§ 4―6 絶望のはじまり
緊急発進後、4023年後。
フワフワする……。意識が
ゆっくりと目を開ける。
コールドスリープ装置の蓋が開き、そこにいたソフィートが話し掛ける。
「おはようございます。イヴ様。お気分はいかがですか?」
「う……。あなたは? 私?」
「私は、イヴ・ナンバーズ・ソフィートです」
「イヴ・ナンバーズ?」
「はい」
そう言う彼女は、微笑んでいる。左耳の白いイヤリングが目につく。
「あぁ。アダムがあなたにつけた名前ね」
「はい。マスターにつけていただきました」
アダムはまだ変えてないのね。後で、文句を言ってあげなきゃ。
「それで、アダムはどこにいるの? 呼んできてもらっていい」
「マスターは亡くなりました」
「亡くなった?」
「はい。決まりのどおり、マスターの死体は、コールドスリープしてあります」
「マスターって、誰のこと? アダムのことを呼んできてほしいのよ」
「マスターはアダム様です」
ここでイヴのぼんやりとした意識がはっきりした。
「アダムがマスター……。亡くなった? 死んだってこと!」
「その通りです。イヴ様」
それを聞いた途端、イヴは立ち上がろうとするが、身体が思うように動かない。必死に上体を起こし、周りを見ると、調査艦ヘセドのコールドスリープルームであることを理解する。
「ねぇ、アダムに会わせて。早く!」
「かしこまりました。イヴ様」
ソフィートは、1つ横のコールドスリープ装置のパネルを操作すると、壁からゆっくりスライドして出てくる。イヴは必死に上体を乗り出し、そのまま装置から出て、
装置の上面から、透明のケース越しに、アダムが液体の中で揺らめいていた。
「アダム? 死んでなんていないんでしょ? 眠ってるだけなんでしょ? 早く装置を操作してアダムを目覚めさせて」
「目覚めさせることはできません。イヴ様。アダム様は亡くなられています」
「何を言っているの? こうやって寝てるじゃない? いいから早く目覚めさせてよ!」
「目覚めさせることはできません。イヴ様。アダム様は亡くなられています」
「いいから! そんなこと聞いてないの! 早く目覚めさせなさいよ!」
「再度言いますが、目覚めさせることはできません。イヴ様」
「………………」
理解していくのと同時に、涙が流れる。
「アダム……。アダム……。アダム……」
彼の名を呼び続ける。
止まらない涙とともに……。
3時間後、泣き疲れたイヴをソフィートがブリーフィングルームに連れてきて座らせた。
イヴに水を持ってくるが、一口も水は飲まず、机の上に置かれている。
「落ち着かれましたか? イヴ様」
「…………。アダムはどうして死んだの?」
「はい。アダム様は、イヴ様を艦に運ばれたときには、腹部を銃で撃たれてました。その後、イヴ様をコールドスリープさせるよう指示されまして、そのままコックピットへ行き、艦を出港させて、その場で亡くなっていました」
「…………。そう」
イヴはうつろな目のまま、黙り込む。
「報告があります。イヴ様。今、当艦は小隕石の衝突により、エンジントラブルを起こし、メインエンジンに深刻なダメージを受けています。近くの衛星に緊急着陸をしました。メインエンジンの損傷は激しく修理不可能であり、指示を
「…………衛星? ここはどこなの?」
「はい。ケンタウルス座アルファ星A系を超え、宇宙方位、X:32.545度・Y:251.705度・Z:12.312度に4023年ほど標準速度で直進したところです」
「……4023年?」
「はい。航路プランがありませんでしたので、そのまま進行しました」
「……私は、4000年も眠っていたの?」
「そうです。イヴ様」
「……帰れる?」
「メインエンジンの損傷が激しく、現状、修理不可能です。修理できれば、来た航路をそのまま引き返せば戻れます」
「引き返すって、また4000年かけて?」
「そうです。イヴ様」
「……。合わせて8000年じゃ、帰っても私の知らない世界になってるわね。ふふふ」
より深いうつろな目になり、イヴは小さく笑う。
「……アダムもいない。帰ることもできないなんて……」
そのまま、イヴは続ける。
「もういいわ! ねぇ。私を殺してちょうだい」
「それはできません。イヴ様」
「どうして?」
「アダム様から、イヴ様を守れと言われておりますので」
「アダムはもういないの。私の言うことを聞いて!」
「管理者権限がありません。オーダー変更はできません」
「なんでよ! もういない。アダムはいないのよ!」
「申し訳ありません。イヴ様。変更はできません」
「…………。なんでよ……。私は死ぬこともできないの……」
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