「こちらで、重力制御装置を98%まで稼働させ、イヴ様の記憶データを圧縮し、モノポール反転と同時に超光速光子通信を行います。過去のアダム様が傷を負う前のイヴ様のマイクロチップに送信され、今の意識のまま、当時に戻ることになります。それでは、イヴ様。こちらの装置を頭に着けてください」


 座っているイヴの頭に、ソフィートがDVR端末をしっかり装着させる。イヴは特に表情を変えていなかった。


「それでは、早速始めます」


 ソフィートはそう言い終えると、コントロールパネルを操作しだした。目の前に映し出されている重力制御装置の稼働を表しているであろう画像の数値がゆっくりと大きくなっていく。それに伴い宇宙艦が揺れ始める。


「おい。大丈夫なのか?」


「艦の耐久度の限界値ギリギリですが、計算上大丈夫です」


 淡々とそう言うソフィートとは対照的に、アダムは焦りだす。


 揺れは次第に大きくなっていき、何かのトラブルを表しているであろうアラーム音が鳴りだす。アダムは必死にイヴが倒れないように支える。


「このままじゃ、艦が壊れるぞ!」


「多少の損傷は予測しています」


 さらに揺れは大きくなっていき、映し出されている多くのディスプレイが赤くなり、異常を伝えている。そんな中でも、イヴの表情は何も変わっていない。


「おい! まだなのか!」


「出力はまだ92%です。もう少し……」


 計器類が振り切り、ところどころから煙が噴出し、放電現象まで起こし出す。


「これ以上は無理だ! 止めるんだ!」


 そのとき、ソフィートと腕が動く。


「後3秒……2……1……。いきます」


 そう言ってパネルを押すと、イヴは激しい頭痛に「ウッ」と唸り、意識を失った……


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